第12話
未曾有の緊急事態に慌てることもなく、サニワは手慣れた様子で、的確かつ迅速に采配を振るっていく。
「デントさまは、ジョーイさまへタブンネの力をお借りするよう伝令を願います。タブンネの癒しの波動で、フシデたちを落ち着かせて欲しいそうです。その間に主さまと、サトシさま、アイリスさま、ジムリーダー殿が、フシデのリーダーを発見次第、交渉予定です」
「わかった! サニワ、気をつけるんだよ」
「では。主さま、御武運を」
「……皆、気をつけて」
リーダーの素質を持つものは、体躯が他のものよりも大きく、群れの周囲を監視できるような高い場所にいることが多い。そのアドバイスを耳にしたアイリスは、木の上に一際大きな体躯をもつフシデを見つけた。
アーティはそれに向かって挑発すると、リーダーのフシデはまんまと挑発に乗り、地面へ飛び降りた。
リーダーのフシデは彼を威嚇し、ヘドロ爆弾を飛ばす。アーティは身を翻して避けたものの、それは背後の建物に直撃して爆発した。
「待て、落ち着くんだフシデ!」
「火炎放射だ!」
「アヌビス! かやのちゃん! 護衛!」
フシデのリーダーへ放たれた火炎放射は、アーティもろとも焼き払わんとする勢いで向かっていく。サニワは彼を押し倒して軌道から逸らし、盾の王と草の騎士がその屈強な身で庇ったため、周囲に引火することはなかった。
サニワはシューティを睨めつける。仮面を被っているかのように、変わらない表情。それからは、憤怒の感情だけが読み取れた。
「……邪魔、やめて。……ここ、風、強い。……街ごと、焼く、するの?」
「ど、どういう事ですか……⁉︎ 説明してくださいチャンピオン!」
訳がわからないとサニワへ問い詰めるシューティ。だが彼女は説明するだけの、語彙力を持ち合わせていなかった。
サニワはサーナイトをボールから出すと、テレパシー能力で言葉を通訳するように指示を出した。主人の指示に従い、頭の中で淡々とした声が響く。
『住民の避難の完了報告は受けていないのだろう? 完了報告を受けてから掃討作戦を開始すべきだ。貴官の目的は何だ? 住民を守るのに、逆に焼き殺してどうする』
「掃討作戦、って……」
『フシデを敵軍と仮定した場合、今回の目的は一機残らずの殲滅だろう? ならば掃討作戦で間違いないと思うのだが。いや、制空権も約束されているし、軍の殲滅より暴徒の鎮圧と言った方が正しいか……?』
「……もっと他の言い方にしてください」
『では無力化としよう。今回はフシデたちの強襲から街や民間人を守るということは変わりない。言い方の違いでしかないから、こだわりはない』
サニワの説明する声が、あまりにも幼過ぎた。幼子が語るには凄惨過ぎる言葉の羅列に、一同は呆然と立ち尽くすだけだ。
一番先に我に返ったアーティが腕を掴む。面倒そうにアーティの腕を薙ぎ払うサニワは、まるで天使の皮を被った悪魔であった。化物は、市街戦をしてはいけない理由を、淡々と述べ始めた。
『良いか? このヒウンシティという場所は、荒野が近いからか風が強い。更にこの摩天楼で発生したビル風で焔が煽られ、火災旋風が発生したら?』
「ヒウンシティが、一気に焼け野原になる……!」
『ご名答。そうなれば、頑丈なビル群とは言えど、一酸化炭素中毒による窒息死は免れない。何よりパニックに陥った群衆の統率を図るのはほぼ不可能。竜巻のように蠢く炎から逃げようとして、川や海に身を投げれば溺死か、はたまた体温を奪われて凍死か……。人的資源の被害は大目に見積もって……大体十万程度か? ヒウンシティの人口がわからんから、何とも言えんな……』
まさかそれほどの被害が出ようとは。近くにいたサトシたちは炎に包まれたヒウンシティを想像し、ぞっとして顔色を青ざめさせる。
それを知ってなお、サニワは追い討ちをかけるかのごとく、無慈悲な言葉を並べ立て続ける。
『あぁ、そうか! 失礼、小官が先ほどまで地下にいたからか、貴官の勧告が聞こえなかったようだ。確かに、誰が誰か見分けがつかない有様になるだろう。また住人もランプラーたちへ攻撃してしまえば、十分に敵と見なすことが可能だな。それを利用して焼き殺してしまえば、敵の殲滅とみなされ問題ない。国際法を解釈し直せば、市街戦も合法化できよう。そこまで考え抜いた戦略だったのだろう? ただ今回ばかりは敵が人間ではない。さすがに死体の見分けがつくと思うが……』
「そんな……そんな、僕はただ」
『何だ、違うのか。てっきり街もフシデも人間も、纏めて丸ごと焼却処分するのかと』
サニワから、一気に殺気が溢れ出す。真紅の瞳は氷よりも冷たい眼だった。まるで、地面を這いつくばる蛆を眺めるかのような、人間らしさをちっとも感じられない、酷薄した眼。
彼のランプラーやアイリスのキバゴは危険を本能的に察知したのか、怯えてボールの中や髪の毛の中へ入っていく。サトシとピカチュウは互いに引っ付き合って暖を取っていた。それほどまでに、彼女の纏う空気はとても冷えきったものだった。
『何はともあれ、戦争なんてするもんじゃない。民間人が巻き込まれるならなおさらだ。札束で殴りあう経済戦争をすべきであって、実弾の飛び交う実戦なんて御免被る』
「……」
一瞬口を噤んだシューティーは目を白黒させサニワを見詰めるが、何も告げず立ち去った。それを見たフシデたちは、サニワに従うつもりなのか、彼女に従う姿勢を見せる。
『……さあ、死にたくなければ付いてこい。収容所へ案内しよう。素直に従ってくれれば、身の安全は保障する。……素直に従ってくれれば、の話だが』
サニワは元の世界の言葉で忠告すると、フシデたちは付き従うように、静かに彼女の後をついて行った。
「デントさまは、ジョーイさまへタブンネの力をお借りするよう伝令を願います。タブンネの癒しの波動で、フシデたちを落ち着かせて欲しいそうです。その間に主さまと、サトシさま、アイリスさま、ジムリーダー殿が、フシデのリーダーを発見次第、交渉予定です」
「わかった! サニワ、気をつけるんだよ」
「では。主さま、御武運を」
「……皆、気をつけて」
リーダーの素質を持つものは、体躯が他のものよりも大きく、群れの周囲を監視できるような高い場所にいることが多い。そのアドバイスを耳にしたアイリスは、木の上に一際大きな体躯をもつフシデを見つけた。
アーティはそれに向かって挑発すると、リーダーのフシデはまんまと挑発に乗り、地面へ飛び降りた。
リーダーのフシデは彼を威嚇し、ヘドロ爆弾を飛ばす。アーティは身を翻して避けたものの、それは背後の建物に直撃して爆発した。
「待て、落ち着くんだフシデ!」
「火炎放射だ!」
「アヌビス! かやのちゃん! 護衛!」
フシデのリーダーへ放たれた火炎放射は、アーティもろとも焼き払わんとする勢いで向かっていく。サニワは彼を押し倒して軌道から逸らし、盾の王と草の騎士がその屈強な身で庇ったため、周囲に引火することはなかった。
サニワはシューティを睨めつける。仮面を被っているかのように、変わらない表情。それからは、憤怒の感情だけが読み取れた。
「……邪魔、やめて。……ここ、風、強い。……街ごと、焼く、するの?」
「ど、どういう事ですか……⁉︎ 説明してくださいチャンピオン!」
訳がわからないとサニワへ問い詰めるシューティ。だが彼女は説明するだけの、語彙力を持ち合わせていなかった。
サニワはサーナイトをボールから出すと、テレパシー能力で言葉を通訳するように指示を出した。主人の指示に従い、頭の中で淡々とした声が響く。
『住民の避難の完了報告は受けていないのだろう? 完了報告を受けてから掃討作戦を開始すべきだ。貴官の目的は何だ? 住民を守るのに、逆に焼き殺してどうする』
「掃討作戦、って……」
『フシデを敵軍と仮定した場合、今回の目的は一機残らずの殲滅だろう? ならば掃討作戦で間違いないと思うのだが。いや、制空権も約束されているし、軍の殲滅より暴徒の鎮圧と言った方が正しいか……?』
「……もっと他の言い方にしてください」
『では無力化としよう。今回はフシデたちの強襲から街や民間人を守るということは変わりない。言い方の違いでしかないから、こだわりはない』
サニワの説明する声が、あまりにも幼過ぎた。幼子が語るには凄惨過ぎる言葉の羅列に、一同は呆然と立ち尽くすだけだ。
一番先に我に返ったアーティが腕を掴む。面倒そうにアーティの腕を薙ぎ払うサニワは、まるで天使の皮を被った悪魔であった。化物は、市街戦をしてはいけない理由を、淡々と述べ始めた。
『良いか? このヒウンシティという場所は、荒野が近いからか風が強い。更にこの摩天楼で発生したビル風で焔が煽られ、火災旋風が発生したら?』
「ヒウンシティが、一気に焼け野原になる……!」
『ご名答。そうなれば、頑丈なビル群とは言えど、一酸化炭素中毒による窒息死は免れない。何よりパニックに陥った群衆の統率を図るのはほぼ不可能。竜巻のように蠢く炎から逃げようとして、川や海に身を投げれば溺死か、はたまた体温を奪われて凍死か……。人的資源の被害は大目に見積もって……大体十万程度か? ヒウンシティの人口がわからんから、何とも言えんな……』
まさかそれほどの被害が出ようとは。近くにいたサトシたちは炎に包まれたヒウンシティを想像し、ぞっとして顔色を青ざめさせる。
それを知ってなお、サニワは追い討ちをかけるかのごとく、無慈悲な言葉を並べ立て続ける。
『あぁ、そうか! 失礼、小官が先ほどまで地下にいたからか、貴官の勧告が聞こえなかったようだ。確かに、誰が誰か見分けがつかない有様になるだろう。また住人もランプラーたちへ攻撃してしまえば、十分に敵と見なすことが可能だな。それを利用して焼き殺してしまえば、敵の殲滅とみなされ問題ない。国際法を解釈し直せば、市街戦も合法化できよう。そこまで考え抜いた戦略だったのだろう? ただ今回ばかりは敵が人間ではない。さすがに死体の見分けがつくと思うが……』
「そんな……そんな、僕はただ」
『何だ、違うのか。てっきり街もフシデも人間も、纏めて丸ごと焼却処分するのかと』
サニワから、一気に殺気が溢れ出す。真紅の瞳は氷よりも冷たい眼だった。まるで、地面を這いつくばる蛆を眺めるかのような、人間らしさをちっとも感じられない、酷薄した眼。
彼のランプラーやアイリスのキバゴは危険を本能的に察知したのか、怯えてボールの中や髪の毛の中へ入っていく。サトシとピカチュウは互いに引っ付き合って暖を取っていた。それほどまでに、彼女の纏う空気はとても冷えきったものだった。
『何はともあれ、戦争なんてするもんじゃない。民間人が巻き込まれるならなおさらだ。札束で殴りあう経済戦争をすべきであって、実弾の飛び交う実戦なんて御免被る』
「……」
一瞬口を噤んだシューティーは目を白黒させサニワを見詰めるが、何も告げず立ち去った。それを見たフシデたちは、サニワに従うつもりなのか、彼女に従う姿勢を見せる。
『……さあ、死にたくなければ付いてこい。収容所へ案内しよう。素直に従ってくれれば、身の安全は保障する。……素直に従ってくれれば、の話だが』
サニワは元の世界の言葉で忠告すると、フシデたちは付き従うように、静かに彼女の後をついて行った。