第45話

 カロス地方はミアレシティ。プラターヌ博士の研究所。研究所はミアレシティの一等地の中でもとびきり広く、客室が多数存在している。
 そのうちの一室で。休息をとったサニワは、備え付けのベッドの上で大きく伸びをした。傍には、サニワのエルフーンがまだ眠たそうに欠伸を零していた。

 昨日、キーストーンとポケモンたちをアランに託したばかりだ。最後の最後まで一緒に居たい。その希望を二つ返事で叶えてくれたプラターヌ博士とアランに、サニワは深い感謝の念を抱いていた。

 未だに今日はダイゴからの連絡は届いていない。まだまだ猶予は残っている。
 簡単に身支度を整えると、マノンが出迎えてくれた。サトシは一度カントー地方へ戻り、一から……否、ゼロから鍛え直すらしい。
 せめて、今までの礼と別れを告げたいと考えたサニワは、既にカントーへ旅立ってしまったのかマノンへ訊ねると、彼女は首を横に振る。今はまだミアレジムに滞在しているようだ。

 早速マノンと一緒にミアレジムまで向かおうとすると、なぜかアランも当然のように一緒について来た。お目付け役のつもりなのだろうか。
 さすがに病み上がりの身体でバトルをするような阿呆ではないのだが、別について来ても困ることはないので、サニワは気にも留めなかった。

 ミアレシティのシンボル、プリズムタワー。その中にミアレジムは存在している。扉を開くと、中でサトシたちがジムの復旧作業に勤しんでいた。
 さすがに今回の事件の影響もあって、ジムの営業再開はしていない。とはいえ、バトルフィールドや観客席は既に整備されており、明日にでも再開できそうではあるのだが。


「サトシ、皆様。突然お邪魔して申し訳ありません。今、お時間はよろしいでしょうか」
「わあ! サニワさんだー! どうぞどうぞ!」
「お身体は大丈夫なんですか?」
「はい。特に支障はありません」


 元気ですとアピールするように、サニワはぴょんぴょんと軽くジャンプする。サニワのポケモンたちは心配そうに主人を見詰めるが、本人は大して気にしていない。

 ジムリーダーの姿が見当たらず、きょろきょろと彼を探すマノン。シトロンなら奥の部屋で、シトロイドの調整をしているらしい。
 シトロイドはシトロンが大好きな発明の時間を作るために、自分の代理として開発されたロボットだ。しかし、今回の事件でシステムに過剰な負荷がかかり、強制シャットダウンしてしまった。
 話を聞いたサニワとこんのすけが、考え込むように俯いて黙りこくる。彼らの考えを読み取ったのか、サトシがサニワへ一つの提案を出した。彼女の、人持たざる力。その力で、シトロイドを完全復活出来ないかと。


「……なあ、サニワ。サニワの神通力で、シトロイドを元に戻せないか?」
「えぇ⁉ サニワさんって神通力が使えるの⁉」
「記録を含め、元の状態に戻せるという保証はありませんし、体のみ修復される可能性も否定できません。そのため、過度の期待はあまりなさらないほうがよろしいかと。ですが……小官の力がお役に立つのであれば、全力を尽くす所存です」


 早速妹のユリーカが兄の元まで手を引いた。妹の突撃と突然の英雄の来訪に、シトロイドの修理へ集中していたシトロンは肩を跳ねさせて驚きを顕にする。


「お兄ちゃーん! サニワさんがシトロイド直せるかも!」
「え、え⁉ 待ってユリーカ! シトロイドは強制シャットダウンの影響でデータが吹き飛んでいるんだよ⁉ 再起動だけなら、僕だけでも……」
「違うよ! サニワさんの不思議な力で、シトロイドのメモリー含めてぜーんぶ直してもらうの‼」


 ユリーカの説明では理解が追いつかないので、改めてこんのすけとサトシが説明する。
 サニワの神通力を使えば、完璧に修復される。まるで何事もおきなかったかのように。とはいえ、ロボット相手に神通力を使うのは今回が初めてだ。更に元々のデータが吹き飛んでいる状態でつかっても、記録は復活できるとは限らない。
 それでも、可能性が少しでもあるのなら。一縷の期待を胸に、シトロンはサニワへ頭を下げた。


「なるほど……。非科学的な力なら、可能性はありますね。サニワさん、お願いしてもいいですか?」
「ユリーカからもお願い!」
「では少しだけ、失礼いたしします」


 座っている状態のシトロイドを繋がれているコードから外し、台の上へ寝かせる。
 衝撃で凹んだ頭に、真っ白な手を翳せば。手から放たれた淡い光がシトロイドを包み、凹んだ頭が修復されていく。他の部位も、まるで新品同然に戻っていた。
 ところが、シトロイドが目を覚ます気配は全くない。さすがに記録領域までの修復は不可能なのか。シトロンの期待が、一気に崩壊した。


「……駄目、だったの?」
「残念ながら、主さまの神通力では……メモリーの修復は不可能かと」


 悔しそうに、歯痒そうに告げるこんのすけ。しかし当の本人は、全く表情を変えていなかった。
 場所を変え、今度はシトロイドが横になるような位置に移動するサニワ。そして、不思議な呪文のような言葉を唱えた。あちらの世界の言葉を、翻訳機がうまく翻訳出来なかったのだろうか。こんのすけ以外はきょとんと目を点にしており、マノンに至ってはアランに訊ねる始末だ。アランもよくわかっていないのだが。


「———祓(はらい)給(たま)え 清め給え 夜(よ)の守り 日(ひ)の守り 守り恵み 幸(さきわ)え給えと 恐(かしこ)み恐み申(もう)申す」
「そんな! いくらシトロイドが人の形をしているとは言えど、生み出されてから半世紀すらも経過していないのですよ! 付喪神を顕現させるなんて無謀すぎます‼」
「ツクモガミ? 顕現? なぁこんのすけ、それってどういう———」


 サニワが成そうとしていることを、唯一理解している存在。それがこんのすけだ。彼に説明を求めようとしたが、その注目は一気に移り変わることとなる。
 先ほどとは違い、一瞬だけとはいえシトロイドを眩い光が包み込むと。サニワはその場に立つのも辛いのか、ぺたりとその場に座り込んだ。


「おい! 一体どうしたんだ⁉ シトロン、悪いが一旦サニワを研究所に———」
「起動! 起動!」
「成功した、ようですね……。良かった……」


 心配してサニワの元へ駆け寄るアラン。そんな彼を安心させるように、へにゃりと破顔一笑させる。
 ロボットらしいシトロイドの声。合成音声が静かな部屋に響き渡り、シトロンは彼に、恐る恐る声をかけた。
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