第31話

 その夜。怪傑ア☆ギルダーのアギルダーに再び会いたいサトシは、夜のホドモエシティを闊歩していた。
 アイリスは半ば呆れた顔を浮かべてサトシへ物申すも、耳を傾けることはなかった。サトシはチャールズのアギルダーと、怪傑ア☆ギルダーのアギルダーは別のポケモンだと信じて疑わないからだ。


「アギルダーに会いたければ、チャールズさんのところに行けばいいでしょう⁉」
「違う違う! 俺が会いたいのは怪傑ア☆ギルダーと一緒に活躍してるアギルダーだよ!」
「だからそれは———」
「キミたち、ちょっといいかい」


 ちょっとした諍いになりかけたその時、聞き覚えのあるテノールの声がサトシたちを呼んだ。声の主はダイゴだ。
 ホウエンチャンピオンに声を掛けられ、一瞬サトシたちは色めき立ったものの、共に行動しているはずの幼女の姿はどこにもない。今は別行動しているのか訊ねたものの、彼の首は横に動いた。


「あれ? サニワは一緒じゃないんですか?」
「……それが、誘拐されてしまったんだ」
「「「何だ(です)って⁉」」」


 ダイゴによれば、食事を終えたサニワは一足先に部屋へ戻っていた。ダイゴはひとりホテルに併設されているバーで酒を嗜んでいたが、部屋へ戻ると誘拐犯からの置き手紙と引き換えに、サニワの姿は消え去っていたのだ。

 誘拐犯からの予告状には、バニプッチの絵柄が描かれている。そこには、バニプッチ団と自称する団体がサニワの身柄を預かったこと、彼女の身柄が惜しければ身代金を用意して郊外の冷凍コンテナに持参すること、ジュンサーへ通報すれば彼女の身に危険が及ぶことが綴られていた。典型的な誘拐犯の遣り口だ。
 しかし紙はもう一枚ある。独特の柔らかな紙質で、香でも薫き染めているのか、優雅な雰囲気を醸していた。丁寧に折り畳まれたそれを開けば、独特な線画が描かれている。


「これって……」
「恐らく、サニワちゃんが残したものだ。ただボクには全く読めない代物でね……だから、一緒にいたキミたちなら、もしかしたら読めるのかと思ったんだ」
「残念ですけど、これはあたしたちにも読めないです。サニワの世界の文字だとは思うんですけど……」
「きーば」
「これがサニワの世界の文字なんだな。さっぱりわかんねえや」
「すごく渋味とえぐみの強い文字だね……習得するのに時間がかかりそうだ」


 サニワは特殊な能力を狙われてロケット団に誘拐された。ロケット団とはまた別の組織がサニワの力を狙っているとしても、何ら不思議ではない。
 しかし今、できることといえば誘拐犯の思惑通りに身代金を準備して、指定された町外れの倉庫へ向かうことのみ。

 ダイゴは多額の現金を準備するべく、銀行まで駆け出した。そんな彼とは入れ違いに、チャールズがサトシたちへ話しかける。


「よお! また会ったな」
「チャールズさん……サニワが誘拐されちゃったんです!」
「何だって⁉」
「身柄が惜しければ、身代金を用意して町外れの倉庫に向かえ、って……犯人から手紙が来てるんです!」
「町外れの、倉庫……」


 チャールズは思い当たる節があるのか、考え込む素振りを見せた後、オフィスらしき場所へ移動してPCを起動する。画面には、誘拐犯からの手紙に描かれていたあのバニプッチが表示された。


「これって……⁉」
「誘拐犯からの手紙に描かれてたバニプッチと一緒だ!」
「もしかすると……この街で大掛かりな悪事が行われているかもしれない。俺の勘が正しければ……サニワちゃんが危ないぞ!」


 顔に焦燥の色が現れているチャールズ。彼の意見を傾聴したサトシたち一向は慌てて町外れの倉庫へ駆け出し、その途中で身代金をかき集めたダイゴと合流。開かれている正面の扉から突入したのだった。
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