第6話

「ところで……。お供の妖狐さんは、今日は喋らないんですね」


 キダチがさらりと爆弾発言を投下したことにより、サニワの纏う空気が一気に凍えたものとなる。彼女は基本的に無表情だ。それは今も変わらない。
 基本的にサニワの持つ雰囲気は、それはそれはとても神々しく、それでいて触れれば途端に壊れてしまいそうな、儚げで神秘的なそれだ。だが、今の彼女は違っていた。まるで軍人のような、酷薄で、触れればこちらが爛れてしまいそうな、刺々しいそれだった。


「キダチさま、私がポケモンではなく妖狐だというのは、トップシークレットなのですよ! 今回は既にデントさまもご存知でしたし、他に人がいなさそうだったから良いものの……。もしそれが悪い輩に狙われれば、たちまち私も主さまも身柄を狙われるんです。くれぐれもご・内・密・に! お願いします‼」


 キャンキャンと吠えて忠告するこんのすけ。キダチはその気迫に謝罪をしたが止まらない。サニワがこんのすけの尻尾を引っ張ったことで、ようやく暴発するマシンガントークが終了したのだった。

 怪奇現象の謎を解き明かすべく博物館の探索をするが、一向に何もいない。
 やっぱりデントの推理通り、キダチの勘違いなのではないだろうかとこんのすけが思った、その時。
 サニワがバッと身を翻し、臨戦態勢をとった。今は愛用のアサルトライフルがキバナたちによって木っ端微塵に破壊されたため、銃口を向けることができないが、それでも皆に警戒心を抱かせるには十分だ。


「ど、どうかしたのかい?」
「恐らく主さまが敵の気配を察知したのでしょう。お気をつけて」


 だが、相手は一向に姿を現さない。しばらくすると安全だと判断したのか、サニワはすっくと立ち上がり、とあるものを凝視した。


「……」
「サニワさん? 今度は何か見つけました?」
「……キダチさま。あちらの仮面は、一体どこから入手した物でしょうか? 昨日(さくじつ)のリストにありませんでしたよね」


 サニワが指し示す先には、デスマスのマスクが飾られていた。昨日の展示品のリストには掲載されていなかったものが、どうしてここに飾られているのか怪訝に思っていた。


「あ、それですか? 業者の方がサービスで作ってくれたのかと思いますよ」
「……左様にございますか」


 レプリカの割には、あまりに霊力を纏っているから本物かと感じたのだけど、キダチがレプリカと断言するのならそうなのだろう。
 そう思って、仮面とは別の方向へ視線を移すと、そこには展示品に隠れたデスマスの姿が。
 サニワが静かに近づくと、デスマスは警戒して展示品の後ろへ隠れてしまう。なるべく警戒を解いてもらおうと、こんのすけが優しい声色でデスマスへ喋りかけた。


「……こんにちは、デスマス殿。大丈夫ですよ、私もあの方も、貴方の敵ではありませんから」


 少しだけ警戒を解いてくれたのだろうか、恐る恐るながらも顔を見せたデスマス。完全に警戒を解いてもらえるよう、サニワも近づいて目線が同じになるようしゃがんだ。
 その状態で、あのマスクは貴方のものなのか、とそれを指さして問いかけると、デスマスはこくり、と頷きを返してくれた。


「そうですか……。それでは、キダチさまに言って返してもらえるようにお願いしてみましょう。少々お待ちくださいませんか?」


 デスマスは再びこくん、と頷いて、再び展示品の後ろへ姿を隠した。
 早速キダチに報告しようとサニワが周囲を見渡すと、どうやら皆と逸れてしまったらしい。
 慌てて皆と合流するべく、彼女はデスマスに手を振ってその場を後にした。ところが、博物館の内部は広くてなかなか一同と合流できず、やっと合流できたのはとっぷりと夜が更けた頃だった。

 原因を特定できなかった皆は、博物館の展示室に泊まり込む気満々だ。怪奇現象の原因はデスマスで、マスクを返してあげれば許してくれるはず。
 サニワが皆にそう伝えようとした途端、黒い色の霧が、段々とこの部屋を満たしていく。突如起こった怪奇現象にキダチは驚いて悲鳴をあげた。
 そんな彼に追い打ちをかけるかの如く、展示室に飾られていた甲冑がひとりでにこちらへ向かってきたのだ。
 デントが得意げにポルターガイスト現象の解説をしていると、甲冑はシャッと金属音を立てて剣を抜く。


「じゃあ、あれも低周波のせいっていうの!?」
「もしかしたら誰かが糸で吊っているのかもしれない」
「いや、それはちょっと……」


 やや強引すぎるこじつけにサトシが苦笑いを零すと、甲冑はキダチへ向かって襲いかかってきた。
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