第40話

 フラダリラボの一室。そこでは、サニワが寝息を立てて眠っていた。ただでさえ真っ白な肌は血の気が引き、更に青白い。
 あまりにも生気を感じられないその姿に、一瞬プラターヌは人形かと見紛うほどだった。
 サニワを抱き上げると、そのあまりの軽さに衝撃を受けた。昏睡状態では食事も取れないだろうし、動きもしない。点滴で命を繋いでいた彼女は。枯れ葉のように軽かった。

 プラターヌが救出作業に当たっている間、セレナとマノンは下っ端たちと応戦していた。
 自身の主人の危機とあらば、たとえ新人トレーナーであっても味方の命令を受け入れるのがサニワのポケモンだ。マノンの指示に従い、相手のポケモンを薙ぎ倒していく。
 ところがキュウコンやサーナイトの圧倒的な火力をもってしても、うじゃうじゃと次から次へと湧いてくる。


「サニワさんは⁉︎」
「大丈夫! ほら……!」
「よかった……!」
「だけど、あまりにも身体が軽すぎる。辛うじて点滴で命を繋いでいたから、無理もないか」
「そんな……」
「後は、これをどう切り抜けるか、だが……」


 プラターヌの視線がサニワから下っ端たちへ移る。自分が戦闘に参加しては、意識を失っている彼女が守れないだろう。それに異世界出身である彼女は極端に脆い。もしも攻撃が当たってしまえば、命を落とすのは明白だった。
 ふわり、と下っ端たちが宙に浮かぶ。突然の出来事に困惑する下っ端を浮かせたのは、ダイゴのメタグロスだ。


「キミたち、痛い思いは嫌だよね?」
「ダイゴさん!」


 見慣れた顔に安堵するマノン。思わぬ援軍に意識を逸らされたヘルガーたちを、サーナイトのムーンフォースが強襲する。その圧倒的な力は下っ端もろとも吹き飛ばした。
 プラターヌからサニワの身柄を受け取ったダイゴ。サニワの背が低いからよく抱き上げることがあったけれど、彼女が目を覚ましている頃よりも格段に小さくなってしまったような。そんな感覚に陥る。サニワはそれほどまでに痩せ細ってしまっていた。


「サニワちゃん、助けに来たよ。さ、ほら。目を覚ましてくれ……」


 ダイゴの呼びかけにも、ぴくりとも反応しないサニワ。まるで呪いをかけられた眠り姫のようだ。
 もしかしたら、呪いを解くヒントが存在するかもしれない。ダイゴたちは巨石の鎮座する部屋へ移動することに決めた。

 一方、ミアレシティでは。ユリーカはバシャーモ仮面とメガバシャーモに力を借り、洗脳されたプニちゃんの前に躍り出ることができた。


「プニちゃん、もう平気だよ! 私よ、ユリーカ! プニちゃん、本当はこんなことしたくないんだよね。ユリーカわかるよ!」


 必死に呼びかけ、苦痛を分かち合おうとするユリーカ。ところが、洗脳されたプニちゃんはユリーカを認識できず、蔦が彼女を襲う。咄嗟にバシャーモ仮面がユリーカを庇い、彼は瓦礫に吹き飛ばされた。


「バシャーモ仮面!」


 ユリーカの目には大粒の涙が溢れ出し、ぽたりと地面に染み込んだ。ポシェットの中のデデンネが心配そうに彼女を見上げる。
 声を潤ませながら口ずさんだのは、以前平和だった時に、こんのすけとプニちゃんで一緒に遊んだ時の歌だ。
 一緒に野原で駆け回った、あの時の記憶。あの楽しかった思い出を、プニちゃんに思い出して欲しいから。

 徐々に蔦を忍ばせるジガルデに、メガバシャーモとデデンネは非力なユリーカを守るように背に庇う。
 ところがプニちゃんは、彼ら諸共吹き飛ばさんと、竜の波動の発射を準備した。口元にエネルギーが集まっていく。
 それでも逃げようとしないユリーカを、満身創痍のバシャーモ仮面が覆いかぶさった。もし直撃でもすれば。バシャーモ仮面諸共吹っ飛ばされることだろう。
 遂に竜の波動が発射されたが、バシャーモ仮面やユリーカには当たらずに、その軌道はぐにゃりと捩れ曲がる。竜の模った光線は、ユリーカたちの頭上にある建物に衝突した。その衝撃で大きな瓦礫が彼らの頭上に雪崩れかかった。押しつぶされると思い、ユリーカはぎゅっと目を瞑る。
 でも、ユリーカは何ともない。恐る恐る彼女が目を開くと、その視界に広がったのは、真っ黒な、蛇のような、大きな身体。


「聞こえたんだね。あたしの声……!」


 プニちゃんの体色は、赤色から本来の若草色に戻っていた。
 洗脳を解き、我に戻ったプニちゃん。おもむろにユリーカへ頬擦りをひとつすると、淡い緑色の光を放ちながら、元のコアの姿へ戻っていった。
 その光景はプリズムタワーの屋上でも確認され、フラダリは洗脳装置の開発者であるクセロシキと連絡を取る。


「クセロシキ、どうなっている⁉︎」
「フラダリ様、今それどころじゃないんだゾ! 侵入者と交戦中! ミアレジムのジムリーダーだゾ‼︎」
「どいつもこいつも……‼︎」


 多数の部下に裏切られ、予想外の事態が相次ぎ、計画の頓挫の気配を察知したフラダリは頭を抱える。ぐしゃりと、整えられた髪が崩れた。
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