第32話

 頃合いを見計らい、再度ソーラービームが打てるよう試すバオップ。
 既に覚えているヤナップを手本に、バオップも太陽の力を頭の房へ溜めていく。そしてエネルギーが一気に放出された。
 空に向けて放たれた二本の光は、空中でぶつかり合うと、きらきらと眩い光が周囲に降り注ぐ。


「出来たぞバオップ!」
「おっぷっぷ〜!」
「なっぷ!」


 喜びを顕にしたバオップとヤナップはハイタッチを交わして、ソーラービームの成功を祝う。
 努力が実る瞬間は誰しも嬉しいもので、傍らでトレーニングを眺めていたサニワの顔もうっすらと微笑みを湛えていた。


「やったねポッド!」
「あぁ! デントやサトシたちのお陰だぜ!」
「良かったな、凄いぞ!」
「見事なソーラービームだったよ!」
「習得おめでとうございます! ポッドさま、バオップさま!」


 皆が口々に成功を讃える中、サニワは何も言わずに沈黙を貫いていた。だが無口な彼女らしくその手は小さく手を叩き、拍手で祝っている。


「新しい技を覚えたら、他の技をもう一度吟味してみよう。例えばニトロチャージは攻撃のスピードを上げるけど、相手の技を躱すときにも役立つよ」
「なるほど!」
「苦手な防御も相手の攻撃に耐え続けて、その怒りをパワーに変えれば技の威力も上げられるしね!」
「それも納得だぜ! あー! バトルしたくなってきたぞ‼」


 ポッドの雄叫びに反応したのはサトシだ。ジム戦前の腕試しがしたいと、サトシはポッドとのバトルを申し込む。
 早速一同はポケモンセンターのバトルフィールドに移動し、今度はサトシVSポッドの試合が始まる。審判はデントだ。

 ポッドはソーラービームを会得したバオップを、サトシはバオップに相性が有利なミジュマルを繰り出した。


「不利な相手の方が、俺もバオップも燃えるぜ! サトシ、ミジュマルで来い‼」
「あぁ! ミジュマル、行くぞ!」


 先手はバオップの大文字だ。高威力の大文字と、相性不利の水鉄砲が激突し、大量の水蒸気がバトルフィールドを覆う。
 その隙に炎のパンチで果敢に攻めるバオップに、ミジュマルはシェルブレードで迎撃した。バオップはパワーと勢いで相性の悪さをカバーしている。
 今度はニトロチャージを繰り出し、ミジュマルは体当たりで迎え撃つ。しかし力負けしたミジュマルにダメージが入り、更に炎のパンチで追撃され、ミジュマルは弾き飛ばされてしまった。
 しかしミジュマルの闘志はまだ潰えていない。その体勢のままアクアジェットで攻撃するが、ニトロチャージで素早さが上がったバオップに避けられてしまった。


「デントが言ってた通りね! 技を躱すのに活きてる!」


 再びアクアジェットでバオップを狙うも、今度は炎のパンチが激突する。威力は互角で、互いに衝撃で弾き飛ばされた。これには観戦していたアイリスも驚きを隠せずにいる。
 ポッドとバオップの勢いに更に拍車がかかり、技の威力を上げているのだ。


「今度は接近戦でいくぜ! シェルブレード‼」
「受け止めろ!」


 シェルブレードによる連続攻撃を必死に耐えるバオップ。効果抜群の技を耐え続けたバオップの怒りがパワーに変わり、その熱さに気圧されたミジュマルは思わず距離を取る。


「今だ! ソーラービーム‼」
「おーっ……ぷー‼」
「ミジュマル! 躱すんだ‼」


 ソーラービームの勢いとスピードはかなりのもので、ミジュマルは避ける暇もなく直撃し、巨大な黒煙が立ち昇る。効果抜群の大技を受けたミジュマルは目を回して地面に伏せていた。


「ミジュマル戦闘不能! バオップの勝ち! よって勝者、ポッド‼」


 見事バトルで勝利を収めたポッドとバオップは抱き締め合い、勝利の喜びを分かち合う。ヤナップも彼らの勝利に喜んでいた。

 時は太陽が沈む頃。ポッドはジムに戻るため、サトシたちはポケモンセンターの玄関まで見送りに来ていた。


「色々と世話になったな。礼を言うぜ」
「兄弟として、当然のことをしたまでさ」
「ありがとう。……俺、これからジムに戻って、コーンと仲直りするよ」
「それは良かった!」


 デントとポッドが互いに堅い握手を交わす。二人の表情は鬱陶しい雲がひとつもない、晴天のような表情だ。


「……デントはとても良い旅をしているようだな」
「え、そうかい?」
「そうだよ! そんなの、顔をみたら一目瞭然だって。ジムに居たときよりも生き生きしてるぜ! これから先もベストウイッシュ! 良い旅を!」


 サンヨウシティへ向け出発するポッド。夕日に染まる彼の背中を、ヤナップが手を振って別れを告げた。
 彼とは入れ違いに、高そうなスーツを着こなした銀髪の美丈夫がポケモンセンターへ訪れた。ホウエンチャンピオンのダイゴだ。


「サニワちゃん、お待たせ。ヤーコンさんとの商談が終わったよ。明日からジムを再開するみたいだ」
「本当ですか⁉」
「ってことはいよいよ……!」
「ジム戦だ!」


 夜明けの光が見えたのか、サトシはホドモエジムのジム戦に向けて気合いを入れる。その目には灼熱の闘志の炎が燃え盛っていた。
 気合い十分のサトシとは対照的に、別れを察したサニワの顔には、そういうことが持つ、しんとした寂しさが滲み出ていた。


「えぇ⁉ もう行っちゃうのか⁉」
「元々ヤーコンさんがジムを閉めていたのは、ボクとの商談があったからなんだ。ボクはこれからホウエン地方に伝わる伝説について、一度調べ直すつもりだから……サニワちゃんも、ホウエン地方へ連れて行くよ」


 もうしばらく一緒にいられると思っていたアイリスは、がっくりと肩を落とす。しかし元々ダイゴとともに付いて行くと決めた以上、ホドモエシティに滞在していたのはイレギュラーなのだ。


『……貴官らと旅路をともにして、元気を貰えた。歓喜の感情を思い出せた。何より……一緒にいて、本当に楽しかった。本当にありがとう』
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
「サニワ、サンキューな」
「元気でね!」
『今まで本当に世話になったね。……良ければ、これを受け取って欲しい』


 サニワがサトシたちに差し出したのは、人数分のお守り袋。それぞれ異なる香を薫き染めているのか、どれも不思議な、それでいてリラックスできる芳香が鼻を擽る。
 サトシは海のような青色、アイリスは女の子らしい桃色、そしてデントは新緑を思わせるような萌葱色だ。


『自分が作った御守りだ。ちょっとした気休め程度だが……多少の加護はあるだろう』
「サニワも、これでお別れね」
「ちゃんと元の世界に帰れるといいな!」
「ベストウイッシュ! 良い旅を‼」
『……これからの貴方たちの旅路に、幸運があらんことを』


 ダイゴはボールへメタグロスを仕舞うと、サニワは踵を返すこともなく、彼とともにポケモンセンターを後にする。
 夕暮れに染まり、徐々に小さくなっていく人影を見詰めるサトシたち。彼らの心に、ずしりと寂しさが伸し掛かった。
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