第32話
ホドモエシティの郊外。自然の多い公園の近くで、バオップが大量のリンゴをやけ食いしていた。ところがその傍には、色違いのメタグロスと、あの幼子の姿がある。
彼女の額には包帯が巻かれており、どこか痛々しい。しかしそれを感じさせない無表情で、バオップへリンゴを剝いて渡していた。
「サニワ⁉ どうしてここに⁉」
「ダイゴさんと一緒じゃないの⁉」
『ダイゴ様は現在ネジ山の視察へ向かわれている。自分は危険だからと待機を命じられたんだが……その、メタグロスを護衛に付けるのは、少々過保護ではないかと思うんだよ』
片言だったサニワの声が、どこまでも軍人めいた堅苦しい口調で脳内に響き渡る。
それにポッドが特に驚いていたが、以前サーナイトの通訳でサニワの本来の口調を知っていたサトシたちはそこまで驚きを顕にすることはなかった。
ちなみに頭に包帯を巻いている理由は、昨日電気石の洞穴の視察に同行した際に、サニワが電気石に接触。ところが指一本触れただけで爆散し、その破片が額に直撃したという災難が起きたためだ。
「そんなことあるの⁉」
『未知の力を秘めた鉱物というのは存在している。現にポケモンを進化させたり、逆に進化をさせないよう引き留めたり、力を引き出すにおいて必要なものだろう』
「確かにそうだなぁ……」
『推測するに、自分の霊力と、電気石との相性が悪かったんだろう。とはいえ爆散するとは想定外だった。鉛の銃弾じゃないだけまだマシ』
「……デント、さすがにコイツはヤバいぞ」
「これでもある程度、情操教育を施した方なんだよ……」
表情を一切変えないサニワだが、それなりに冗談は言うらしい。しかしその種類がこの世界だと笑い飛ばせないもので、サトシたちは顔を顰める。
しかし本来の目的はバオップを連れ戻すことだ。ポッドは先ほどの愚行を謝罪するも、バオップは到底許せないようで。サニワからリンゴの芯を奪い取ると、ポッドへ勢いよく投げつけた。
「バオップ! さっきは悪かったな。お前のせいで……負けたみたいなこと言ってさ」
「……ッおっぷ!」
「なんだよ、まだ怒ってんのかよ!」
『申し訳ないが、意見具申願いたい。部外者の自分が口を出すのは、控えるべきだと自覚している。だが……それでも物申したいことがある』
ポッドを一瞥し、バオップを膝に乗せるサニワ。しかしその迫力は、到底子どもが出せるものではない。口調も威圧感も風格も、どこまでも軍人のそれだった。
『上官たるもの、血ではなく汗を流せ。最前線で奮闘する士官の生殺与奪を握るのは、現場で指揮を執る自分たちだ。ただ徒 に死体を積み上げる所業は、最も忌避すべき行為だ。指揮を執る自分たちの職責を、戦闘員に押し付けるのは無能のやることだぞ!』
「ちょっと、そこまで言わなくても……!」
『確かにポケモンバトルで死者は出ない。だが、これが戦争だったら? 死闘を繰り広げる戦闘員に責任転嫁しているばかりでは、同じ過ちを繰り返すだけだ。上に立つ者の責務をゆめゆめ忘れるな‼』
「……そう、だよな」
サニワは今まで血で血を洗うような、激戦を潜り抜けてきた猛者だ。この世界に来る前は指揮官として、最前線で指揮を執っていた。彼女の指示ひとつで、部隊が全滅する可能性すらある。それゆえポッドの言動に思うことがあったのだろう。
彼女の説教に刺さるところがあったのか。ポッドはバオップに深々と頭を下げて改めて、謝罪の意を口にした。
「バオップ……本当にごめん。この通り、謝るよ」
「……おぷ」
「俺、夢があるんだ! いつかお前と一緒にさ、イッシュ地方初の炎タイプのジムを開きたいんだ! そのためには、まず俺たちが炎タイプを極めなきゃいけない。その夢に向かって、俺と一緒に走ってくれ‼」
ポッドは真剣にバオップの瞳を見詰める。誠心誠意の説得がバオップの心が動かされたのか、バオップはサニワの膝から静かに退くと、ポッドの肩に跳び乗った。
「バオップもわかってくれたみたいだな!」
「良かったね!」
「あぁ。あの熱さが、ポッドとバオップの持ち味だからね」
無事ポッドとバオップが仲直りできたところで、早速二人のテイスティングに入る。
一同は近くの芝生に腰を下ろした。まずはポッドとバオップの相性診断からだ。
高温ポケモンのバオップの特性は食いしん坊。ポッドも健啖家なので相性が良い。
またバオップは怒ると頭部の房の温度が上がり、攻撃もそれに伴ってより威力や速度が上昇する。怒りを攻撃に変える特徴も、ポッドとの相性にマッチしている。
「まさに二人は最高のマリアージュというわけだね!」
「あぁ、やっぱり俺たちって最高のコンビだぜ!」
「おぷおーっぷ!」
デントによるテイスティングに、ポッドとバオップは互いに顔を見合わせて頷き合った。ポケモンソムリエに最高のコンビと診断されたら、誰だって嬉しいものだ。
次のバトルでは絶対に勝利してみせる。二人はそんな気合いすらも感じさせた。
「使える技は、炎のパンチ、火炎放射、大文字、ニトロチャージだね? でも全部炎タイプの技では味わいが単純だ。確かに技のテイストには、熱いハートも大事さ。だけど、バランスも大事にしないと」
「バランス……?」
「この際、火炎放射か大文字の代わりにタイプの違う技を覚えさせたらどうだい?」
『その点に関しては自分も同意する。相性の悪いタイプを仮想敵とした場合、弱点が突けないとそのまま圧倒的な力技で押し切られる可能性が高い』
「チャンピオンのアドバイスも聞けるなんて……滅多にない経験だぜ! ポケモンソムリエのお奨めは?」
デントの意見にサニワも同意する。確かに彼女のポケモンたちは、弱点補完として別のタイプの技を覚えさせていることが多い。これには芯が強いポッドも、素直にデントのアドバイスに耳を傾ける。
ところが、技の提案に関してはデントとサニワの意見が食い違ってしまったのだ。
彼女の額には包帯が巻かれており、どこか痛々しい。しかしそれを感じさせない無表情で、バオップへリンゴを剝いて渡していた。
「サニワ⁉ どうしてここに⁉」
「ダイゴさんと一緒じゃないの⁉」
『ダイゴ様は現在ネジ山の視察へ向かわれている。自分は危険だからと待機を命じられたんだが……その、メタグロスを護衛に付けるのは、少々過保護ではないかと思うんだよ』
片言だったサニワの声が、どこまでも軍人めいた堅苦しい口調で脳内に響き渡る。
それにポッドが特に驚いていたが、以前サーナイトの通訳でサニワの本来の口調を知っていたサトシたちはそこまで驚きを顕にすることはなかった。
ちなみに頭に包帯を巻いている理由は、昨日電気石の洞穴の視察に同行した際に、サニワが電気石に接触。ところが指一本触れただけで爆散し、その破片が額に直撃したという災難が起きたためだ。
「そんなことあるの⁉」
『未知の力を秘めた鉱物というのは存在している。現にポケモンを進化させたり、逆に進化をさせないよう引き留めたり、力を引き出すにおいて必要なものだろう』
「確かにそうだなぁ……」
『推測するに、自分の霊力と、電気石との相性が悪かったんだろう。とはいえ爆散するとは想定外だった。鉛の銃弾じゃないだけまだマシ』
「……デント、さすがにコイツはヤバいぞ」
「これでもある程度、情操教育を施した方なんだよ……」
表情を一切変えないサニワだが、それなりに冗談は言うらしい。しかしその種類がこの世界だと笑い飛ばせないもので、サトシたちは顔を顰める。
しかし本来の目的はバオップを連れ戻すことだ。ポッドは先ほどの愚行を謝罪するも、バオップは到底許せないようで。サニワからリンゴの芯を奪い取ると、ポッドへ勢いよく投げつけた。
「バオップ! さっきは悪かったな。お前のせいで……負けたみたいなこと言ってさ」
「……ッおっぷ!」
「なんだよ、まだ怒ってんのかよ!」
『申し訳ないが、意見具申願いたい。部外者の自分が口を出すのは、控えるべきだと自覚している。だが……それでも物申したいことがある』
ポッドを一瞥し、バオップを膝に乗せるサニワ。しかしその迫力は、到底子どもが出せるものではない。口調も威圧感も風格も、どこまでも軍人のそれだった。
『上官たるもの、血ではなく汗を流せ。最前線で奮闘する士官の生殺与奪を握るのは、現場で指揮を執る自分たちだ。ただ
「ちょっと、そこまで言わなくても……!」
『確かにポケモンバトルで死者は出ない。だが、これが戦争だったら? 死闘を繰り広げる戦闘員に責任転嫁しているばかりでは、同じ過ちを繰り返すだけだ。上に立つ者の責務をゆめゆめ忘れるな‼』
「……そう、だよな」
サニワは今まで血で血を洗うような、激戦を潜り抜けてきた猛者だ。この世界に来る前は指揮官として、最前線で指揮を執っていた。彼女の指示ひとつで、部隊が全滅する可能性すらある。それゆえポッドの言動に思うことがあったのだろう。
彼女の説教に刺さるところがあったのか。ポッドはバオップに深々と頭を下げて改めて、謝罪の意を口にした。
「バオップ……本当にごめん。この通り、謝るよ」
「……おぷ」
「俺、夢があるんだ! いつかお前と一緒にさ、イッシュ地方初の炎タイプのジムを開きたいんだ! そのためには、まず俺たちが炎タイプを極めなきゃいけない。その夢に向かって、俺と一緒に走ってくれ‼」
ポッドは真剣にバオップの瞳を見詰める。誠心誠意の説得がバオップの心が動かされたのか、バオップはサニワの膝から静かに退くと、ポッドの肩に跳び乗った。
「バオップもわかってくれたみたいだな!」
「良かったね!」
「あぁ。あの熱さが、ポッドとバオップの持ち味だからね」
無事ポッドとバオップが仲直りできたところで、早速二人のテイスティングに入る。
一同は近くの芝生に腰を下ろした。まずはポッドとバオップの相性診断からだ。
高温ポケモンのバオップの特性は食いしん坊。ポッドも健啖家なので相性が良い。
またバオップは怒ると頭部の房の温度が上がり、攻撃もそれに伴ってより威力や速度が上昇する。怒りを攻撃に変える特徴も、ポッドとの相性にマッチしている。
「まさに二人は最高のマリアージュというわけだね!」
「あぁ、やっぱり俺たちって最高のコンビだぜ!」
「おぷおーっぷ!」
デントによるテイスティングに、ポッドとバオップは互いに顔を見合わせて頷き合った。ポケモンソムリエに最高のコンビと診断されたら、誰だって嬉しいものだ。
次のバトルでは絶対に勝利してみせる。二人はそんな気合いすらも感じさせた。
「使える技は、炎のパンチ、火炎放射、大文字、ニトロチャージだね? でも全部炎タイプの技では味わいが単純だ。確かに技のテイストには、熱いハートも大事さ。だけど、バランスも大事にしないと」
「バランス……?」
「この際、火炎放射か大文字の代わりにタイプの違う技を覚えさせたらどうだい?」
『その点に関しては自分も同意する。相性の悪いタイプを仮想敵とした場合、弱点が突けないとそのまま圧倒的な力技で押し切られる可能性が高い』
「チャンピオンのアドバイスも聞けるなんて……滅多にない経験だぜ! ポケモンソムリエのお奨めは?」
デントの意見にサニワも同意する。確かに彼女のポケモンたちは、弱点補完として別のタイプの技を覚えさせていることが多い。これには芯が強いポッドも、素直にデントのアドバイスに耳を傾ける。
ところが、技の提案に関してはデントとサニワの意見が食い違ってしまったのだ。