第38話

 サトシとアラン、そしてこんのすけは、無事だったマノンの元へ到着した。ところがその場所も、いずれ蔦に覆われてしまうだろう。
 リザードンのドラゴンクローやピカチュウのアイアンテールで蔦を破壊していくが、次から次へと生えてくる為、きりがない。

 ピカチュウの10万ボルトとリザードンの火炎放射が蔦に直撃。煙が上がったその直後、ヘドロ爆弾がサトシたちの近くに放たれた。
 その方向を見ると、以前こんのすけとプニちゃんを追い詰めていた、赤いスーツを身に纏った女とドラピオンの姿があった。


「お前は……こんのすけとプニちゃんを狙ってた!」
「やだ! 覚えてた? でも今日ゲットしたいのは……キミなの」
「俺……?」
「どういうことだ⁉︎」
「代表の命令よ」


 女の意図がわからず、身構えるサトシとピカチュウ。こんのすけはグルルルと喉を鳴らして威嚇していたが、自分やプニちゃんが目的ではないと知ると、アランの背後に隠れた。
 どういうことだとアランが問いただすも、女は「代表が待っている」という返答のみ。

 まさかフレア団に手を貸していたとは到底思えないサトシはアランの手を掴んで一緒に逃げようとするも、その手を払い退ける。
 困惑するサトシとピカチュウを、ドラピオンの放った怪しい光が取り囲む。ポケモンでも混乱状態に陥るそれを人間が受ければ、相棒の10万ボルトをよく受けているサトシですらも意識を失って倒れてしまった。

 何とか自我を保っているピカチュウが、サトシを護ろうと傍に駆け寄り、頬の電気袋からばちばちと放電させる。しかしながら、ピカチュウ自身の意識もすぐに途切れてしまった。


「運んで」


 部下に指示を出すフレア団の女の声は、感情を読み取れないほど淡々としていた。部下たちはサトシの手足を拘束すると、そのまま連れ去っていく。
 アランもリザードンをボールへ戻すと、彼らと共にフラダリの元へ移動した。

 変装したロケット団が、中継でミアレの危機を必死に伝えていた。ところがその中継が途切れてしまう。
 そしてその番組をハイジャックしたかのように、フレア団のマークが画面へ浮かび上がった。


「親愛なるカロス地方、並びに全世界よ! 我が名はフラダリ。そして我が志もとに集いしフレア団が、ここに宣言する‼︎」
「フラダリさん⁉︎」


 突如始まった放送に、避難民たちは画面に釘付けになる。それは避難していたマノンも同じだ。
 フラダリによる演説は、彼の狂気が幕を開けることを告げていた。


「我々はこの世界を、美しく作り変えるものである‼︎」


 カロス地方の秩序を司る伝説のポケモン・ジガルデ。フレア団はカロスもとい全世界の秩序が乱れているとして、ジガルデと手を組んだと説明する。
 実際には洗脳し、無理やりフラダリのもとに従わせているのだが、その事実はもちろん隠蔽した。

 人々は愚かに過ぎず、一つしかないものは分け合い、分け合えなければ奪い合う。奪い合えば足りなくなる。争わず、奪い合わず、美しく生きていくには、命の数を減らすしかない。選ばれたものだけが、明日を手に入れる。
 フラダリの演説は綺麗な言葉で語られているが、要約すれば選民思想、そして大量虐殺だ。


「サニワさんが……サニワさんが言ってたこと、本当だったんだ……!」


 デボンコーポレーションで、サニワがアランへ忠告していた。フラダリと関わるのは止めておけと。あの忠告が現実となったのだ。
 マノンが背後から声をかけられる。声の主はアランではなく、フレア団に所属する男だ。


「マノン様。フラダリ様からお連れするように言付かっております」
「嫌っ!」


 嫌がるマノンを無理やり連行しようと、彼女の腕を掴もうとしたフレア団の男。その手を制止させたのは、プラターヌ博士だった。
 男はスコルピを繰り出し、毒針を指示する。プラターヌはガブリアスに、ドラゴンクローで毒針を破壊するように指示を出し、破壊された毒針が爆発。かなり大きな衝撃だったようで、煙と衝撃波が発生する。
 煙が晴れた時には、既にマノンとプラターヌ博士、そしてガブリアスの姿はなかった。

 何とかフレア団団員から逃げ切り、マノンとプラターヌ博士は切らした息を整える。
 その際に、アランに会ったこと、サトシと行動していたことを、息が混じった声で伝える。


「アランに会ったのかい⁉︎」
「サトシと一緒にいました。プリズムタワーがどうとか……」
「そうか……。サトシくんたちが危ないかもしれないんだ。プリズムタワーへ向かおう」


 プラターヌ博士から離れないように言い渡されるマノン。
 テレビを通して演説していたフラダリの言葉。もう意識を失っているサニワがこの未曾有の事態を予知していた事実。


「博士……フラダリさんの放送とか、この事態とか……。サニワさん、察知してたんです。『フラダリさんの言う平和は、果たして本当の意味での平和なのか』って」
「なるほどね……。何が本当なのか、見極めなければ」


 蔦によって、フラダリの手によって、破壊されゆくミアレシティ。その光景を、マノンは不安げに見詰めていた。
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