第26話

 元ロケット団のニャースを仲間に加え、ライモンシティへ向け旅を続けるサトシ一行。サトシやアイリスたちはすっかり絆されているものの、サニワとこんのすけはニャースに対し警戒色を隠せずにいる。

 彼女は元々時の政府という対テロリストの軍隊に所属していたためか、ニャースが何か仕出かさないか監視しているようで、ニャースから視線を外すことはない。


「一緒に旅をする仲間が違うと、景色も違って見えるのニャ。何だかとっても良い感じだニャ〜」
「調子が良いねぇ」
「そうニャ! ニャーはとても良いヤツなのニャ!」
「……調子に乗るな」


 器用にも歩きながらご機嫌にくるくると踊るニャースを一刀両断するサニワ。きっと睨め付けるその視線はとても鋭利で、空気が凍てつくような、それでいて刺殺するようなそれはニャースを震え上がらせるには十分だ。
 ずっと共に行動しているサトシたちには効果がないのか、はたまた器用に彼らに殺気が当たらないよう心掛けているのか。サトシは警戒色を強めるサニワを説得し、ニャースは感涙の涙を流す。


「サニワ……気持ちはわかるけどさ、いい加減信じてやっても良いんじゃないか?」
「さすが心が広い……! こんなニャーを信じてくれるなんて……ニャーは感激なのニャ〜‼」
「この涙に嘘のテイストは混じってない気がするよ」
「ニャースって本当は良い子なのかもよ? サニワ、ちょっと信じてあげたら?」
「……ぜったい、いや」


 アイリスたちの説得にも反応しないサニワ。彼らの言葉に耳を傾けてはいるものの、最後の砦(とりで)として守り抜く責務がある。信じたい心とチャンピオンとしての責務で葛藤しているのだろう、眉間には皺が寄っていた。傍から見れば相変わらずの仏頂面だが。

 そんな中、一匹のポケモンがニャース目掛けて突っ込んできた。その衝撃でニャースは地面へ押し倒される。
 痛そうに目を開くと、視界に入るのは紫色の綺麗な毛並み、宝石を埋め込んだような大きな目、そして可愛らしい顔立ち。そのポケモンがニャースの目には一段と輝いて見えた。
 恍惚とした顔を浮かべるニャースとは対照的に、デントは身構えて後ずさりする。


「うわぁ! チョロネコだ!」
「……どうしたの? ……私、みたく……なってる」
「僕はチョロネコに酷い目に遭わされたことがあるんだよ……」
「酷い目って……一体何をされたの?」
「聞かないでくれ……思い出したくもない!」


 酷く不愉快そうな顔で追想するデントとは裏腹に、ニャースはチョロネコの手を取ってアピールする。猫ポケモン同士相性が良いのだろう。そんなニャースへチョロネコは必死に助けて欲しいと訴えかけた。
 デントの意見を一蹴し、力になると豪語したその直後。かなり興奮している様子のハトーボーの群れが、大きな翼をはためかせて、いきなり風起こしを放ってきたのだ。
 ニャースはチョロネコを庇い、飛んできた瓦礫が顔面に直撃。
 この世界の生まれではないひ弱なサニワは、腕に抱くこんのすけを手放すまいと必死だった。そのせいで矮躯が風で浮かび上がり、とっさにデントが抱きかかえる。


「かなり興奮しているみたいね……!」
「こうなったら……ミジュマル! 水鉄砲だ‼」


 ミジュマルの水鉄砲でハトーボーたちを威嚇するも、強風は収まらない。効果抜群なピカチュウの10万ボルトによる追撃で、やっとハトーボーたちの撃退に成功した。
 やっと安堵出来たかと思えば、ミジュマルの瞳がチョロネコへ釘付けになった。ミジュマルの心もチョロネコに奪われ、頬を朱に染めて言い寄っている。


「みじゅ〜! みじゅ〜みじゅみじゅ、みっじゅ!」
「はぁ……?」
「ミジュマルまで……!」
「チョロネコお嬢さんはニャーがお護りするのニャ!すっこんでろニャ‼」
「みっじゅー⁉」
「ちょっとミジュマル、あんたサニワとチョロネコどっちが大事なの⁉ サニワも目の前で浮気されてんのよ! 何か言ってやりなさい!」
「み……みじゅぅ……」
「……ほほえましい」
「そうじゃないわよ!」


 ミジュマルはやや惚れやすいところがあり、元々サニワにメロメロだったことをアイリスに責められてやや劣勢気味。というかたじたじになっていた。サニワ本人は特に何も気に留めていないようだったが。

 ニャースとミジュマルの喧嘩を仲裁し、ワケありのチョロネコの事情を訊ねるため一旦川岸に移動した。
 先ほどの騒ぎ原因は、食べようとしたきのみがハトーボーのものだったようで、知らずに手を付けようとしたチョロネコが泥棒と勘違いされてしまったらしい。
 しかしその言い分にデントは一切信用せず、腕組みをして警戒したままだった。


「嘘だね。チョロネコは狡賢くて、平気で悪い事をするヤツなんだ」
「本当に盗んだんじゃないんだな?」


 疑いをかけるサトシとデントに容赦なく水鉄砲が襲いかかる。いきなり顔面に強烈な水圧を食らった二人は河原に倒れ込み、ミジュマルはぺこぺこと頭を下げて二人の言動を謝罪した。
 そのとき、サトシのリュックからオボンのみが零れ落ちる。それをチョロネコは見逃さなかった。
1/3ページ
スキ