第12話

 一方その頃、ヒウンシティのモードストリートでは。
 博士と二人の助手が、フシデの大量移動の原因について調べつつ、避難する市民を誘導していた。
 避難誘導は最近ジムリーダーに就任したマリィとビート。そして調査しているのは、最近ガラル地方の博士になったソニアと、その助手のホップだ。


「皆さま! ご無事で何よりです! 主さまより、言伝を預かっています」
「サニワから? 一体何ね?」


 マリィの言葉に、こんのすけは軽く頷くと首輪につけていた鈴を弄る。すると、ホログラムで少女の姿が映し出された。


「……ソニアたち、ひさしぶり。……フシデたち、怖がってる。きっと、逃げた。……モードストリート、アララギ博士、いる。……一緒、いっぱい、お仕事、進む。……頑張って」


 ホログラムで映し出された彼女は、要件を一方的に伝え終えると、音を立てて消え去った。博士は神妙な顔つきで、立体映像を映し出す機械をじっとを眺めている。


「……うちらがイッシュ地方に来とること、バレとるね」
「サニワの反応を見るに、恐らくバレてますね」
「あーあ、サニワちゃんを驚かせるつもりで来たんだけど……。バレちゃったかぁ」


 若い女性の博士は、たはは……と頭を掻きながら笑って誤魔化した。
 それと同時に、ホップの連れたバイウールーは何かを察知したらしく、ひくりと耳を動かして一定の方向へ顔を向けると、混雑した街中を一目散に駆け出していく。


「めぇえ!」
「おい、どうしたんだ⁉︎」
「もしかして……サニワに何かあったのか!?」
「「何だ(です)って!?」」


 バイウールーの反応を目にしたホップは居ても立ってもいられず、彼はボールを手にすると、慌てて彼についていく。その様子を見たトレーナーは驚愕の声を上げた。


「俺は少しこの場を離れる! サニワが心配なんだぞ‼︎」
「わかったわ。気をつけなさいよ!」


 こんのすけを右肩に乗せ、バイウールーの背に乗ったホップはヒウンシティを突き進んでいくが、ヒウンシティはイッシュ地方屈指の大都会だ。行き止まりに突き当たったり、真反対の方向に出たりとビル群を右往左往しながらも着実に進んでいく。

 やっと目的地まで辿り着くと、ホップたちは不思議な光景を目撃した。
 それは、白髪の少女がフシデの群れをセントラルエリアまで誘導している姿だった。その様はまるで、絵画の風景に瓜二つで。
 現実の光景とは到底思えない、それを目にしたホップは、思わず息を呑んだ。
 しかし、その少女に向けてフシデのヘドロ爆弾が放たれた。かなりのスピードで向かっているため、少女はすぐに気づいたものの躱す暇もない。彼女がまずい、と感じたその時。


「サニワ‼‼」
「ハトーボー、エアカッター!」


 白髪の少女に向かったヘドロ爆弾は、ハトーボーのエアカッターによってぶつかる前に弾け飛ぶ。バイウールーとホップ、そしてこんのすけは安堵の吐息を洩らし、胸を撫でおろした。
 内心安堵の吐息を零し、エアカッターが繰り出された方向へ振り返ると、そこには、シューティーと彼のハトーボーの姿が。サニワはありがとう、と礼を述べて手を振ると、ぷいっとそっぽを向かれるが、耳が赤く染まっている。
 息絶え絶えに白衣を着た助手が、サニワへ声をかけた。


「サニワ、大丈夫か!? 怪我は……!?」
「……ホップ? ひさしぶり」


 淡々とを挨拶を告げるサニワ。それと同時に、デントがジョーイさんとタブンネを連れて戻って来た。


「……ジョーイさん、タブンネ、癒しの波動。……フシデたち、落ち着く、させて」


 タブンネの両手から淡い光が溢れ出すと、興奮状態だったフシデたちの顔が、途端にとろんと緩んでいき、穏やかなそれへと変わっていった。
 これで、先ほどのように恐怖のあまり他者を攻撃することはないだろう。


「それにしても……サニワが連れているポケモン、初めて見たわ」
「神々しいテイストのポケモンだ……。こんな崇高なフレーバーを醸し出すポケモン、見たことがないよ」
「そうだな……。何てポケモンだろう?」
「あぁ、あのポケモンはザシアンとザマゼンタって言うんだ。ガラル地方に伝わる伝説のポケモンだぞ!」


 ホップによる解説をサトシが耳にした途端、ぽとりとポケモン図鑑が地面へ落ちた。その直後、驚愕の声がヒウンシティ中に響き渡ったが、サニワは意にも介さず、フシデたちを誘導していく。
 主人に付き従う騎士のように、二匹のポケモンも彼女の後ろをついて行った。サニワに素直にぞろぞろと付いていくフシデの群れは、まるで深紅の大河のようだ。その異様で神秘的な光景に、アララギ博士を始め、皆が感嘆の吐息を零していた。

 それからかなりの時間が経過し、夕暮れ時。
 無事フシデをセントラルエリアへ集合させ、原因を調査していたアララギ博士たちもそこで合流した。やはりサニワの読み通り、荒野が通常よりも砂嵐が激しいようだ。
 市長から大変満足そうに礼を言われ、サトシたちが笑顔で対応している最中。静かに立ち去ろうとしたシューティーが視界に留まり、サニワは慌てて腕を掴んだ。彼女からは、先ほどまでの狂気や威厳は感じられない。


「……シュー、ティ、さん?」
「なっ、何か用ですか」
「……さっき、ありがと。……サトシたち、ありがと、思ってる」
「別に。僕は何もしてませんよ」
「……シューティーさ、優しい。ハトーボー、ランプラー、いっぱい、好き」
「そうですか」


 面倒そうに相槌を返すシューティ。だが彼の視線は宙を彷徨っており、意識がサニワへ向いていないことが伺い知れる。
 それをサニワが指摘すると、シューティはやや困惑しつつも、最終的には観念したように彼女へ問うた。


「……サニワさん。先ほど貴女が算出した被害……あれは何に基づいたんですか」
「昔、あった。……ずっと、遠い場所、話。ここから、ずっと、ずうっと……遠い」
「昔? そんな話、初めて聞きましたけど……ずっと遠い場所って、一体何処なんですか」
「……内緒、ね」
「それって一体……」
「おーい! サニワー!」


 自分の名前が呼び出され、パッと顔をそちらへ向けるサニワ。彼女は何事もなかったかのように、一目散にその声へ向かっていった。
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