第45話

「シトロイド……。僕のことがわかるかい?」
「もちろんです、ご主人様はシトロン様でしょう? 改めてよろしくお願いします!」
「やったー! シトロイド、完全復活ー‼」
「でーねでねー‼」


 シトロイドはシトロンを主人と認識しているということは、完全に記憶領域も復活したということだ。
 手と手を取り合い喜びを顕にするマノンとセレナ。ユリーカはデデンネと一緒に嬉しそうに飛び跳ねており、一気にお祝いムードに包まれる。
 覚束ない足取りでありながらも、サニワはアランに支えられつつ立ち上がった。


「さすがサニワさん‼ シトロイドを直してくれてありがとう‼」
「僕からもお礼を言わせてください! 本当に……本当にありがとうございます‼」
「でねでねー‼」
「ねえサニワさん、さっきのは一体何したの? どうして最初は駄目だったの?」
「お前な……。質問はこんのすけに訊ねるか、せめて後にしてやれ。こんなフラフラな状態で質問攻めにするな」


 矢継ぎ早に質問するマノンの頭を、アランが叩き制する。軽く叩いただけなのだが、マノンはじっとりとした視線を向ける。
 二人の様子を見て、やや困ったように笑ったサニワはこんのすけと顔を見合わせ、二人は簡単に説明した。

 彼女の就いている審神者という職業は、神道の祭祀において神託を受け、神意を解釈して伝える者———要約すれば巫女や神職———のこと。なお余談で、上記の意味が転じて祭事の際の弾琴者も指す。
 そんな巫女の彼女が最初に行ったのは、神通力を用いての修復作業だ。
 大抵のものは完全に直り、生きとし生けるものに使えば、どんなに大きな病や怪我も立ち所に治る。まさに、神の所業と讃えるに等しい。

 ところが、シトロイドの記録は完全に消去されており、リカバリーも効かない状態になっていた。
 ならば。サニワは、刀剣男士を依り代から顕現するように、シトロイドの機械の身体を依り代として、神降ろししようとしたのだ。

 人の形をしたものは、魂が宿りやすい。とはいえシトロイドは、この世に生み出されてから数えるほどの月日しか経過していない。そもそも付喪神として、魂が宿っているとは到底考えられない。
 しかし、女神が微笑んだのか。奇跡は起きた。シトロイドは、機械の肉体を依り代として、ロボットの付喪神として生まれ変わったのだ。

 サニワとこんのすけの説明を聞いたサトシとマノンとユリーカは全く理解が出来ていないのか、狐に摘まれたような、ぽけーっと呆けた顔を浮かべている。
 アランとシトロンは、頭を抱えたり首を横に振ったりと、拒絶反応が現れていた。完全な理系だからか、奇跡を実際にこの目で見ても信じられないようだ。
 この中で唯一、今の説明で何となく理解しているのはセレナだけらしい。

 当たって砕けろ、考えるより行動しろ。そんな脳筋タイプのサトシは、とりあえずシトロイドは完全に直ったんだよな! と解釈することにしていた。


「とにかく、シトロイドは完全復活したんだ! 喜ぼうぜ‼」
「シトロンさん。よろしければ、ソースコードを拝見しても? 編集はしませんので」
「え、えぇ……。それは構いませんが」
「では失礼して……」


 シトロンがエディタを表示させると、しげしげと文字の羅列を興味深そうに見詰めるサニワ。
 本当に弄る気はないようで、一通り眺め終えると保存せずに閉じた。


「……なるほど」
「何かわかったの?」
「こちらの世界と言語どころか文字自体が全く異なるので、全く何もわかりませんでした」


 サニワの説明に一同がずっこける。まるでジョウト地方の有名な新喜劇のようだった。しかし改善策は思い浮かんでいるのか、シトロンへ提言する。


「シトロイドの記憶データを随時インターネット上にアップロードできるよう、改造を提案いたします。安全なサーバーの利用には費用がかかりますが……」
「確かにな。インターネットにデータをアップロードしてしまえば、本体が破損しても、新たな機体にダウンロードすれば再び動かせる」
「そ、それです! サニワさん、ありがとうございます‼ サニワさんのその素晴らしい知識は、一体どこで学んだんですか⁉」
「小官の推測ではありますが……小官の世界の科学技術は、恐らくこの世界よりも発展しております。割と一般常識の類いに入るので、どこで仕入れたというのは中々説明し難いですね」


 サニワのアイデアに、アランが理解を示す。シトロンはサニワの手を握って、感謝の意を示した。シトロンの目は、きらきらと今まで以上に輝いている。
 話に置いていかれたマノンやサトシ、セレナは、スペキャ顔を披露していた。ユリーカは兄同様目を輝かせていたが、それは話を理解しているわけではないようだ。


「サニワさーん! お兄ちゃんをシルブプレ‼」
「……しる、ぷぶれ……?」


 突然シトロンの前に割り込み、サニワの前に跪くユリーカ。知らない言葉にかなり困惑したサニワは、カチコールの如く固まった。何とか口だけは動いたものの、ただユリーカの言葉を鸚鵡返しするだけだ。
 こんのすけも突然のユリーカの奇行に困惑しているようで、サニワと顔を見合わせている。そんな混乱気味のサニワたちの様子に、ユリーカは自慢気に胸を張って説明した。


「お兄ちゃん引っ込み思案だから、サニワさんみたいにしっかりした人がお嫁さんに来てくれたら良いなって!」
「ユリーカ‼」


 背負っているエイパムアームでユリーカを無理やり引き剥がしたシトロンは、サニワの世界の科学技術に興味深々だ。
 探求心を抑え切れない彼は、やんわりと断りを入れるサニワへ、無理を承知で頼み込む。知的探求心が抑え切れないのだろう。兄らしくない彼の挙動に、ユリーカは思わず声を上げ二度見した。


「うーん……。お気持ちは大変嬉しいのですが、小官は異世界に帰還する予定ですので、実現は大変厳しいかと……」
「そう、ですよね……。ただ僕としては、サニワさんの世界の科学技術に物凄く興味があるんです! ちょっとだけでも構いませんので、ご一緒させて欲しいんです‼」
「お兄ちゃん⁉」
「軍事規定により承諾できません」
「ですよね……」


 こんのすけに即却下され、シトロンはがっくりと肩を落とす。その様子を見たアランは、胸をなで下ろした。
 なぜその感覚に陥ったのかは、アラン自身もよくわからない。ほんの少しだけ、懊悩した。
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