第32話

「そうだねぇ……。炎タイプにとって一番警戒すべきは水タイプ。その水タイプにとって効果抜群の草タイプの大技、ソーラービームが良いんじゃないかな?」
「ソーラービームか……。ガラルチャンピオンのお奨めは?」
『小官の信ずるところ、炎タイプのバオップは水タイプだけでなく、岩タイプや地面タイプも警戒すべきだ。岩タイプや地面タイプは比較的重量が大きい。自分は隙が少ない草結びを推奨する」
「草結びって確か……」
「相手のポケモンの体重が重いほど、威力が上がる草タイプの技よ。そんなのも知らないの? 子どもねぇ」
「タイプの技は一緒なんだな!」
『……だが、あくまで自分の提案は仮想敵を倒す目的での提案に過ぎない。戦術面に関しては全く視野に入れていないから、バトルスタイルを考慮すればデントの方が向いているだろう』
「でもさ、やっぱり防御技を覚えた方が良いんじゃない?」


 アイリスの意見ももっともだ。しかしポッドの性格やバトルスタイル上、技構成に防御技や補助技を増やす手段はミスマッチなのだ。


「僕はこう思うんだ。ポッドとバオップの性格を考えた場合、防御技で雑味を出すより、熱くて攻撃的なテイストを更に極めた方が、素敵なフレーバーを醸し出すってね!」
『小官もデントの意見に賛成だ。バオップを始めとした炎ポケモンは、体力面や防御力が低い傾向にある。それを加味すると、防戦するよりも攻撃の手札を増やす方向に舵を切るべきだ。自分もいなりちゃんに悪巧みを覚えさせているが、戦局に余裕があるときにしか使わない』
「その割には結構使ってる気がするけど……」
『特性が日照りだから、水タイプの技が半減するだろう。実質弱点が消えるも同じだ。天候をころころ変える相手は厳しいが』
「そこまで考えてたのか⁉」
『そこまで考慮しないのか……?』


 そこまで考えて技構成を考えていたとは、やはり彼女は生粋の指揮官だ。サトシにアイリス、ポッドは思わずサニワを三度見する。
 つまり攻撃こそ最大の防御とも言えるね。サニワがそう言うと咳払いして話題を戻した。


「さすがポケモンソムリエだぜ! 俺たちのテイストをよくわかっている!」
「でもこれは、サトシやサニワたちと旅をして感じたことなんだ」
「俺たちと旅してて……?」


 きょとんとするサトシに、こてんと小首を傾げるサニワ。二人に微笑みを返すと、デントは肯定の意と理由を語り始めた。


「それ以前の僕は、バランスの良さを重視する傾向があった。色んなタイプの技を覚えて、どんなタイプのポケモンにも対応できるようにするためにね。でもそれだけじゃいけないって気付いたんだ」


 デントの言葉に、ヤナップも首を縦に振って肯定する。パートナーのヤナップの頭を優しく撫でながら、デントは続きを喋り続けた。


「ポケモントレーナー、それぞれの性格、相性、信頼関係。そして、ひとつひとつの技の使い方によって、秘められたテイストを最大限に引き出す! それが、今の僕の結論かな」


 多くのバトル、さまざまな人とポケモンとの絆。それを見て、そして数多くの出逢いを経て、導き出した答え。あのままジムリーダーとして残っていたら、きっとここまで成長することはなかっただろう。
 デントは自らを省みて、修行の成果を発揮できたことに喜びを噛みしめていた。

 ポッドはデントの提案を採択し、バオップにソーラービームを覚えさせることに決めた。サニワが持っていたソーラービームの技レコードは受け取ったものの、二人は自力で習得するつもりでいるらしい。
 サニワはほんの少しだけつまらなさそうにしていたが、特に何も言わずに特訓を見守っていた。傍から見れば相変わらずの仏頂面だったが。


「じゃあ、お日さまのパワーを身体に取り込む練習から始めよう! こうして、心の扉を開いてごらん……」


 リラックスするように、ゆっくりと両手を広げて深呼吸する。
 ポッドとバオップだけでなく、サトシやアイリスも同様に両手を広げた。日光が大敵なアルビノのサニワだけは、日陰でじっとその様子を眺めている。


「草や木の声が聞こえてこないかい?」
「そんなもん、聞こえてこないぞ」
「心を開けば聞こえるはずだよ」


 木々の囁き、草が風に靡く音。優しい穏やかで、やわらかな自然の音が、サトシたちの耳元を掠めていく。
 次は取り込んだお日さまのパワーを一点に集中させ一気に放出する。
 ヤナップの場合、集中させる場所は頭の房だ。バオップも同様に頭部の房へ力を集めるが、ビームが放たれることはなかった。


「駄目か……」
「いきなり出来るようにはならないさ。次は基礎体力の強化だ!」


 ランニングに腕立て伏せ、腹筋、きのみをサンドバッグに見立てたジャブの連打。平行して先ほどの日光浴も欠かさず行い、ある程度トレーニングが終わった頃には、バオップの顔つきはどこか自信に満ち溢れていた。
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