第9話

 夕飯の時、ズルッグは皆に惨敗を喫したのが悔しいようで、一人そっぽを向いて食べていた。量は少し減ってはいるので、全く食事をしていないというわけではないらしい。しかし、サニワは心配そうに彼を見つめている。
 サトシはズルッグをボールに戻そうとするも、嫌がっている素振りを見せた。もっと外の世界を見ていたいのか、負けた自分が悔しくて鍛えたいのか、はたまたその両方か。
 彼の言葉を耳にしていないので真偽はわからない。だがサトシは、今夜はズルッグをボールに入れなかった。

 皆がぐっすりと深い眠りに就こうとする頃、サニワとポケモンたちは木陰でズルッグを見守っていた。彼の強くなりたい気持ちはよくわかるが、その気持ちが先走って無茶をしてしまいそうで心配なのである。
 かさりと音がした方向へ視線を向けると、ズルッグが森の中へ駆けていくのが見えた。
 サニワは急いで皆を叩き起こして緊急事態の旨を伝え、自身のポケモンたちへズルッグを追いかけるように指示を出した。

 皆が心配するから一緒に戻ろう、と声を掛けるサニワのポケモンたちの声も聞かず、ズルッグは森の中で一際大きな木に向かって、ひたすら頭突きを繰り返していた。やはり、皆に惨敗したのが相当悔しかったらしい。
 ズルッグは特訓に夢中で気づいていないようだが、キュウコンたちは辺り一面に敵意が充満しているのを感じていた。その敵意は乾いた音を立てながら、草むらや木から落ちてくる。現れたのは電気・虫タイプのポケモン、デンチュラの群れだ。
 恐らく、彼らにとって縄張りに入ってしまったズルッグたちは、安寧を脅かす敵でしかないのだろう。必死に敵ではない、とキュウコンやサーナイトが謝罪し、トゲキッスが暴れるズルッグの皮を口で咥えて行動を制限する。


<待っとくんなまし。わっちらは敵じゃありんせん>
<ズルッグはただ修行をしていただけなのです。許してやってください!>
<お前ら、ここは俺らの縄張りだ! 勝手に入ってくるんじゃねぇよ‼>
<これでも食らえ!>
<ぁ……! 駄目ですわズルッグ!>


 しかしズルッグは静止させていたトゲキッスの口からひょいっと飛び出すと、無謀にもデンチュラたちに挑んでしまった。次々とエレキネットなどの電気技を次々と食らって、麻痺状態に陥ったズルッグは遂に目を回す。
 次は貴様だ、と言わんばかりにエレキネットがトゲキッスに襲い掛かった、その時だった。ツタージャやヤナップたちの放つ技がエレキネットを封殺。幸いトゲキッスに電気技が直撃する事はなかった。
 サトシたちはズルッグを救出するために、敵意を剥き出しにしたデンチュラたちを追い払おうと攻撃指示を出す。しかし、サニワはそれを手で制した。


「……待って」
「えぇ⁉ ズルッグを助けないと! デンチュラの群れを追い払わなきゃ———」
「……いや、その必要はなさそうだよ」


 デンチュラはサニワの姿を一目見ると、先ほどの光景がまるで嘘のように、ぴたりと攻撃の手を止める。そして、長い足を折畳み、頭部を下げる。
 まるで神にひれ伏すかのように。跪くかのように。彼らに警戒心は一切感じられない。

 敵意を削がれたデンチュラは、静かにサニワの行動を見守っていた。力尽きて地面に伏すズルッグをサニワがその腕に抱くと、デンチュラたちは退散していく。
 まるで神の啓示のような、神の起こしたる奇跡の如き光景に、サトシたちは驚きを隠せない。しかし今は瀕死状態のズルッグを治療するのが先決だ。

 攻撃を止めたデンチュラたちへ礼をするように、サニワはその場で深々と一礼すると、踵を返して丘の上へと駆け出した。サトシたちも慌てて彼女の後を追った。
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