第37話

 翌朝の早朝。まだ日が昇ったばかりのこの時間帯、サトシたちはすやすやと眠っていた。
 そんな中、こんのすけはただ空を見詰めていた。眠ったままの自分の主人と離れ離れになり、寂しい思いを抱いていた。だからといって、自分に出来るのはプニちゃんをフラダリの手から護ることだけ。主人を目覚めさせることは出来ない。


「……主さま」


 ぽつりと呟いたこんのすけの声が、虚空に消え去った。その瞬間。
 突如宿泊していたポケモンセンターの窓ガラスが破られ、機械のアームがピカチュウとこんのすけを襲う。

 既に目が覚めているこんのすけは咄嗟に身を翻して回避に成功したものの、ぐっすり夢を満喫していたピカチュウは捕まってしまった。
 一体何が起きたんだと窓の外を見ると、そこにはニャースをモチーフにした気球が浮かんでいた。言わずもがなロケット団である。
 サトシは捕まったピカチュウに10万ボルトを指示するが、それを見越して電気対策が施されていた。


「早起きはロケット団の徳!」
「ぐっすり熟睡タイムなら苦労なくしてゲットできる!」
「ニャハハハハ! 何でこんな簡単なこと気が付かなかったのかニャ!」


 サトシたちを嘲笑うかのようにロケット団は去っていく。サトシたちは諦めずにロケット団をそのまま追いかけるが、パンプジンとマーイーカの攻撃によって阻まれてしまった。
 パンプジンの悪の波動が、無防備なサトシへ襲いかかる。だがサトシには直撃せず、目前で爆ぜた。

 橙色の大きな翼に、尻尾の先はごうごうと燃えている。リザードンがサトシを庇ったのだ。
 日差しを背に優雅に舞い降りたリザードン。その隣には、リザードンと同じくらいの背丈の少年が佇んでいた。


「リザードン、ドラゴンクロー!」


 少年の指示に従ったリザードンの鋭利な爪が、アームへ襲来する。アームは豆腐の如く見事に切り裂かれ、ピカチュウはアームから解放。空中へ放り投げられた。


「ピカチュウ! 10万ボルト!」


 ピカチュウはロケット団の位置を把握すると、強烈な電撃を放つ。
 電気対策を設けていたのは捕獲用のアームだけだったらしい。直撃した雷撃は大爆発を引き起こし、ロケット団は空の彼方へ吹き飛ばされたのだった。
 地面にぶつかる前にリザードンがピカチュウをキャッチ。無事ピカチュウはサトシの元へ戻ってきた。


「あの……」
「大したものだ。空中からあの体勢で、10万ボルトを打つとは」
「でもリザードンがいなかったら、それも出来なかったし……。ありがとな、リザードン!」
「ぎゃう!」


 リザードンの喉が動き、首元を彩るリザードンナイトが朝日に煌めいた。それに視線を奪われたサトシは、目を大きく見開いた。


「それはメガストーン⁉︎ まさかリザードンが⁉︎」
「見てみるかい? 俺のリザードンときみのゲッコウガでバトルをしよう。昨日のバトルを見たんだ。もう一度見てみたい」


 バトルを快諾したサトシは支度を整えると、早速ポケモンセンターに併設されているバトルフィールドへ移動する。審判はシトロンだ。

 先手必勝。早速サトシはゲッコウガへ水手裏剣を指示するが、リザードンのドラゴンクローで破壊されてしまった。
 今度は居合切りで攻撃するが、リザードンは身軽な動きでゲッコウガの斬撃を躱していく。
 ゲッコウガは次の攻撃に備えて一度距離を取った。アランはその隙を突き、強力な火炎放射がゲッコウガに向かって一直線に放たれる。
 効果は今一つなものの、威力はなかなかあるようだ。ゲッコウガの闘志はまだ燃えているが、地面に片膝を着いてしまった。

 アランのキーストーンと、リザードンのメガストーンが共鳴する。メガシンカだ。
 橙色の体色は漆黒に変化し、口から吐き出される炎の色も、更に温度の高い紺碧へ変わる。だがサトシのゲッコウガは何も変化はない。


「黒いリザードン……!」
「すごいすごいすごーい!」
「初めて見ました! なんて迫力……‼︎」
「ますます燃えてきた! 絶対に勝つぜ、ゲッコウガ!」


 審判のシトロンを含め、ギャラリー一同がメガリザードンの姿に目を点にする中、メガリザードンの相手を務めるサトシとゲッコウガは、更に闘志を燃え上がらせた。

 メガリザードンのドラゴンクローとゲッコウガの居合切りがぶつかり合う。威力はほぼ互角だ。
 距離を取り、ゲッコウガは影分身で混乱させるが、リザードンは火炎放射で影分身ごと一掃させた。先ほどの火炎放射と比較すると、焔の色も変化しており、威力も格段に跳ね上がっている。
 爆発した黒煙の中から、燕返しを食らわせるため懐へ突っ込むゲッコウガ。ところが雷パンチで迎撃されてしまう。
 効果抜群の電気技を受けた満身創痍のゲッコウガに、再び雷パンチが襲う。それでも辛うじて立ち上がったゲッコウガの身体に変化が訪れた。

 水を纏ったゲッコウガの燕返しが、リザードンの顎へ直撃する。だが一発食らわせただけで、状況が逆転したわけではない。
 リザードンの雷パンチがゲッコウガに向かい、居合切りで迎撃する。何とか受け止め切れたものの、至近距離のブラストバーンがゲッコウガに直撃した。
 炎タイプで最高威力を誇る大技。それを至近距離で喰らったゲッコウガは目を回して地面に倒れていた。


「ゲッコウガ戦闘不能! リザードンの勝ち!」


 シトロンの声がバトルフィールドに響くと同時に、サトシが地面に座り込む。この状態になった後は非常に疲労が溜まってしまうためだ。
 メガシンカを解いたリザードンと少年がサトシへ近寄り、賛辞を贈る。


「……見事だった」
「がうぅ」
「またやらせてください! 俺たちもっと頑張って、もっと強くなって見せます!」


 ゲッコウガの傍に駆け寄り、立ち上がったサトシは少年へ握手を求めた。だがサトシは、彼の名前を知らず言い淀んでしまった。


「俺、サトシって言います。えっと……」
「俺はアランだ」


 互いに健闘を讃え、握手を交わす両者。サトシの日焼けした小麦色の肌と、アランの白い肌が対照的だ。
 だが、そこにこんのすけとプニちゃんの姿はない。まるで狐に抓まれたように。
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