第36話

 セレナはこんのすけの身体に包帯を巻いていく。ポケモン用の傷薬を塗ろうとしたら、本人(狐)から拒否されたからだ。


「あ、僕ポケモンじゃないんで……。ポケモン用の傷薬はちょっと遠慮させていただいても?」
「「「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ‼︎」」」」
「こんのすけ、お前ポケモンじゃなかったのか⁉︎」
「今知ったんですか⁉︎」

「あ、ホントだ! サニワさんのリーグカードにも書いてある!」
「わざわざお買い求め頂きありがとうございます」


 ショータがわざわざガラルにまで赴いて入手したというサニワのリーグカードは、彼の愛用している手帖に挟まっていた。
 さすがにレアリーグカードはかなりの人気があって手が出せなかったらしいが、通常のリーグカードやグッズを集めている強火担だった。もちろんこんのすけの存在も知っている。


「ハロンタウン出身、突如彗星の如く現れた最強のポケモントレーナーなんですよ! その百戦錬磨の強さにフェアリータイプのような可憐で儚げな容姿は、まさにエルフのお姫様! サニワさんは、トレーナーの頂点に君臨するに相応しいんです‼︎」
「……へ、へー」
「そうなんですね……」


 サニワに対する情熱が抑圧をいともたやすく打ち破ったショータは、彼女への名誉を雄弁に、熱く語る。
 ところが、ショータのサニワに対する熱い思いはサトシたちを逆に冷めさせた。


「でもさ、カルネさんみたいに綺麗なチャンピオンは他にもいるよ!」
「確かにカルネさんやダイゴさんのような才色兼備のトレーナーもいます。ですが、サニワさんは他の地方のチャンピオンとバトルしてますが、その全てが無敗なんです!」
「そうなの⁉︎」
「俺一緒に旅してたけど、全然知らなかったぜ……」
「まあ非公式のバトルとかありますからね……多少は仕方ないのでは?」


 サニワについてわかったところで、こんのすけは改めて礼儀正しく座り直す。ちょこんとした愛らしい佇まいは、まるでぬいぐるみのようだ。


「……では、改めて自己紹介させていただきます。僕の名前はこんのすけ。主さまの……ガラル地方チャンピオンの補佐を務めています」


 基本的に常にサニワの傍に使え、彼女が行方不明になった途端にパニックを起こし、その信頼はサニワのポケモンに勝るとも劣らないほどだ。
 だが、そんな彼女の姿は見当たらないし、赤いスーツの女は「目が覚めるかわからないのに」とも言っていた。


「……主さまは、フラダリ財団代表とお会いしました。その際に未来予知をされたのです」
「未来予知?」
「えぇ……。ヒウンシティにフシデの群れが大量発生した際も、『街が赤一色に染まる』という『夢』というかたちで、ですが。もともと未来予知は出来なかったみたいですけど」
「後天的に獲得できるもんなんですか⁉︎」


 超能力については疎い方であるシトロンが思わずツッコミを入れるが、そもそも超能力というのは素質がないと使えない。
 サニワは元々非常に強い霊能力系の力を持っていた上に、職務上しょっちゅう過去へ飛んでいる。それがきっかけとなったのではないかとこんのすけは推察していた。

 完全に話題がずれてしまったので、サトシが話を本題へ戻す。サニワが予知したのは、この世界でも前代未聞の出来事だった。


「そうじゃなくて! サニワは何の未来予知をしたんだよ!」
「……フラダリによる、フレア団による『ジェノサイド』です」


 こんのすけの言葉は上手く翻訳されず、サニワの世界の音声がそのまま流れ、サトシたちは頭上に?を大量に浮かべていた。
 この平和な世界では、『ジェノサイド』も『大量虐殺』も、当て嵌まる言葉や概念が存在しないらしい。そんな平和な世界で暮らす子どもたちに、凄惨な概念を植え付けていいものなのか。こんのすけは葛藤した。


「この世界で経験したことのないような、未曾有の危機にございます。僕が言えるのは、一夜にして、幾多の罪なき命が、一斉に吹き飛ぶかもしれない。……それだけです」
「それって大惨事じゃないですか‼︎」
「ねえ! 何とかならないの⁉︎」
「回避しようとしたのです。その結果、主さまは……意識不明の状態に……」


 何とか涙を流すまい、慟哭するまいと堪えるこんのすけ。その声は潤んでいたが、隈取りの顔を濡らすまいと注力していた。だがその声、仕草は、あまりにも痛々しい。
 サトシたちに、胸を締めつけられるような痛みが走る。ピカチュウはこんのすけの背を優しく撫でた。


「お願いがございます。サトシさま、僕とジガルデさまを匿っていただけないでしょうか⁉︎ どうか、皆さまのお力をお借りしたいのです!」
「もちろん! な、皆!」
「良いに決まってるじゃない!」
「プニちゃんも、こんのすけもお世話できるってことでしょ! やったー!」
「これからよろしくお願いしますね!」
「即答ですか⁉︎」
 

 サトシを含め、この世界の人間は人を疑うことを知らないらしい。対して、陰謀渦巻く伏魔殿が職場であり、騙されて帰る手だてを破壊されたのサニワとこんのすけは猜疑心の塊だ。
 少しは人を疑うということを覚えた方が良いですよ。こんのすけは内心忠告した。
 こうして、サトシの旅に再びこんのすけが加入し、更にジガルデ(プニちゃん)が加わる運びとなったのだ。
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