第6話

 アロエが出張している数日間、サニワは秘宝展の準備を手伝う生活を送っていた。
 その間キダチは、アロエへ連絡を取ったり、アロエは考古学仲間であるシロナへ連絡を取ったり。そして夫妻は、サニワとこんのすけが異世界から来た異質な存在である、と初めて知ったのであった。
 当の本人であるサニワは所蔵されている歴史書を次から次へとキダチに読み聞かせを依頼しては、その資料をPDFにしてソニア博士の元へ送る。時々、そこに自分の見解を付け加えて。もちろん、既に複製の許可を得ているので問題はない。
 イッシュ地方は、どちらかというとガラル地方よりもカロス地方と関わりがある。カロス地方のパルファム宮殿には、イッシュの建国神話に出てくるポケモンの像が佇むほどだ。とはいえ、サニワの異世界の知識を絡ませた考察は、ソニア博士を虜にするには十分なものだった。

 そして数日後。
 その日は特別展示の秘宝展の開催日ということもあり、サニワは早めに博物館の関係者出入り口へ足を運んだ。ところが、正面玄関は固く閉ざされている。仕方なく搬入口へ回り込んでも、厳重な警備が施されていた。


「……キダチさまー、キダチさまー?」
「……いない?」
「今日から秘宝展ですよ? 普通はいらっしゃるはず……。お忙しくて出られないのでしょうか」


 一度出直してこよう。そう考えたサニワは、博物館近くのカフェ・ソーコで時間を潰すことにした。
 ロズレイティーとシフォンケーキを注文し、テラス席の一角に腰を下ろすと、香り豊かな紅茶が来るまで道行く人たちをじっと眺める。

 たまには、ゆっくり休息を取っても良いだろう。
 すぐに注文した品が来たので、早速シフォンケーキに手を付ける。シフォンケーキはホイップクリームで飾られ、上には飾り切りされたマゴのみが彩られていた。
 口に含むと、優しい甘さが広がっていくはずなのに。口内に広がるのは、ただの雑味。その辺の草を毟って、そのまま口の中へ放り込んだ味だった。
 この世界に来てしばらくしてから、どれだけ辛いものを食べようが、甘いものを食べようが、泥のような味しかしなくなってしまったのだ。

 文化的なひとときを堪能していると、何やら博物館について話が聞こえて。その方向へ視線を動かすと、活発そうな少年少女に、探していた副館長。そして、以前出会ったジムリーダーの姿が見えた。
 キダチはこちらに気がつくと、安心しきったように頬を緩め、サニワの側に近づいた。対するサニワは状況が全く読めず戸惑っていた。表情は無表情のままだが。


「サニワさん! 良かったです、無事だったんですね!」
「……どう、したの? ……デント、いるの、どうして?」
「今はサトシたちと一緒に旅をしているんだ。彼のバトルスタイルに興味を持ってね」
「デント、知り合いか?」
「あぁ、僕以外とバトルしたのさ。サトシみたいにチャレンジャー側から志願したわけじゃなくて、僕らがそう頼んだんだけどね」
「僕以外ってことは……ポッドとコーンにも勝ったの?」
「そうさ。二人とも、手も足も出なかったんだよ!」


 デントが目を輝かせて説明すると、少年少女二人は心外だったのか目を点にしている。対して、キダチはアロエとのバトルの審判を受け持っていたためか、納得の表情を浮かべていた。

 ピカチュウを連れた少年はサトシ、キバゴを連れた褐色肌の少女はアイリスというらしい。サトシはシッポウシティジムに挑戦を希望し、この街を訪れた。だが、残念ながらジムリーダーは出張で不在中である。
 そうとは露知らず、彼らが博物館の玄関で連絡を取ろうとしたところ、ちょうど怪奇現象から逃げてきた副館長と遭遇。殊の顛末を話すべく、彼らはこのカフェへ移動したのだった。
 小首を傾げたサニワとお供の妖狐は、何かあったのかな、と顔を見合わせた。


「……昨日、お手伝い、した。……何も、ない、だった」
「これは……祟りよ! 荒ぶる魂がこの博物館に災いをもたらそうとしているわ! ねえサニワさん、そう思いますよね!」
「大袈裟だなぁ。そういう超常現象って大体は思い込みや勘違いなんだ。科学的に調べれば本当の理由がわかるはずだよ」
「じゃあ、デントは科学的に調べてみたら?」
「望むところだ。うーん……スリリングなテイストになってきたぞ! もちろん、サニワさんも手伝ってくださいますよね!」
「……」


 サニワは小さく、こくりと頷いた。せっかくの秘宝展が開催されないのは彼女自身も残念に思っていたからだ。
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