第37話
サトシとアランの勝負は、僅差でアランの勝利になった。相性が不利なメタング相手に、オンバーンは善戦したと言えるだろう。
バトルに出る気万々のピカチュウが。しばらくの間頬を膨らませて不貞腐れていた。
ちょうどバトルが終わったと同時に、ポケモンセンターの回復が終わる。
早速アランはリザードンを、サトシは測定装置を装着したゲッコウガを戦闘に送り出した。
水手裏剣で攻撃するも、リザードンは全て躱しドラゴンクローをお見舞いする。勢いのあまりゲッコウガは吹き飛ばされたが、まだまだやる気のようだ。
影分身で相手を翻弄するが、分身を火炎放射で一掃。その隙にリザードンの背後へ回り込み、居合切りを食らわせた。
リザードンはアランへ顔を向け、一鳴きする。アランもリザードンの考えと同じようだ。
「ぎゃう!」
「あぁ。やはり彼らには、この力で挑む方が相応しい!」
アランとリザードンの石が共鳴し合い、リザードンがメガシンカする。雷パンチと燕返しが激突。リザードンを吹き飛ばし、その腹部に強烈な一撃を叩き込む。
今のところ、計測中のバトルパルスに変化はないようだ。
居合切りで相手の懐に急接近するゲッコウガ。ところがその攻撃を捕捉され、至近距離で火炎放射を浴びてしまった。
地面に片膝を付くゲッコウガはサトシの声援を受け、再び立ち上がろうとする。
「ゲッコウガ、まだいけるよな!」
「こーが!」
「そうこなくっちゃ!」
バトルパルスに乱れが生じた。闘志を燃やす二人の波形が、おもむろに重なっていく。
波形が完全に一致した、その時。ゲッコウガの姿に変化が訪れた。
威力が跳ね上がった居合切りで一気に距離を詰めるゲッコウガ。ギリギリで回避したリザードンは上空へ飛び上がると、火炎放射で追い詰める。
ごうごうと勢い良く燃え盛る紺碧の炎。それを雷切の逸話の如く、居合切りで切り裂いた。
上空から一気に舞い降りるリザードンの雷パンチ。それを跳躍して避けたゲッコウガは、燕返しを背中へ叩き込んだ。
「リザードン、お前も感じるか⁉︎ この二人の力‼︎」
「ぐあう‼︎」
アランの声に答えるように、雄叫びを上げるリザードン。その闘志は口から吹き出る炎の如く、更に燃え上がる。
ドラゴンクローと居合切りが激突し、リザードンが一瞬吹き飛ばされる。その隙を狙い、居合切りが炸裂。
土煙がもくもくと上がり、それが晴れた頃。リザードンは地面に倒れ込み、ゲッコウガは静かに佇んでいた。
だがまだバトルは終わっていない。再び攻勢に転じようとした、その時。サトシの身体に異変が生じた。身体がまるで凍てついたかのように動かない。視線も定まらない。息も乱れ、意識を保つのに精一杯だ。
何事だとシトロンが画面に視線を移すと、サトシの波形とゲッコウガの波形に乱れが生じていた。
そして。サトシは遂に、意識を失ってしまったのだ。
「どうしました⁉︎」
「サトシさま‼︎」
「こ、こんのすけ……⁉︎ お前、どうして……!」
サニワは意識を失った。その際にフラダリの元に身柄を移されたのだが、彼女のポケモンも、常に傍に引っ付いていた管狐も姿を消したのだ。
ずっと探していた存在が、目の前に現れた衝撃。アランは彼に尋ねたいことは山ほどあったが、それよりもサトシの容体が心配だった。
サトシが目を覚ましたのは、日が暮れる頃だった。
あの力はトレーナーにも相当な負担がかかるらしい。その力を完全に手中に収め切れないサトシは、その負担に耐え切れなかったのだろう。
「もう! サトシさま、気を付けてくださいよ! 僕は凄く心配したんですから!」
「ごめんごめん。俺……何か動かなくなっちゃって」
「今日はもう、無理せず休め」
アランの言葉に甘え、サトシは休息することに決めたようだ。バトルの約束をきっちりと交わして。
サトシの日焼けした手と、アランの色白の手が交わされる。再びバトルが出来るのはいつの日だろうか。サトシは疲労困憊ながらも、心を踊らせていた。
「……なあ、こんのすけを借りてもいいか。コイツに少し聞きたいことがある」
「アラン、こんのすけ知ってるのか⁉︎」
「……一時期、サニワと一緒に行動していた時期があってな。その時に知り合ったんだ」
「えぇ⁉︎」
「そうだったんですか⁉︎」
セレナ、シトロンが驚いた声を上げる中、アランはそっとこんのすけを抱き上げる。その手つきは優しいものだった。
「……すみません。再びバトルをされるときに、きっとまたご一緒できると思いますよ」
「ううん、こんのすけが謝ることないよ! 一緒に遊んでくれてありがとう!」
「では。またお会いしましょう」
ポケモンセンターを立ち去るアラン。彼の頭に乗っかったこんのすけは恭しく頭を下げ、サトシたちに一時の別れを告げた。
とっぷりと日が沈み、リザードンの力を借りて篝を焚くアラン。フレア団へ連絡を取るが、その傍にこんのすけの姿はない。
ホロキャスター越しに映し出されるのは、フレア団の団員だ。状況を淡々と報告し、通信を切断しようとしたが引き留められる。
映し出されたのは、甚兵衛羽織を身に付け、点滴の管に繋がれたサニワとマノンの映像だ。
「アラン、聞いて聞いて! 今日ね、サニワさんの耳がちょっとだけ動いたの! 起きてる時は髪と帽子で隠れててあんまりわからなかったんだけど、サニワさんの耳ってね、長くて尖ってるんだよ‼︎」
「……長くて、尖ってる?」
映像に目を凝らすと、確かにマノンの喋る通り、サニワのそれは通常よりも長く尖っている。
今までそういう事例は見たことがなく、マノンに尋ねようとするも、残念ながらこれは録画映像だ。マノンが答えることはなかった。
「どうして……どうして! お前はサニワの元を離れたんだ! なぜサトシたちと一緒に行動していた⁉︎」
「主さまの命令……主命です。僕が今お答えできるのは、これだけです」
「こんのすけ……。アイツは一体、何者なんだ」
「僕の仕える主人です。今お答えできるのは、これだけです」
「AIみたいな応答しかできないのかお前は」
やれやれと溜め息を零すアラン。対するこんのすけは笑殺するかのように、かしかしと頭を後ろ足で掻いた。
「主さまは何度も、フラダリから離れるべきだとご忠告されました。ですが、貴方はその忠告に傾聴することはなかった。貴方にも、何事にも変え難い、突き通す信念というものがあるのでしょう?」
「……まあな」
「ですが、僕にも譲れないものがあるのです。だから僕は、主さまの元を離れ、ダイゴさまの元を離れ、貴方たちの元を離れました。それが、主さまの命令でした。僕は忠実に、主命に従います」
術者に従うは、管狐の性 ですから!
えへん、と胸を張るこんのすけ。その小さな身体に背負う使命は、どれほどまでに大きいのか、アランにはわからない。
サニワの忠告を素直に聞いていれば。そうアランが後悔するまで、あと数日のことだった。
バトルに出る気万々のピカチュウが。しばらくの間頬を膨らませて不貞腐れていた。
ちょうどバトルが終わったと同時に、ポケモンセンターの回復が終わる。
早速アランはリザードンを、サトシは測定装置を装着したゲッコウガを戦闘に送り出した。
水手裏剣で攻撃するも、リザードンは全て躱しドラゴンクローをお見舞いする。勢いのあまりゲッコウガは吹き飛ばされたが、まだまだやる気のようだ。
影分身で相手を翻弄するが、分身を火炎放射で一掃。その隙にリザードンの背後へ回り込み、居合切りを食らわせた。
リザードンはアランへ顔を向け、一鳴きする。アランもリザードンの考えと同じようだ。
「ぎゃう!」
「あぁ。やはり彼らには、この力で挑む方が相応しい!」
アランとリザードンの石が共鳴し合い、リザードンがメガシンカする。雷パンチと燕返しが激突。リザードンを吹き飛ばし、その腹部に強烈な一撃を叩き込む。
今のところ、計測中のバトルパルスに変化はないようだ。
居合切りで相手の懐に急接近するゲッコウガ。ところがその攻撃を捕捉され、至近距離で火炎放射を浴びてしまった。
地面に片膝を付くゲッコウガはサトシの声援を受け、再び立ち上がろうとする。
「ゲッコウガ、まだいけるよな!」
「こーが!」
「そうこなくっちゃ!」
バトルパルスに乱れが生じた。闘志を燃やす二人の波形が、おもむろに重なっていく。
波形が完全に一致した、その時。ゲッコウガの姿に変化が訪れた。
威力が跳ね上がった居合切りで一気に距離を詰めるゲッコウガ。ギリギリで回避したリザードンは上空へ飛び上がると、火炎放射で追い詰める。
ごうごうと勢い良く燃え盛る紺碧の炎。それを雷切の逸話の如く、居合切りで切り裂いた。
上空から一気に舞い降りるリザードンの雷パンチ。それを跳躍して避けたゲッコウガは、燕返しを背中へ叩き込んだ。
「リザードン、お前も感じるか⁉︎ この二人の力‼︎」
「ぐあう‼︎」
アランの声に答えるように、雄叫びを上げるリザードン。その闘志は口から吹き出る炎の如く、更に燃え上がる。
ドラゴンクローと居合切りが激突し、リザードンが一瞬吹き飛ばされる。その隙を狙い、居合切りが炸裂。
土煙がもくもくと上がり、それが晴れた頃。リザードンは地面に倒れ込み、ゲッコウガは静かに佇んでいた。
だがまだバトルは終わっていない。再び攻勢に転じようとした、その時。サトシの身体に異変が生じた。身体がまるで凍てついたかのように動かない。視線も定まらない。息も乱れ、意識を保つのに精一杯だ。
何事だとシトロンが画面に視線を移すと、サトシの波形とゲッコウガの波形に乱れが生じていた。
そして。サトシは遂に、意識を失ってしまったのだ。
「どうしました⁉︎」
「サトシさま‼︎」
「こ、こんのすけ……⁉︎ お前、どうして……!」
サニワは意識を失った。その際にフラダリの元に身柄を移されたのだが、彼女のポケモンも、常に傍に引っ付いていた管狐も姿を消したのだ。
ずっと探していた存在が、目の前に現れた衝撃。アランは彼に尋ねたいことは山ほどあったが、それよりもサトシの容体が心配だった。
サトシが目を覚ましたのは、日が暮れる頃だった。
あの力はトレーナーにも相当な負担がかかるらしい。その力を完全に手中に収め切れないサトシは、その負担に耐え切れなかったのだろう。
「もう! サトシさま、気を付けてくださいよ! 僕は凄く心配したんですから!」
「ごめんごめん。俺……何か動かなくなっちゃって」
「今日はもう、無理せず休め」
アランの言葉に甘え、サトシは休息することに決めたようだ。バトルの約束をきっちりと交わして。
サトシの日焼けした手と、アランの色白の手が交わされる。再びバトルが出来るのはいつの日だろうか。サトシは疲労困憊ながらも、心を踊らせていた。
「……なあ、こんのすけを借りてもいいか。コイツに少し聞きたいことがある」
「アラン、こんのすけ知ってるのか⁉︎」
「……一時期、サニワと一緒に行動していた時期があってな。その時に知り合ったんだ」
「えぇ⁉︎」
「そうだったんですか⁉︎」
セレナ、シトロンが驚いた声を上げる中、アランはそっとこんのすけを抱き上げる。その手つきは優しいものだった。
「……すみません。再びバトルをされるときに、きっとまたご一緒できると思いますよ」
「ううん、こんのすけが謝ることないよ! 一緒に遊んでくれてありがとう!」
「では。またお会いしましょう」
ポケモンセンターを立ち去るアラン。彼の頭に乗っかったこんのすけは恭しく頭を下げ、サトシたちに一時の別れを告げた。
とっぷりと日が沈み、リザードンの力を借りて篝を焚くアラン。フレア団へ連絡を取るが、その傍にこんのすけの姿はない。
ホロキャスター越しに映し出されるのは、フレア団の団員だ。状況を淡々と報告し、通信を切断しようとしたが引き留められる。
映し出されたのは、甚兵衛羽織を身に付け、点滴の管に繋がれたサニワとマノンの映像だ。
「アラン、聞いて聞いて! 今日ね、サニワさんの耳がちょっとだけ動いたの! 起きてる時は髪と帽子で隠れててあんまりわからなかったんだけど、サニワさんの耳ってね、長くて尖ってるんだよ‼︎」
「……長くて、尖ってる?」
映像に目を凝らすと、確かにマノンの喋る通り、サニワのそれは通常よりも長く尖っている。
今までそういう事例は見たことがなく、マノンに尋ねようとするも、残念ながらこれは録画映像だ。マノンが答えることはなかった。
「どうして……どうして! お前はサニワの元を離れたんだ! なぜサトシたちと一緒に行動していた⁉︎」
「主さまの命令……主命です。僕が今お答えできるのは、これだけです」
「こんのすけ……。アイツは一体、何者なんだ」
「僕の仕える主人です。今お答えできるのは、これだけです」
「AIみたいな応答しかできないのかお前は」
やれやれと溜め息を零すアラン。対するこんのすけは笑殺するかのように、かしかしと頭を後ろ足で掻いた。
「主さまは何度も、フラダリから離れるべきだとご忠告されました。ですが、貴方はその忠告に傾聴することはなかった。貴方にも、何事にも変え難い、突き通す信念というものがあるのでしょう?」
「……まあな」
「ですが、僕にも譲れないものがあるのです。だから僕は、主さまの元を離れ、ダイゴさまの元を離れ、貴方たちの元を離れました。それが、主さまの命令でした。僕は忠実に、主命に従います」
術者に従うは、管狐の
えへん、と胸を張るこんのすけ。その小さな身体に背負う使命は、どれほどまでに大きいのか、アランにはわからない。
サニワの忠告を素直に聞いていれば。そうアランが後悔するまで、あと数日のことだった。