第31話

 ホドモエの跳ね橋。別名リザードン橋とも呼ばれるこの真っ赤な橋を、サトシたち一向は渡っていた。右手に広大な海が、そして目前には発展した街並みが広がる。左手は幹線道路となっており、一台のトラックが追い抜かしていった。

 無事ホドモエシティに到着したサトシは早速ジム戦に挑戦しようと、ジムの扉を潜り抜ける。しかしジムから出てきた人物に弾き飛ばされてしまった。
 出てきたのはカウボーイハットを被った巨躯を持つ男。彼こそこの街のジムリーダーを務めるヤーコンだ。彼が運営している会社は町外れの鉱山を運営しており、今から商談をしに向かうところだった。
 早速ジム戦だと意気込んでいたサトシは出鼻を挫かれてがっくりと地面に膝を突く。アイリスはヤーコンの態度の悪さに辟易して頬を膨らませていた。

 二人を宥めるデントは、気分転換にマーケットの散策を提案した。ホドモエシティのマーケットはかなり有名で、イッシュ地方各地の名物だけでなく、他地方の品物も集まる商店街だ。
 早速向かおうと足を向けた時、サトシ一行の話を聞いた通行人が声をかける。アギルダーを連れてバイクに跨がった男は、チャールズと名乗った。

 彼の案内でホドモエのマーケットへ向かったサトシたち。チャールズの認知度はかなり高く、行く先々の店の店主や店員から声を掛けられ、中には快くサービスまでする者も居た。

 街の人々の親愛に感銘を受けたデントが目を輝かせ、チャールズがホドモエシティの讃美を語る中、一羽のコアルヒーが颯爽と駆け去った。
 背中にはリンゴが入った籠を背負っており、店員が必死に追いかけているところから察するに盗みを働いたのだろう。泥棒のコアルヒーは身軽な動きで店員を翻弄すると、一目散に出口まで駆け抜けていった。
 サトシたちもコアルヒーの後を追うも、顔面に熱湯が直撃。さすがのサトシもこれには堪らず後ろに倒れ込んだ。
 コアルヒーはサトシを嘲笑うかのように、トレーナーが運転する車に乗り込んだ。

 そんな中マーケットの屋根から現れたのは、アギルダーを模した恰好をした男だった。その隣にはアギルダーも居り、華麗にポーズを決めている。
 颯爽と現れた彼は跳び蹴りを披露するも、急発進して躱されるとは思わなかったのか地面に激突。何とかアギルダーに指示を飛ばして逃すまいと足止めしつつ、自身もバイクに跨がって追いつこうとするものの、ガス欠で動かない。
 このまま逃げ切ろうとトレーナーはアクセルを踏み込むものの、車はちっとも前進することはなかった。それもそのはず、サイコキネシスで車が宙に浮いていたからだ。


「キミたち、痛い思いは嫌だよね」
「貴方は……ホウエンチャンピオン⁉」
「それじゃ……もしかして、サニワもいるの⁉」
「……ひさしぶり」


 逃亡を阻止したのは、ホウエンチャンピオンのダイゴ、そして色違いのメタグロス。その背後からひょっこり顔を出したのはサニワだ。その肩にはこんのすけも乗っている。
 彼らの後ろからは、あらかじめ通報していたパトカーがサイレンを鳴らしていた。

 ダイゴがジュンサーと対応する中、サニワはサトシたちの再会に喜びを顕にしていた。顔は無表情だったが。


「……思わなかった。こんなに、早い……なんて」
「あたしもよ! もうホウエン地方に行っちゃったのかと思った!」
「また会えて嬉しいよ!」


 アイリスによる熱烈なハグ(という名の締め落とし)を受けるサニワの体力はほぼゼロに等しい。こんのすけの助言によって慌てて解放されたものの、げほげほと苦しそうに咳き込んでいる。

 和気靄々とした雰囲気に包まれる中、ダイゴを不満気にじっとりとした目で見詰めていたのはチャールズだ。礼なら怪傑ア☆ギルダーへ言えと不満を漏らした。

 怪傑ア☆ギルダーは、この街の平和を守る正義のヒーローだ。しかしその実態はドジを踏んでばかりの評判の緩いローカルヒーローに近い。
 ジュンサーとの対応を終えたダイゴが、サトシたちの会話に入ってきた。ホウエン出身のダイゴはア☆ギルダーについて今回初めて耳に入れたのだが、その評価は割と好感触だ。


「彼の評判がどうかは置いておいて……アギルダーが囮役を担ってくれていなかったら、ボクのメタグロスもサイコキネシスで動きを捉えられなかったかもしれない。それに、誰かの役に立とうと奮闘するその行動は、ボクも好感が持てるよ」
「そうですよね! あのアギルダーも凄かったよな、高速移動に影分身! 格好良かった‼」


 ダイゴの大人な対応にアイリスが舌を巻く中、サトシはアギルダーが披露した技の数々を称賛する。チャールズもア☆ギルダーを持て囃し、アイリスが呆れた顔でその様子を眺めて、それを見たサニワとデントは顔を見合わせる。それがいつもの旅の光景だった。


「ところで、どうしてホドモエシティに滞在しているんですか?」
「あぁ、この街近くのネジ山ではエメラルドが採掘されていてね、その採掘許可を取りに来たんだよ。そのついでに、ヤーコンさんと商談をしていたのさ。明日ネジ山での採取が終わり次第、すぐにホウエンへ戻るけどね。あぁ、思い浮かべるだけでわくわくしてきたよ……!」


 ダイゴの話に苦笑いを零すサトシたちの横を、一台のトラックが通り過ぎる。その荷台にはバニプッチが描かれており、サニワがじっと見詰めていた。それに気付いたのは、肩に乗っていたこんのすけだけだった。
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