第6話
迫り来る甲冑に対し、サトシは自身のパートナーのピカチュウに攻撃の指示を出す。しかし、サニワの方が早かった。
甲冑の鳩尾部分に、サニワの蹴りが炸裂する。勢いよく弾き飛ばされたそれは、ガシャンと大きな音を立てて崩れた。ところが、頭部の鎧だけ宙に浮かび、再びキダチを追いかけ回す。その様は、今も首塚の残る平安時代の武将・平将門 を彷彿とさせた。
兜は踵落としで蹴りとばすと、今度は中から人魂が現れる。サトシが水タイプのポケモンに水鉄砲を指示して鎮火させようとした。
サニワが初めて見るポケモンだったので、そのポケモンにロトムスマホを翳す。どうやらイッシュ地方では最初に選ぶ水タイプのポケモンのようだ。
サトシのミジュマルはサニワを視界に入れた途端、恍惚な表情を浮かべ、べったりと彼女に擦り寄ってきた。まるでメロメロ状態のようなミジュマルの行動に、サトシも困惑気味だ。
ふわふわとキダチを追いかけ回す人魂は、結局こんのすけが狐火で相殺させたものの、今度は助けて欲しそうにサニワがこんのすけを見る。だが彼は首を横に振った。
サトシが引き剥がそうとしてボールへ戻そうにも、すぐに勝手に出てきてしまうからあまり意味がない。
「おいミジュマル、どうしたんだよ!」
「ミジュマルはもしかしたら、サニワさんに一目惚れしたのかもしれないね」
「えっ」
「ポケモンが人間に一目惚れって……そんなことあるの!?」
「……知らない。……どうしよう。助ける、して……」
「助けてって言われても……」
ミジュマルへの対応に戸惑っていると、上から無数の水滴が溢れ出し、更には啜り泣く声が一同の耳に入る。慌ててその声の方向へ足を進めると、秘宝展の展示室に辿り着いた。
現実離れした光景に、サニワとこんのすけを除く一同は思わず言葉を失った。何とショーケースに展示されたデスマスの仮面が、ぽろぽろと涙を流していたのだ。
マスクはショーケースから出ようと、必死にガラスに体当たりするものの、ガラスはびくともしない。
さらに大きな衝撃が必要だとデスマスは考えたのか、カイリューの骨格標本が動きだす。それと同時に、サニワと妖狐の身体がふわりと宙へ浮かんだ。慣れぬ浮遊感に、こんのすけは思わずコャンと悲鳴を上げる。
「ヤナップ、タネマシンガン!」
「いけません! おやめくださいデントさま!」
こんのすけの制止もむなしく、ヤナップは種の弾幕を骨格標本へ放つ。
しかも、そのうち数発が骨格標本に隠れていたデスマスへ当たってしまったので、彼女たちの身体は地面へ落下した。
「とにかく、仮面を返さねば……。キダチさま、ショーケースを開けてください!」
「えぇ!?」
「お願いします!」
キダチがショーケースから仮面を取り出すと、ひとりでにふわりと浮かんで仮面が宙を舞う。これでデスマスも落ち着いてくれるだろう、と思っていたサニワの予想とは反対に、マスクがデントの顔へ張り付いたのだ。
その時、サニワの目に映ったのは、怒り狂ったデスマスが、デントへ取り憑く姿だった。
アイリスとサトシは必死にデントの仮面を引き剥がそうとするも、仮面は力づくで外れず、更にデント自身……否、デスマスによって振り払われてしまった。
仮面を貼りつけながら俯き佇む姿は不気味そのもので、先ほど振り払われたせいもあってかアイリスたちは近づこうとしない。
「デント! 大丈夫か!?」
「……裁きを、受けるがいい!」
デントが両手から出した人魂は、サニワたちのいる方へ向かって飛んでいく。だが、纏わりつく羽虫でも払うかのように、サニワはそれを手の甲で払い退けた。アイリスが驚きの声を上げる。
「サニワ!? 何今の⁉ 大丈夫⁉︎」
「……おそく、なる、した。……ごめん、デスマス」
「デスマスだって⁉︎」
「主さま、危険すぎます! 離れてください!」
デントの背後にいるデスマスに静かに近づくサニワに敵意がないことを感じ取ってくれたのか、デスマスは攻撃せずにいた。
そのままデスマスが大人しく頭を撫でられていると、聞き覚えのある女性の声が届く。
「……さすがだね。あんなに憤っていたデスマスの怒りを鎮めるだなんて」
「ママ!」
パチパチと拍手と称賛を送っているのは、この博物館の館長であり、シッポウシティのジムリーダーであるアロエだ。愛する妻の登場に、副館長のキダチはパァッと表情を輝かせる。
ところがアロエはキダチに対して、眉間にシワを寄せていた。
「それよりもアンタ、そのマスクはどっから持ってきたんだい?」
「え? それは……昨晩、展示品のチェックをしている時に落ちてたんですよ。デスカーンのレプリカをお願いしていたし、きっとサービスで作ってくれたんだろうと思って……」
「そんなわけないだろ!」
「ですよねー……」
「……ごめん、なさい。……キダチさん、意地悪、ちがう。……ゆるして」
片言な言葉ながらも、デスマスは理解してくれたようだ。否、片言だが必死なサニワの言葉だからこそ、理解したのだろう。
デスマスがコクリと頷くとデントの顔から仮面がポトリと剥がれ落ちた。ふらりとバランスを崩し倒れるデントを、咄嗟に支えようとするものの、体格差もあってそのまま押し潰される。
「……う、あれ? 僕は一体……」
「……デント、だいじょぶ?」
「僕は大丈夫だけど……一体何があったんだい?」
「だいじょぶなら……どいて。……おもい」
デントは取り憑かれた間の記憶障害程度で、怪我などは負っていないらしい。サニワは念のために、数回肩を軽くはたいて祓っておいた。
キダチも改めてデスマスに謝罪し、デスマスも大切な仮面が取り戻せたことによって、怪奇現象騒動は無事に幕を下ろした。
外に出る頃にはもう日が昇っていて、朝日が街を照らしている。
「さよなら、デスマス。……気を、つける、して。……キダチさ、いい人。……でも、悪い人も、いっぱい」
デスマスが去り際にサニワへ渡したものは、呪いのお札。触れると強制的に浄化されてしまうためか、サイコキネシスでふわふわと宙を浮かんでいる。
サニワの手がそれに触れた瞬間、弾ける爆発音。煌めきが一瞬で辺りを包み込み、一瞬にして呪いのお札は清めのお札へと変わり果てていた。当の本人は至近距離での爆発で咳き込んでいる。
「けほっ……」
「嘘でしょ!?」
「い、今のは一体何が起きたんだい……?」
一同はギョッと目を白黒させるが、デスマスは渡せたことに満足しているのか、手を振って別れを告げ、ふわりふわりと自分の住処へ帰って行った。
サニワが唖然としているアロエのエプロンの裾を引っ張って注意を引くと、ハッと我に帰ったアロエはサニワの顔を見つめる。
サニワの表情は相変わらずの無表情だったが。
「……アロエさん。……この人、チャレンジャー」
「オレ、サトシっていいます! アロエさん、オレの挑戦を受けてください!」
「あぁ。アンタがどんなバトルを見せてくれるのか、楽しみにしているよ!」
サトシはジム戦の約束を取り付け、デスマス同様ご満悦の様子だ。
アロエはノーマルタイプのジムリーダーでかなり手強い。片言ながらにサニワが教えると逆に燃えてきたようだ。
デントが彼のバトルスタイルに興味を持つくらいなんだ、きっとさぞ面白くて独特なのだろう。よければ彼のジムバトルを見学させて貰おう。彼のジム戦が楽しみだと、こんのすけも尻尾を左右に振っていた。
甲冑の鳩尾部分に、サニワの蹴りが炸裂する。勢いよく弾き飛ばされたそれは、ガシャンと大きな音を立てて崩れた。ところが、頭部の鎧だけ宙に浮かび、再びキダチを追いかけ回す。その様は、今も首塚の残る平安時代の武将・
兜は踵落としで蹴りとばすと、今度は中から人魂が現れる。サトシが水タイプのポケモンに水鉄砲を指示して鎮火させようとした。
サニワが初めて見るポケモンだったので、そのポケモンにロトムスマホを翳す。どうやらイッシュ地方では最初に選ぶ水タイプのポケモンのようだ。
サトシのミジュマルはサニワを視界に入れた途端、恍惚な表情を浮かべ、べったりと彼女に擦り寄ってきた。まるでメロメロ状態のようなミジュマルの行動に、サトシも困惑気味だ。
ふわふわとキダチを追いかけ回す人魂は、結局こんのすけが狐火で相殺させたものの、今度は助けて欲しそうにサニワがこんのすけを見る。だが彼は首を横に振った。
サトシが引き剥がそうとしてボールへ戻そうにも、すぐに勝手に出てきてしまうからあまり意味がない。
「おいミジュマル、どうしたんだよ!」
「ミジュマルはもしかしたら、サニワさんに一目惚れしたのかもしれないね」
「えっ」
「ポケモンが人間に一目惚れって……そんなことあるの!?」
「……知らない。……どうしよう。助ける、して……」
「助けてって言われても……」
ミジュマルへの対応に戸惑っていると、上から無数の水滴が溢れ出し、更には啜り泣く声が一同の耳に入る。慌ててその声の方向へ足を進めると、秘宝展の展示室に辿り着いた。
現実離れした光景に、サニワとこんのすけを除く一同は思わず言葉を失った。何とショーケースに展示されたデスマスの仮面が、ぽろぽろと涙を流していたのだ。
マスクはショーケースから出ようと、必死にガラスに体当たりするものの、ガラスはびくともしない。
さらに大きな衝撃が必要だとデスマスは考えたのか、カイリューの骨格標本が動きだす。それと同時に、サニワと妖狐の身体がふわりと宙へ浮かんだ。慣れぬ浮遊感に、こんのすけは思わずコャンと悲鳴を上げる。
「ヤナップ、タネマシンガン!」
「いけません! おやめくださいデントさま!」
こんのすけの制止もむなしく、ヤナップは種の弾幕を骨格標本へ放つ。
しかも、そのうち数発が骨格標本に隠れていたデスマスへ当たってしまったので、彼女たちの身体は地面へ落下した。
「とにかく、仮面を返さねば……。キダチさま、ショーケースを開けてください!」
「えぇ!?」
「お願いします!」
キダチがショーケースから仮面を取り出すと、ひとりでにふわりと浮かんで仮面が宙を舞う。これでデスマスも落ち着いてくれるだろう、と思っていたサニワの予想とは反対に、マスクがデントの顔へ張り付いたのだ。
その時、サニワの目に映ったのは、怒り狂ったデスマスが、デントへ取り憑く姿だった。
アイリスとサトシは必死にデントの仮面を引き剥がそうとするも、仮面は力づくで外れず、更にデント自身……否、デスマスによって振り払われてしまった。
仮面を貼りつけながら俯き佇む姿は不気味そのもので、先ほど振り払われたせいもあってかアイリスたちは近づこうとしない。
「デント! 大丈夫か!?」
「……裁きを、受けるがいい!」
デントが両手から出した人魂は、サニワたちのいる方へ向かって飛んでいく。だが、纏わりつく羽虫でも払うかのように、サニワはそれを手の甲で払い退けた。アイリスが驚きの声を上げる。
「サニワ!? 何今の⁉ 大丈夫⁉︎」
「……おそく、なる、した。……ごめん、デスマス」
「デスマスだって⁉︎」
「主さま、危険すぎます! 離れてください!」
デントの背後にいるデスマスに静かに近づくサニワに敵意がないことを感じ取ってくれたのか、デスマスは攻撃せずにいた。
そのままデスマスが大人しく頭を撫でられていると、聞き覚えのある女性の声が届く。
「……さすがだね。あんなに憤っていたデスマスの怒りを鎮めるだなんて」
「ママ!」
パチパチと拍手と称賛を送っているのは、この博物館の館長であり、シッポウシティのジムリーダーであるアロエだ。愛する妻の登場に、副館長のキダチはパァッと表情を輝かせる。
ところがアロエはキダチに対して、眉間にシワを寄せていた。
「それよりもアンタ、そのマスクはどっから持ってきたんだい?」
「え? それは……昨晩、展示品のチェックをしている時に落ちてたんですよ。デスカーンのレプリカをお願いしていたし、きっとサービスで作ってくれたんだろうと思って……」
「そんなわけないだろ!」
「ですよねー……」
「……ごめん、なさい。……キダチさん、意地悪、ちがう。……ゆるして」
片言な言葉ながらも、デスマスは理解してくれたようだ。否、片言だが必死なサニワの言葉だからこそ、理解したのだろう。
デスマスがコクリと頷くとデントの顔から仮面がポトリと剥がれ落ちた。ふらりとバランスを崩し倒れるデントを、咄嗟に支えようとするものの、体格差もあってそのまま押し潰される。
「……う、あれ? 僕は一体……」
「……デント、だいじょぶ?」
「僕は大丈夫だけど……一体何があったんだい?」
「だいじょぶなら……どいて。……おもい」
デントは取り憑かれた間の記憶障害程度で、怪我などは負っていないらしい。サニワは念のために、数回肩を軽くはたいて祓っておいた。
キダチも改めてデスマスに謝罪し、デスマスも大切な仮面が取り戻せたことによって、怪奇現象騒動は無事に幕を下ろした。
外に出る頃にはもう日が昇っていて、朝日が街を照らしている。
「さよなら、デスマス。……気を、つける、して。……キダチさ、いい人。……でも、悪い人も、いっぱい」
デスマスが去り際にサニワへ渡したものは、呪いのお札。触れると強制的に浄化されてしまうためか、サイコキネシスでふわふわと宙を浮かんでいる。
サニワの手がそれに触れた瞬間、弾ける爆発音。煌めきが一瞬で辺りを包み込み、一瞬にして呪いのお札は清めのお札へと変わり果てていた。当の本人は至近距離での爆発で咳き込んでいる。
「けほっ……」
「嘘でしょ!?」
「い、今のは一体何が起きたんだい……?」
一同はギョッと目を白黒させるが、デスマスは渡せたことに満足しているのか、手を振って別れを告げ、ふわりふわりと自分の住処へ帰って行った。
サニワが唖然としているアロエのエプロンの裾を引っ張って注意を引くと、ハッと我に帰ったアロエはサニワの顔を見つめる。
サニワの表情は相変わらずの無表情だったが。
「……アロエさん。……この人、チャレンジャー」
「オレ、サトシっていいます! アロエさん、オレの挑戦を受けてください!」
「あぁ。アンタがどんなバトルを見せてくれるのか、楽しみにしているよ!」
サトシはジム戦の約束を取り付け、デスマス同様ご満悦の様子だ。
アロエはノーマルタイプのジムリーダーでかなり手強い。片言ながらにサニワが教えると逆に燃えてきたようだ。
デントが彼のバトルスタイルに興味を持つくらいなんだ、きっとさぞ面白くて独特なのだろう。よければ彼のジムバトルを見学させて貰おう。彼のジム戦が楽しみだと、こんのすけも尻尾を左右に振っていた。