第31話

 倉庫の奥は冷凍食品を保存する冷凍コンテナとなっており、中には犯人と思しき男たちと、氷漬けにされたサニワの姿があった。
 彼女のガーネットの双眸は堅く閉じられており、生気すら感じられない精巧人形(ビスクドール)のようだ。


「お前ら! サニワを離せ!」
「サニワの力を使って何をするつもり⁉」
「ハッ、小娘に用はない。この倉庫を我々バニプッチ団の本部するのだ! 我らはイッシュ地方全土の冷凍食品を奪い、ここで保管する。そして野生のポケモンどもに与え手懐ける。美味しい冷凍食品の味を覚えたポケモンは、喜んで我々の命令を聞くだろう! その力を利用し、イッシュ地方を征服するのだ‼」
「そんなくっだらない作戦を考えるなんて、本当に子どもね‼」
「何をガキどもめ……! やってしまえ‼」


 手下が繰り出したバニプッチの冷凍ビームが炸裂。幹部の作戦をくだらないと一蹴したアイリスが、寒さで震えてデントの背後に隠れる。

 咄嗟にダイゴがメタグロスのコメットパンチで相殺し、バニプッチを一瞬にして葬り去ったものの、冷凍コンテナで冷えきった室内では、床一面が凍てついてしまった。
 一気に形勢が不利になり、幹部の男は慌てて倉庫を乗っ取ろうとリモコンを手に取る。その思惑を阻止しようと、サトシはピカチュウへ10万ボルトの指示するが、代わりに(勝手に)出てきたのはミジュマルだ。

 床が氷に覆われているとは知らず、そのまま足を滑らせて幹部の男へ衝突。男は受け身を取れず、そのまま後ろへ倒れ込んだ。その際に手からリモコンが離れ、落とした衝撃で機械は木端微塵に壊されてしまった。
 棚ぼた式とはいえリモコンの破壊に成功し、立案した作戦が実行不可となってしまった今、バニプッチ団に為す術はない。バニプッチ団は煙玉で煙幕を発生させると、裏口に準備していたあのトラックに乗り込み逃走した。

 氷漬けになったサニワをポカブの火炎放射で溶かしたものの、目は硬く閉じられたまま。
 サニワのちいさな身体は完全に冷えきっており、吐息も鼓動も感じられない。まるで魂の抜けた容れ物のようでもあり、また深く眠っているかのようだった。

 異世界出身のサニワの身体は、淡雪のように儚い。タマゲタケの毒霧を浴びた時は、奇跡的に生還したものの、普通の人間よりも症状が酷く現れたのだった。そんな彼女が長時間氷漬けにされていては、生存は絶望的だろう。
 信じたくないのか、ダイゴは反応のない身体を抱き上げるとそれへ声をかけ続け、アイリスは拒否反応を示すように首を横に振り、サトシは帽子を深く被りなおす。デントはショックでただただ茫然自失となっていた。


「ほら、サニワちゃん。遅くなってごめん。迎えに来たんだ。さあ、目を覚まして……」
「嘘よ……こんなことって……!」


 一同が深い悲しみに暮れる中、ダイゴの服の裾が何かに引かれるような感覚があった。引っかかったのかとその方向へ視線を下ろせば、平然とサニワが突っ立っていた。その華奢な肩にはこんのすけの姿もある。

 まさかの登場に、一同は幽霊が出たのかと勘違いして叫び声をあげる。その中でもお化けが苦手で怖がりなデントは真っ先に失神したが、当の本人は暢気に倒れたデントの頬を突っついていた。


「さ、サニワちゃん⁉」
「無事だったのね! 良かった……‼」
「おいおい、待ってくれよ! じゃあこっちのサニワは一体何なんだ……⁉」
「それについては後ほどご説明します。それよりもあのポンコツどもは追跡しなくていいんですか?」


 こんのすけが呆れ返ったチベスナ顔で鋭利なツッコミを言い放った。その鋭い言葉の矢はサトシたちが我に返るには十分だった。
 慌てて後を追いかけるも、トラックは既に発射した後。チャールズは歯痒そうに唇を噛みしめた。


「クソッ、逃げられたか……!」
「何くよくよしてるんですか⁉ 今こそ出番ですよ! 怪傑ア☆ギルダーの!」
「えっ⁉」
「バレちまってたか……」
「匂いが一緒なので。主さまも言動と魂でしっかり察してましたよ」


 照れ臭そうにはにかむチャールズに対し、サトシを除いた全員がこんのすけに同意する。事情を飲み込めないサトシだけが置いてきぼりを食らい、アイリスによる説明を受けて目を点にさせていた。

 怪傑ア☆ギルダーに変身したチャールズは、愛車に跨がると颯爽と追いかけていく。その格好良さに痺れたサトシは目をきらきらと輝かせていた。
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