第12話
アーティからモデルになって欲しいと依頼されたサニワが、共に旅を続けていたサトシたちと一旦別れ、数日が経過した。
今は草木も眠る丑三つ時。夜が死人の如く、静まりかえる。
ヒウンジムで再会したマスタードたちは、一足先にライモンシティへ観光に向かったので、サニワはポケモンセンターの部屋の中で、ただひとり、じっと真っ暗な外の風景を眺めていた。
『主さま……? 如何なさいました?』
『赤色の物体が、街中を埋め尽くす夢……。杞憂だといいんだが……』
『主さまの予感は嫌と言うほど的中いたしますからね……。早速調査に乗り出しますか?』
『いや……今は休んで体力を温存して、調査はアーティさんに協力を要請しよう。まだヒウンシティの全てを見回ったわけではないから』
サニワは自身の抱く蟠 りを押し殺し、再びベッドの中へ潜り込んだ。
そして翌朝。サニワはジムを目指して街中を進む。その道中に、見覚えのある茶色の猫っ毛に、すらりとした長い手足の人物が視界の端に入る。
まさかと思って木の上を見上げているその男性に声をかけると、やはりアーティだった。
どうやら昨晩から虫ポケモンが何かを感じ取ったらしく、不安そうに梢を揺らしている。ちょうどそれについて、ヒウンシティ内を調査したいと申し出た、その時だった。
サトシ・アイリス・デントの三人が、スカイアローブリッジの方向から駆け寄ってきたのだ。つい先ほどヒウンシティに到着したらしい。
事情をサトシたちに伝えると、気合いを十二分に漲っていたサトシはガックリと肩を落とす。かなり落ち込みようが激しいが、今は正直ジム戦どころではない。
「そういえば、大きな災いが訪れる時に虫ポケモンが騒ぐって……」
「あぁ……。虫ポケモンには、人間には感知できない電磁波などを感じ取る能力があると、科学的にも証明されているのさ」
「確かに何か感じるわ……こっちね!」
アイリスはビシッと指差すと、ずんずんと自信満々に歩き始める。
デントを始め、サトシたちは内心半信半疑になりながら彼女の後ろを付いて行く。案の定、アイリスは蔦模様の描かれたシャッターの前で足を止めた。
「……あれぇ?」
「ヒウンアイスの店に出たぞ? しかも閉まってるし」
「ただアイスが食べたかっただけじゃないのか?」
「ちっ……違うわよ!」
男子数名が呆れかえって冷たい視線を容赦なく浴びせる中、サニワはマンホールの先が気になっていた。
下水道なら、ベトベトンやヤブクロンのようなポケモンがいてもおかしくはない。だが、この気配は彼らのそれではないのだ。
訝しげにマンホールの先を見つめるサニワ。彼女の様子に気がついたアーティが近づいた。
「……アーティさま。このマンホールの先には何があるのですか? 主さまが気になっているようです」
「この先かい? 荒野を流れる川まで繋がっているはずだよん。……待てよ? そういえば、以前荒野に住んでいたポケモンがここを伝って移動してきたことがあったな」
そう呟いたアーティは、マンホールの蓋を開けてみようと奮闘するも、元々彼は細身の体型だからか、蓋はビクともしない。デントも協力して蓋を抉じ開けようとしても、全く動く気配がなかった。
サニワが自身の神通力を使用しマンホールを瓦の如く叩き割る。マンホールの蓋は真っ二つには割れなかったものの見事粉々に粉砕され、下へと続く穴が露わになった。
叩き割ったのは自分なのに、なぜかサニワはやや怯えたようにぎゅっとアイリスの服の裾を握る。
「サニワ? どうしたの?」
「……こわい。井戸、みたい」
「井戸が怖いのか?」
サトシの問いにこくん、と頷くサニワ。確かに彼女の世界では播州皿屋敷 などの怪談が伝わっている。
だがサニワは怪異如きで怯えるような性格ではない。実際、シッポウシティジムのデスマスによるお化け騒ぎも、眉一つ動かすこともなく、一切動じていなかった。
「……もどれる?」
「もちろん戻れるわ。ほら、あそこに把手があるでしょ? それを梯子にすれば、簡単に昇り降りできるわよ」
「じゃあ、行く」
「えっちょっサニワ⁉︎」
地上に戻れると知るが否や、サニワは真っ先に穴の中へ飛び降りる。続いて主人を護衛する管狐が、慌てて彼女の後を追いかける。サトシたちも慌てて梯子を降りて行った。
今は草木も眠る丑三つ時。夜が死人の如く、静まりかえる。
ヒウンジムで再会したマスタードたちは、一足先にライモンシティへ観光に向かったので、サニワはポケモンセンターの部屋の中で、ただひとり、じっと真っ暗な外の風景を眺めていた。
『主さま……? 如何なさいました?』
『赤色の物体が、街中を埋め尽くす夢……。杞憂だといいんだが……』
『主さまの予感は嫌と言うほど的中いたしますからね……。早速調査に乗り出しますか?』
『いや……今は休んで体力を温存して、調査はアーティさんに協力を要請しよう。まだヒウンシティの全てを見回ったわけではないから』
サニワは自身の抱く
そして翌朝。サニワはジムを目指して街中を進む。その道中に、見覚えのある茶色の猫っ毛に、すらりとした長い手足の人物が視界の端に入る。
まさかと思って木の上を見上げているその男性に声をかけると、やはりアーティだった。
どうやら昨晩から虫ポケモンが何かを感じ取ったらしく、不安そうに梢を揺らしている。ちょうどそれについて、ヒウンシティ内を調査したいと申し出た、その時だった。
サトシ・アイリス・デントの三人が、スカイアローブリッジの方向から駆け寄ってきたのだ。つい先ほどヒウンシティに到着したらしい。
事情をサトシたちに伝えると、気合いを十二分に漲っていたサトシはガックリと肩を落とす。かなり落ち込みようが激しいが、今は正直ジム戦どころではない。
「そういえば、大きな災いが訪れる時に虫ポケモンが騒ぐって……」
「あぁ……。虫ポケモンには、人間には感知できない電磁波などを感じ取る能力があると、科学的にも証明されているのさ」
「確かに何か感じるわ……こっちね!」
アイリスはビシッと指差すと、ずんずんと自信満々に歩き始める。
デントを始め、サトシたちは内心半信半疑になりながら彼女の後ろを付いて行く。案の定、アイリスは蔦模様の描かれたシャッターの前で足を止めた。
「……あれぇ?」
「ヒウンアイスの店に出たぞ? しかも閉まってるし」
「ただアイスが食べたかっただけじゃないのか?」
「ちっ……違うわよ!」
男子数名が呆れかえって冷たい視線を容赦なく浴びせる中、サニワはマンホールの先が気になっていた。
下水道なら、ベトベトンやヤブクロンのようなポケモンがいてもおかしくはない。だが、この気配は彼らのそれではないのだ。
訝しげにマンホールの先を見つめるサニワ。彼女の様子に気がついたアーティが近づいた。
「……アーティさま。このマンホールの先には何があるのですか? 主さまが気になっているようです」
「この先かい? 荒野を流れる川まで繋がっているはずだよん。……待てよ? そういえば、以前荒野に住んでいたポケモンがここを伝って移動してきたことがあったな」
そう呟いたアーティは、マンホールの蓋を開けてみようと奮闘するも、元々彼は細身の体型だからか、蓋はビクともしない。デントも協力して蓋を抉じ開けようとしても、全く動く気配がなかった。
サニワが自身の神通力を使用しマンホールを瓦の如く叩き割る。マンホールの蓋は真っ二つには割れなかったものの見事粉々に粉砕され、下へと続く穴が露わになった。
叩き割ったのは自分なのに、なぜかサニワはやや怯えたようにぎゅっとアイリスの服の裾を握る。
「サニワ? どうしたの?」
「……こわい。井戸、みたい」
「井戸が怖いのか?」
サトシの問いにこくん、と頷くサニワ。確かに彼女の世界では
だがサニワは怪異如きで怯えるような性格ではない。実際、シッポウシティジムのデスマスによるお化け騒ぎも、眉一つ動かすこともなく、一切動じていなかった。
「……もどれる?」
「もちろん戻れるわ。ほら、あそこに把手があるでしょ? それを梯子にすれば、簡単に昇り降りできるわよ」
「じゃあ、行く」
「えっちょっサニワ⁉︎」
地上に戻れると知るが否や、サニワは真っ先に穴の中へ飛び降りる。続いて主人を護衛する管狐が、慌てて彼女の後を追いかける。サトシたちも慌てて梯子を降りて行った。