第47話
最果ての孤島。その名が表す通り、この世界でも未開の地に当たり、ほとんど人間の手が入らないジャングルで占められている。そして普段は濃霧という神秘のベールに包まれており、現在において探索の手が入ることは滅多にない。
気候はサイユウシティと良く似ており、密林が形成されていることも相まってか蒸し暑い。いくらホウエン出身のダイゴといえど、スーツ姿の彼にとっては厳しい気候だろう。
幸いサニワたちが上陸した途端に、まるで秘伝技でも使ったのか、淀んでいた霧が一気に晴れ渡り、生い茂った木々と、そこで生き生きと暮らす野生ポケモンたちの姿が目に入った。
小さな身体で生い茂る草木を掻き分けながら真っ先に進んでいくと、一匹のポケモンが彼女の目前をすぅっと通り過ぎる。
サニワは思わず足を止めたが、ダイゴとこんのすけには視認できなかったらしい。
「今のポケモンは何でありましょうか? エネコやゾロアのような三角形の小さな耳に、長い尻尾、浅葱色の体色。初めて見ました……」
「え? ポケモンがいたのですか? 僕には見えませんでしたが……」
「……エネコのような耳に、長い尻尾、か」
ダイゴは何か思い当たるポケモンがいるようで、口元に手を当てて思案するポーズを取るが、口に出すことはない。
ポケモンの正体が気になるものの、それが再び姿を現すことはなかった。
ジャングルに鬱蒼と生い茂る草木を掻き分け、ひたすら突き進むサニワたち。突然開かれた場所に出ると、そこには。
「あ、あれって……‼︎」
「何故ここに、あるんですか……⁉︎」
旧式の転送装置が、蔦に覆われた姿でうっそりと佇んでいた。
サニワとこんのすけは駆け寄り、転送装置の状態を確認する。しばらく動かすことはなかったからか、起動するまでには時間がかかりそうではあるものの、運転に関しては問題なさそうだ。
「やっと……やっと帰れるね。皆が待つ本丸に!」
「長い旅路にございましたね、主さま」
「……ついに、お別れか」
ダイゴはサニワの小さな身体を抱き締めた。彼はこの世界では比較的体慎重の部類に該当するが、それよりも華奢で細く小さな身体は、すっぽりとその腕に収まった。
「ダイゴさま。今まで、本当にありがとうございました。本丸へ帰還できるのも、ダイゴさまのお陰です」
「……ダイゴ様。ありがとうございました。お礼といっては何ですが、これを」
サニワが渡したのは、腕に装着していたダイマックスバンド。少し茶色く滲んでいるのは、血液による染みが取れなかったからだ。
審神者の体液には多少の霊力が含まれている。血が染み込んだダイマックスバンドにも、それは移っていた。
それに加え、サニワが御守 となるように、ダイゴの力になるようにと、丁寧に神通力を染み込ませた代物。何らかの神の加護があるのは間違いないだろう。
「これは……ダイマックスバンドかい?」
「小官が持っていても、宝の持ち腐れになるだけ。大切に扱っていただける方が、それ自身も喜ぶことでしょう。きちんとお護りするように言い聞かせておきましたので、きっと、貴方の何かの役に立つはずです」
「付喪神と共に暮らすサニワちゃんが言うことだしね。ありがたく受け取っておくよ」
ダイマックスバンドを素直に受け取るダイゴ。その手はかたかたと震えていた。その透き通った瞳からは、五月雨のようにはらはらと涙が零れ落ちる。
「……主さま。転送装置の起動、そして本丸の位置入力が完了しました。参りましょう」
「ダイゴ様、今まで本当にお世話になりました。この感謝を、何と言葉に表したら良いか……本当に、ありがとうございました。……では、ご機嫌よう」
荒れ狂う川のように。壊れた蛇口のように。ただひたすら頬を濡らすダイゴに対し、薄日が差すように。吾子を見守る聖母のように。微笑を貼り付ける少女の顔は、どこか儚げだった。
微笑みを浮かべる別れが惜しいと思ったのだろう。一粒の涙が、牡丹色に染まったまろい頬を伝う。それは、真珠のように。玻璃 のように。太陽光に反射して、煌めいた。
「さよなら、サニワちゃん……」
「さよなら……!」
サニワたちが転送装置に乗り込むと、途端に聞きなれない言語でアナウンスが流れる。そして、眩い光が周囲を包んだかと思うと。
「……行っちゃった、のか」
彼女たちの姿は、煙のように。幻のように。消え去ってしまった。
決して紛失するまいと、力強く握り締めているダイマックスバンド。そこに大粒の涙がぽたり、ぽたりと滴り落ちる。
ダイゴはその整った顔を覆い、声を出さずに、肩を震わせて咽び泣いた。自分が泣いていることを、この世界の誰にも知られたくないという様子で。
気候はサイユウシティと良く似ており、密林が形成されていることも相まってか蒸し暑い。いくらホウエン出身のダイゴといえど、スーツ姿の彼にとっては厳しい気候だろう。
幸いサニワたちが上陸した途端に、まるで秘伝技でも使ったのか、淀んでいた霧が一気に晴れ渡り、生い茂った木々と、そこで生き生きと暮らす野生ポケモンたちの姿が目に入った。
小さな身体で生い茂る草木を掻き分けながら真っ先に進んでいくと、一匹のポケモンが彼女の目前をすぅっと通り過ぎる。
サニワは思わず足を止めたが、ダイゴとこんのすけには視認できなかったらしい。
「今のポケモンは何でありましょうか? エネコやゾロアのような三角形の小さな耳に、長い尻尾、浅葱色の体色。初めて見ました……」
「え? ポケモンがいたのですか? 僕には見えませんでしたが……」
「……エネコのような耳に、長い尻尾、か」
ダイゴは何か思い当たるポケモンがいるようで、口元に手を当てて思案するポーズを取るが、口に出すことはない。
ポケモンの正体が気になるものの、それが再び姿を現すことはなかった。
ジャングルに鬱蒼と生い茂る草木を掻き分け、ひたすら突き進むサニワたち。突然開かれた場所に出ると、そこには。
「あ、あれって……‼︎」
「何故ここに、あるんですか……⁉︎」
旧式の転送装置が、蔦に覆われた姿でうっそりと佇んでいた。
サニワとこんのすけは駆け寄り、転送装置の状態を確認する。しばらく動かすことはなかったからか、起動するまでには時間がかかりそうではあるものの、運転に関しては問題なさそうだ。
「やっと……やっと帰れるね。皆が待つ本丸に!」
「長い旅路にございましたね、主さま」
「……ついに、お別れか」
ダイゴはサニワの小さな身体を抱き締めた。彼はこの世界では比較的体慎重の部類に該当するが、それよりも華奢で細く小さな身体は、すっぽりとその腕に収まった。
「ダイゴさま。今まで、本当にありがとうございました。本丸へ帰還できるのも、ダイゴさまのお陰です」
「……ダイゴ様。ありがとうございました。お礼といっては何ですが、これを」
サニワが渡したのは、腕に装着していたダイマックスバンド。少し茶色く滲んでいるのは、血液による染みが取れなかったからだ。
審神者の体液には多少の霊力が含まれている。血が染み込んだダイマックスバンドにも、それは移っていた。
それに加え、サニワが
「これは……ダイマックスバンドかい?」
「小官が持っていても、宝の持ち腐れになるだけ。大切に扱っていただける方が、それ自身も喜ぶことでしょう。きちんとお護りするように言い聞かせておきましたので、きっと、貴方の何かの役に立つはずです」
「付喪神と共に暮らすサニワちゃんが言うことだしね。ありがたく受け取っておくよ」
ダイマックスバンドを素直に受け取るダイゴ。その手はかたかたと震えていた。その透き通った瞳からは、五月雨のようにはらはらと涙が零れ落ちる。
「……主さま。転送装置の起動、そして本丸の位置入力が完了しました。参りましょう」
「ダイゴ様、今まで本当にお世話になりました。この感謝を、何と言葉に表したら良いか……本当に、ありがとうございました。……では、ご機嫌よう」
荒れ狂う川のように。壊れた蛇口のように。ただひたすら頬を濡らすダイゴに対し、薄日が差すように。吾子を見守る聖母のように。微笑を貼り付ける少女の顔は、どこか儚げだった。
微笑みを浮かべる別れが惜しいと思ったのだろう。一粒の涙が、牡丹色に染まったまろい頬を伝う。それは、真珠のように。
「さよなら、サニワちゃん……」
「さよなら……!」
サニワたちが転送装置に乗り込むと、途端に聞きなれない言語でアナウンスが流れる。そして、眩い光が周囲を包んだかと思うと。
「……行っちゃった、のか」
彼女たちの姿は、煙のように。幻のように。消え去ってしまった。
決して紛失するまいと、力強く握り締めているダイマックスバンド。そこに大粒の涙がぽたり、ぽたりと滴り落ちる。
ダイゴはその整った顔を覆い、声を出さずに、肩を震わせて咽び泣いた。自分が泣いていることを、この世界の誰にも知られたくないという様子で。
4/4ページ