第44話

 サニワの退院日。玄関ロビーまで迎えに来たのは、プラターヌ博士とポケモンたち、そしてこんのすけだ。彼女の姿を一目見るなり、突撃していくポケモンとこんのすけたち。到底受け止め切れるはずもなく、その華奢な体は後ろへ倒れ込んだ。
 咄嗟にエルフーンのコットンガードで事無きを得る。サニワも目をぱちくりとさせているだけで、大したこともなさそうだ。
 体重を綿に預けたまま、サニワは困ったように眉尻を下げ、こんのすけとポケモンたちの頭を撫でる。


「もう大丈夫。……皆、心配かけたね」
「本当ですよもう! 主さまの馬鹿馬鹿馬鹿‼ 僕らがどれだけ心配したと思ってるんですか〜〜〜〜〜〜〜‼」


 きゃいんきゃいんと泣きわめくこんのすけを宥めながら、きょろきょろと周囲を見渡すサニワ。誰かを探しているのだろうか。
 プラターヌ博士は小さな柔い手を引いて、車までエスコートしながら、サニワへ優しく訊ねた。


「ダイゴさんを探しているのかな?」
「……え、あ、はい。迎えに来るって言ってくれましたから……」
「そうか。一度デボンコーポレーションまで戻るらしいよ。今回の事件で、データを整理すると話していたね」


 ダイゴは一度カナズミシティのデボンコーポレーションまで戻り、データの整理をしているらしい。だが非常に退院を心待ちにしていたのは変わりない。プラターヌ博士が運転する車の中で、断りを一度入れて連絡を取れば、すぐに繋がった。


「もしもし⁉ サニワちゃん⁉ 体調は大丈夫なのかい⁉」
「はい。ご心配とご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「謝らないで。ボクは謝罪が聞きたいわけじゃないんだ。今回の事件で、しばらくボクはデボンで情報整理するつもりだよ。その間、サニワちゃんはプラターヌ博士の研究所で身体を休めて欲しいんだ。退院したばかりだしね」
「承知しました。お気遣い、痛み入ります」
「うん。準備が出来次第、迎えに行くからね。良い子で待ってて欲しいな」
「……かしこまりました」


 ダイゴとの通信を終え、ロトムスマホは自らをするりとサニワの洋服に入り込んだ。サニワは子ども扱いされたことにやや不満気ではあったものの、十にも満たない年齢(推定)なので、文句は喉元で留まっている。

 それから十数分後。プラターヌ博士の研究所に到着した。プラターヌ博士は手慣れた様子でエスコートを完璧にこなし、扉を開く。クラッカーの音で出迎えられ、驚いたサニワは背後にキュウリを置かれたニャースの如き跳躍を披露した。


「ちょちょ、サニワちゃん! 君は退院したばかりなんだから、安静に‼」
「すみません。……一瞬、敵襲かと誤認したもので」


 サニワが改めて室内を見渡すと、綺麗に飾り付けられていた。テーブルの上にはほかほかと湯気が立つ料理が乗せられている。
 思いも寄らぬ歓迎ムードにくりくりした目をぱちくりとさせるサニワに、マノンは嬉しそうにはにかみながら駆け寄った。


「おかえり、サニワさん! 今日はね、退院のお祝いパーティ! 皆で作ったの‼」
「待ってたぜ、サニワ!」
「冷めないうちに食べましょ!」
「今、お茶入れますね!」
「……ありがとう、ございます」


 嬉しそうに微笑むサニワの頬は、牡丹色に染まっている。まるで周囲に花が綻ぶような、そんな笑みだった。
 和やかにパーティが進んでいく。まだ味覚障害は治癒していないのか、ほぼ点滴で生き長らえた身体に、冷めた病院食しか食べてこられなかった弊害か、はたまたその両方か。サニワはあまり料理自体に口を付けていなかったが、雰囲気だけでも十分楽しんでいるようで、笑みを絶やすことはなかった。
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