第39話

 フレア団の手によって、洗脳されたジガルデは、次々とミアレシティを破壊していく。蔦はアスファルトで舗装された牢固たる地面を突き破り、堅牢な建造物に風穴を開け、薙ぎ倒す。


「アラン、君のお陰だよ。ジガルデをコントロールするのに、メガシンカエネルギーを使った。キミが集めたメガシンカエネルギーは、世界を破壊するのにとても役に立っている」


 フラダリの酷薄な言葉に、アランは衝撃のあまり目を見開く。四天王ズミとのバトルも、ダイゴとのバトルも、コルニとのバトルも。全ては、代表のために、世界平和のためになると信じていたからだ。
 そんな彼に追い討ちをかけるかのように、フラダリの言葉が投げ掛けられた。


「見てみろ。この世界に明日は来ない! 日が昇れば新しい世界になっているのだ! 終わるということはこんなにも美しい! まさしく平和への第一歩だ‼︎」

『彼はメガシンカの平和利用、と語っておりましたが……彼の言う平和は、果たして本当の意味での平和なるものなのか、疑問を感じざるを得ません。フラダリ氏と関わるのは止めるべきだと確信いたします。彼の狂気が幕を上げる前に!』


 サニワは、フラダリに潜む狂気を遂に見破っていたのだ。
 デボンコーポレーションの本社で、サニワはアランに対し忠告していた。その言葉が壊れたレコードのように、アランの脳内に何度も響き渡る。
 あの時の言葉を、素直に聞いていたら。自責の念に襲われたアランは、膝が崩れ落ちた。だがもう遅い。

 異世界出身の軍人であるというサニワはこの事態を予知していたのか、自ら眠り姫となっ(意識を絶やし)た。まだ幼い彼女を、この手で眠らせ(ころし)たも同然だ。
 思わずアランは自分の両手を見詰める。グローブを嵌めた自分の手が、少女の鮮血で赤黒く汚れているような錯覚を覚えた。まるで、あのカナズミ沖で小さな身体を抱き上げた、あの時のように。


「……アラン」
「サニワ……こんのすけ……! 俺は一体、何のために戦ってきたんだ! 俺は、俺はッ……‼︎」


 アランの吐露は、誰にも答えられることなく、虚空へと消えていく。悔しそうに拳を握り、何度も床に打ち付けた。
 眠り続けているサニワを起こすために、アランは一人でメガシンカエネルギーを収集していた。ところがその尊い願いは、フラダリの狂気によっていとも容易く捻り潰されたのだった。

 プリズムタワーでシトロンたちと別れ、研究所に向かうセレナ、マノン、そしてプラターヌ。変わり果てた街並みを駆け抜けていると、先回りしたロケット団が物陰からひょっこりと現れた。
 完全に報道陣として変装している彼らにマノンたちは警戒心を抱くことはない。


「あらー! こんな危険なところで何をしているの?」
「フラダリラボに行かなくちゃいけないの! 大事な人が、友だちがいるの……‼︎」
「何だってー⁉︎ それは大変だ‼︎」
「私たちはミアレテレビ局の者よ。ちょうど良かった! 案内してくれたら、ヘリで送ってあげるわ!」


 報道リポーターに扮したムサシが指を差したのは、一台のヘリ。報道局から支給されたものだ。
 またとない提案に、マノンたちは喜んで首を縦に振る。早速用意されたヘリに搭乗した一行は、フラダリラボへ向けて飛び立った。

 洗脳されたジガルデ———Z2———と、プニちゃんによる激しい攻撃の応戦。Z2はプニちゃんを圧倒し、情け容赦なく吹き飛ばす。
 諦めずに再度突撃しようとしたプニちゃんを、Z2は蔦で雁字搦めにして搦め捕った。
 その光景をにんまりと恍惚に眺めるのは、フレア団の幹部であり科学者であるクセロシキ、そしてフラダリだ。


「サトシ君。キズナ現象を、私の世界に利用させてもらうよ! 石もないのにその強い力を得る。初めて見た時私は嬉しかったのだ! まだまだポケモンには、無限の可能性があると思い知らされた! 私もその力が欲しい‼︎」


 狂気に満ちたフラダリの傍に、蝿のような羽音を出す機械が二つ現れた。その小さな機械の中央に嵌め込まれたレンズから、鮮血の如き赤黒い光がサトシに発射した。
 壮絶な苦痛がサトシを襲う。サトシから漏れ出たのは絶叫だった。


「この光は、ジガルデを支配するほどの強力なエネルギー。サトシ君、そしてゲッコウガ! 君たちのキズナ現象を、私が支配する‼︎ これで君たちも、私のものとなってもらう‼︎」
「うわああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎」


 自らの主人を心配そうに見詰めるポケモンたち。だが、手足を堅く拘束されて動くことができない。
 必死にアランが止めるようにフラダリへ懇願し、ピカチュウがサトシを呼んだ、その時だった。
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