第47話
サニワの前に姿を現したホウオウは、まるでここが自らの巣であるかのようにマイペースに毛繕いを始める。もし今モンスターボールを投げればゲットできるかもしれない。それほどまでにホウオウはリラックスしていた。
あまりのマイペースさに、その寛ぎように、ぽかんと口を開けるサニワたち。ところがその毛繕いはすぐに終わる。
一枚の翼の羽を器用に嘴で引き抜くと、その羽をサニワへ託すかのように渡した。まるで、神が神聖な御霊代を直接的に託すかのように。
あの大きな巨体は遠くから見ても目立つ。サニワの目の前に降り立ったホウオウを視界に入れたダイゴは、慌てて彼女の元へ駆け寄ってきた。近寄る姿を目撃したホウオウは、再び空の彼方へ飛び立った。
「サニワちゃん‼︎ 今、ホウオウが空を飛んでいたんだけど……何かされなかった⁉︎」
「ご心配なく、何もされませんでした。ただ一方向へ飛翔していっただけと思われます」
「そうか……無事なら別に良いんだけど。それは?」
サニワが手にしている虹色の羽。それをダイゴが訝しげに見詰める。サニワも不思議そうにいじくっていた。
ホウオウが自らの羽を引き抜きサニワへ手渡したその光景を目の当たりにしたショータは、興奮覚めやらぬ様子でダイゴへ報告する。
「僕、見てましたよ! ホウオウが自ら羽を引き抜いて、サニワさんへ渡したんです‼︎」
「貰った……のでしょうか? あのホウオウからは、特に悪意や敵意といったものは感じられませんでしたが」
まじまじと手にする羽を見詰めるサニワ。特に虹色に輝く以外は、本当に普通の鳥の羽。強いて言うならば巨体に見合うほど大きな羽ということだろうか。
似たような大きさの羽を似たように加工すれば、本物か贋作か見破るのは至難の業だろう。
「サニワちゃんは、もうすぐ元の世界に帰るだろう? 餞として受け取ってもいいんじゃないかな」
「……そう、ですね。そのように考えることといたします」
ジガルデもサニワを「神の愛し子」と形容していた。ポケモンたちには、付喪神、その上分霊といえど、神々の主として君臨するその実力、そして彼女に宿る神通力が本能的に察知できるのだろう。
虹色の羽を軍服のポケットへ納めると、ダイゴは小さな袋を見せた。中には黄ばむほど古びた紙くずが入っている。
「フレア団のメガシンカエネルギーの研究やエネルギーの抽出方法については、基本的にパソコンとかのデジタル媒体で管理されていたようでね。サーバは施設ごと吹き飛んでしまった」
「それじゃ、収穫はないってことですか……」
ダイゴの報告に、ショータはしょんぼりとうな垂れる。だが、こんのすけは手当たり次第にインターネットの海を探っていた。データがクラウドなどに保存されていればまだ希望はある。
幸いに保管されたバックアップデータを見つけ出したものの、厳重なセキュリティによってロックされていた。
「なるほど、易々他人の手に渡らせる気はないようだね。まずはセキュリティを突破しないと厳しそうだ。あぁ、そうだ。気になるものを見つけたんだけど、神通力で何とかできるかな?」
「神通力⁉︎ サニワさん、神通力使えるんですか⁉︎」
「そうだよ。ボクは見たことないけどね。実際に探し物の場所を言い当てたり程度だし」
「それでも十分凄いですよ! まだまだ知らないことが沢山ありますね……!」
目を点にするショータとジュカインに、自慢するようにサニワの頭をこれでもかと撫で繰り回すダイゴ。
そんな彼が手にしている袋には、黒焦げになった紙くずが入っていた。焼け残っている部分は、相当古びているのだろう。酷く黄ばみ、インクは茶色に変色しており、何が描いてあるかわからないほど損傷していた。
「可能かどうかは不明ですが、できる限りのことはさせていただきます」
「ハッキングは僕にお任せください! こちらの世界の文字に変換するため、少々時間がかかりますけど」
意気揚々と答えるこんのすけは、早速持てる技術を駆使してフレア団のセキュリティを突破していく。
その間、サニワはダイゴから袋を預かると、紙くずに手を翳した。
淡い光が彼女の小さな白磁の手から零れ出し、まるで逆再生の動画を見ているかのように、ひとりでに紙が元来の姿を取り戻していく。
紙は一枚の海図のようだ。申し訳程度に記されている文字をショータが解読する。
「えーっと……ギアナ?」
「ギアナ⁉︎ 今、ギアナっておっしゃいませんでした⁉︎」
「え⁉︎ あっ、はい! ギアナって言いました……けど、それが……何かあるんですか?」
こんのすけとサニワの顔が一気にショータの方向へ向けられる。これでもかと目が開いており、その食いつきようにショータとダイゴはやや戦慄した。
だが、サニワが暮らしていた世界にも同名の場所が存在する。カロス地方はフランスと国土が瓜二つだが、南米のギアナ地方は一部フランス領だ。
なぜフラダリがこの場所への地図を入手できたのか、この場所の目的は不明だが、これはかなりの収穫になりそうだ。
「もしかしたら……ジガルデが言っていた『最果ての孤島』って、ギアナのことかもしれないね。ボクの知り合い……というより四天王のゲンジに船乗りの伝手があるから、当たってみるよ」
「ありがとうございます! あ、ハッキング完了しましたのでデータをデボンの方に送っときましたよ」
「速いね⁉︎」
「正直、情報セキュリティがこちらの世界基準に比べてガッバガバだったので超が付くほど余裕でした。パスワードを何回でも入力できるのは、どうぞ総当たりで入力して突破してくださいって言ってるようなものですし、そもそもパスワードが推測できるレベルですし。僕、数回パスワード打ち込んだだけですよ」
「軍隊の位置、損失、進軍計画がハッカー集団によってSNSで割り出された話もございます。SNSを含め、情報を扱うには細心の注意を払うべきです」
サニワちゃんの世界、絶対に敵に回しちゃ駄目なタイプだな。
よくやったとこんのすけのもふもふした頭を撫でるサニワを眺めつつ、ダイゴとショータは本日二度目の戦慄を覚えた。
あまりのマイペースさに、その寛ぎように、ぽかんと口を開けるサニワたち。ところがその毛繕いはすぐに終わる。
一枚の翼の羽を器用に嘴で引き抜くと、その羽をサニワへ託すかのように渡した。まるで、神が神聖な御霊代を直接的に託すかのように。
あの大きな巨体は遠くから見ても目立つ。サニワの目の前に降り立ったホウオウを視界に入れたダイゴは、慌てて彼女の元へ駆け寄ってきた。近寄る姿を目撃したホウオウは、再び空の彼方へ飛び立った。
「サニワちゃん‼︎ 今、ホウオウが空を飛んでいたんだけど……何かされなかった⁉︎」
「ご心配なく、何もされませんでした。ただ一方向へ飛翔していっただけと思われます」
「そうか……無事なら別に良いんだけど。それは?」
サニワが手にしている虹色の羽。それをダイゴが訝しげに見詰める。サニワも不思議そうにいじくっていた。
ホウオウが自らの羽を引き抜きサニワへ手渡したその光景を目の当たりにしたショータは、興奮覚めやらぬ様子でダイゴへ報告する。
「僕、見てましたよ! ホウオウが自ら羽を引き抜いて、サニワさんへ渡したんです‼︎」
「貰った……のでしょうか? あのホウオウからは、特に悪意や敵意といったものは感じられませんでしたが」
まじまじと手にする羽を見詰めるサニワ。特に虹色に輝く以外は、本当に普通の鳥の羽。強いて言うならば巨体に見合うほど大きな羽ということだろうか。
似たような大きさの羽を似たように加工すれば、本物か贋作か見破るのは至難の業だろう。
「サニワちゃんは、もうすぐ元の世界に帰るだろう? 餞として受け取ってもいいんじゃないかな」
「……そう、ですね。そのように考えることといたします」
ジガルデもサニワを「神の愛し子」と形容していた。ポケモンたちには、付喪神、その上分霊といえど、神々の主として君臨するその実力、そして彼女に宿る神通力が本能的に察知できるのだろう。
虹色の羽を軍服のポケットへ納めると、ダイゴは小さな袋を見せた。中には黄ばむほど古びた紙くずが入っている。
「フレア団のメガシンカエネルギーの研究やエネルギーの抽出方法については、基本的にパソコンとかのデジタル媒体で管理されていたようでね。サーバは施設ごと吹き飛んでしまった」
「それじゃ、収穫はないってことですか……」
ダイゴの報告に、ショータはしょんぼりとうな垂れる。だが、こんのすけは手当たり次第にインターネットの海を探っていた。データがクラウドなどに保存されていればまだ希望はある。
幸いに保管されたバックアップデータを見つけ出したものの、厳重なセキュリティによってロックされていた。
「なるほど、易々他人の手に渡らせる気はないようだね。まずはセキュリティを突破しないと厳しそうだ。あぁ、そうだ。気になるものを見つけたんだけど、神通力で何とかできるかな?」
「神通力⁉︎ サニワさん、神通力使えるんですか⁉︎」
「そうだよ。ボクは見たことないけどね。実際に探し物の場所を言い当てたり程度だし」
「それでも十分凄いですよ! まだまだ知らないことが沢山ありますね……!」
目を点にするショータとジュカインに、自慢するようにサニワの頭をこれでもかと撫で繰り回すダイゴ。
そんな彼が手にしている袋には、黒焦げになった紙くずが入っていた。焼け残っている部分は、相当古びているのだろう。酷く黄ばみ、インクは茶色に変色しており、何が描いてあるかわからないほど損傷していた。
「可能かどうかは不明ですが、できる限りのことはさせていただきます」
「ハッキングは僕にお任せください! こちらの世界の文字に変換するため、少々時間がかかりますけど」
意気揚々と答えるこんのすけは、早速持てる技術を駆使してフレア団のセキュリティを突破していく。
その間、サニワはダイゴから袋を預かると、紙くずに手を翳した。
淡い光が彼女の小さな白磁の手から零れ出し、まるで逆再生の動画を見ているかのように、ひとりでに紙が元来の姿を取り戻していく。
紙は一枚の海図のようだ。申し訳程度に記されている文字をショータが解読する。
「えーっと……ギアナ?」
「ギアナ⁉︎ 今、ギアナっておっしゃいませんでした⁉︎」
「え⁉︎ あっ、はい! ギアナって言いました……けど、それが……何かあるんですか?」
こんのすけとサニワの顔が一気にショータの方向へ向けられる。これでもかと目が開いており、その食いつきようにショータとダイゴはやや戦慄した。
だが、サニワが暮らしていた世界にも同名の場所が存在する。カロス地方はフランスと国土が瓜二つだが、南米のギアナ地方は一部フランス領だ。
なぜフラダリがこの場所への地図を入手できたのか、この場所の目的は不明だが、これはかなりの収穫になりそうだ。
「もしかしたら……ジガルデが言っていた『最果ての孤島』って、ギアナのことかもしれないね。ボクの知り合い……というより四天王のゲンジに船乗りの伝手があるから、当たってみるよ」
「ありがとうございます! あ、ハッキング完了しましたのでデータをデボンの方に送っときましたよ」
「速いね⁉︎」
「正直、情報セキュリティがこちらの世界基準に比べてガッバガバだったので超が付くほど余裕でした。パスワードを何回でも入力できるのは、どうぞ総当たりで入力して突破してくださいって言ってるようなものですし、そもそもパスワードが推測できるレベルですし。僕、数回パスワード打ち込んだだけですよ」
「軍隊の位置、損失、進軍計画がハッカー集団によってSNSで割り出された話もございます。SNSを含め、情報を扱うには細心の注意を払うべきです」
サニワちゃんの世界、絶対に敵に回しちゃ駄目なタイプだな。
よくやったとこんのすけのもふもふした頭を撫でるサニワを眺めつつ、ダイゴとショータは本日二度目の戦慄を覚えた。