第47話

 サニワをミアレシティのプラターヌ博士の研究所まで迎えに来たダイゴは、カロスリーグ出場者だった実力者、ショータを連れてきた。サニワは現在、ポケモンたちを連れていないただの少女。襲われたらひとたまりもないので、護衛として抜擢されたのである。

 三人が向かった先は、原形を留めていないフラダリラボだ。
 巨石の進軍の際に倒壊されたものの、いまだフラダリ———フレア団が隠蔽している技術や、メガシンカについての秘密があるかもしれない。ダイゴはそう考えていた。
 目的地に到着したダイゴは車を停めて下車する。ショータもそれに続いたが、サニワの足取りは覚束ない。


「サ、サニワさん……大丈夫ですか?」
「お恥ずかしながら、あまり乗り物には慣れていないのです。ポケモンの背に乗る分には問題ありませんが、やはり、敵軍の制圧には制空権が必須条件だと感じますので、多少慣れておいた方が……」


 サニワは幼いながらも歴とした軍人だ。
 それに彼女の世界では、いつもどこかで戦争が勃発していたため、平和な時代がほんの百年程度しかない。表面上では仲良く握手しているものの、机の下では蹴り合いしているような緊張状態、停戦状態の除外すれば更に狭くなるだろう。
 そんな戦火の中と平穏無事なこの世界では、カルチャーショックが起きるのも何らおかしくはない。
 だが、何処が地雷地帯なのかわからないのはたまったものではない。特にこちら側の世界のダイゴやショータがダメージを被るばかりだ。慌ててダイゴは話題を逸らし、フラダリラボ跡地を調査し始める。


「さて、ここに来たからにはフラダリラボを調査しなきゃね。サニワちゃんはここで良い子で待ってて」
「意見具申許可願います。小官も任務に志願します! 僭越ながら、小官は任務に完全に堪えうると確信します!」
「……キミの気持ちは嬉しいけれど、今はポケモンを連れていないだろう? ここで待ってるんだ。良いね」
「……わかり、ました」


 ダイゴに付いて行く気満々だったサニワも後を追うが、彼女はちょっとやそっとですぐに負傷するのだ。この世界ではかなりの虚弱体質にあたると理解している彼女は、不満そうではあるものの、ダイゴの言葉に素直に従った。
 確かに頼りになるポケモンも連れず、武器すらも持たない彼女はただの幼い子どもに過ぎない。足手纏いになるのは目に見えていた。
 ダイゴはサニワをショータへ託し、フラダリラボ跡地のクレーターへ足を進めた。

 つまらなさそうにその辺りの瓦礫に腰かけ、ぷらぷらと足をぶらつかせるサニワ。その姿は珍しく年相応の幼子に見える。
 ショータはその隣に腰を下ろすも、憧れの人の傍にいる状態。極度の緊張状態だ。今にも心臓が爆発しそうな錯覚を覚えていた。
 座るだけでも内心パニックだというのに、とにかく何か話しかけようと必死だった。


「そ……そういえば、サニワさん! ミアレシティが蔓で破壊されて、その……復興にはしばらくかかるみたいで」


 自分は何を言ってるんだ。
 慌てて話題を修正しようと愛用している手帖を見詰めるも、特に話題は見つからない。緊張状態における会話の経験値が欲しい。内心やっちまったとショータは頭を抱えた。
 まるでぽつぽつと独り言ちるかのようであったために、始めはあまり聞き取れなかったが、サニワは彼の言葉を返していた。


「確かに、復興に時間はかかります。ですが、人間は何度でも立ち上がることができるもの。小官の世界も……小官の国も、戦禍によって街が焦土と化しましたが、焼け野原から見事復興を遂げました。それにこの世界には、ポケモンという愛すべき隣人がおります。彼らと手を取り合うことで、復興の速度は更に速まるでしょう。絶対に、ミアレシティは復興して、更なる発展を遂げるものと確信いたします」
「ほ、本当ですか⁉︎」
「本当です。異世界のものと言えど、小官は実際に復興の歴史を見てきたのですから。小官の世界でも見事返り咲いたのです。ポケモンたちもいるこの世界で、できない理由がありません」


 廃虚……否、クレーターを確と見据えるサニワ。異世界出身であり、霊能力者である彼女には、ショータとは異なる景色が映っているのだろう。
 もしかして、復興した、未来のミアレシティが視えているのだろうか。ショータが尋ねようと口を開いた、その時。


「ショオォォーーーーーーーーッ‼︎」


 ジョウト地方のエンジュシティに伝説が伝わるポケモン、ホウオウ。サニワたちの頭上を虹の橋を架けて行く。頭上を空高く舞い踊るその姿は、まさに虹そのもの。その圧倒的な荘厳さに、ショータは思わず息を飲む。


「あのポケモンは一体……⁉︎」
「ホウオウ……ジョウト地方に伝わる伝説のポケモンです。でもどうしてこんな場所に」


 こんのすけが困惑する中、虹色に煌めく巨体がサニワの目前に舞い降りる。目の前に降ってきた神秘的なそれは、まるで神の啓示のようだった。
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