第35話

 カロス地方のとある空港。フラダリラボへ赴く前に、マノンたちはとある人物へ連絡を取った。
 サニワが初めてアランに触れたときに、視えたビジョンに映っていた美丈夫であり、マノンへハリさんを託した男だ。


「やあマノンくん。久しぶりだね!」
「プラターヌ博士、アランってトレーナー知ってますよね。あたしたち、アランと旅をしてたんです!」
「こんにちは博士」
「……はじめ、まして」


 画面からひょっこりと顔を出したダイゴと、姿は映っていないものの、可愛らしい幼女の声。プラターヌは驚いたがすぐに我を取り戻す。


「ダイゴさん……と、画面には映っていないようですが。この声は……可憐なレディですね?」
「あ、サニワちゃんの背が低くて映ってないんだね。……よいしょっと。これでどうでしょうか」
「ガラルチャンピオン⁉︎」


 マノンよりも背が低いサニワをダイゴが軽々と抱き上げた。髪の毛の色も相まって、まるで親子のようなツーショットだ。


「マノン、アラン……関係、してる。あの、事件……カナズミ沖、伝説ポケモン」
「それって……どういう、こと……ですか?」
「ボクが説明します」


 アランとはホウエン地方のとある遺跡で出逢ったこと。彼と協力し、メガシンカの鍵を握るといわれる虹色の巨石を発見したこと。
 その巨石の力を求め、カナズミシティ沖の海域でゲンシカイキしたリザードンとカイオーガ、そしてメガレックウザと対峙したこと。その巨石は現在、アランが身を置いているであろうフラダリラボで保管・研究されていること。


「ボクたちはこれから、フラダリさんへお会いする予定です」 
「では、私もそちらへ向かいます!」
「あの……博士。アランと、なかよく、ね。……ばいばーい」
「ちょっサニワさ」


 プラターヌ博士がまだ何か言っていたが、サニワは伝えることだけ伝えると通信を躊躇なく落とす。
 サニワはもうこれで抱っこの必要はなくなったと言わんばかりに、降ろせと目で訴える。だがダイゴはそれに気付いていながら黙殺。なお、フラダリラボに到着するまで抱き上げられるままだった。

 フラダリラボに到着すると、アランはメガシンカしたポケモンと戦闘し、十人抜きを達成するという前代未聞の挑戦に挑んでいた。しかも達成できねば、リザードンのメガストーンを没収されるという罰までも付いている。サニワはまるで山伏の荒行のようだと感想を抱いた。

 ダイゴはフラダリの元で管理されている巨石の様子を確認しに向かい、マノンはアランの応援へ走る。サニワもマノンと一緒に、アランの様子を確認するつもりのようだ。

 次々とメガシンカしたポケモンを薙ぎ倒していくアランとメガリザードン。順調に勝利を積み重ね、六連勝するまでに至った。
 次の対戦相手とのバトルまでしばらく時間があるらしい。戦闘の準備をしている中、マノンがアランの元へ駆け寄る。サニワとこんのすけも慌てて彼女の後を追った。


「アラン!」
「……どうしてここに?」
「それより、キーストーンとメガストーンを賭けてバトルしてるって本当⁉︎」
「……お前には関係ない」


 まるで突き放すかのようなアランの物言いに、マノンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。目に余る彼の振る舞いにハリさんは抗議したが、マノンが抱き上げてストップさせた。


「……ねぇ、旅はどうなるの?」
「それはお前が勝手に……」
「アランがいるから、あたしもハリさんも強くなれる! これからも一緒に旅をしようよ!」
「駄目だ!」
「なんで⁉︎」
「……俺といると、また危険な目に遭うぞ」


 アランが歯がゆそうに、目を伏せる。まるで、力のない自分を悔やむかのように。
 サニワの瞳に映っているのは、彼の背に取り憑いている黒い靄が、更に濃い漆黒に染まる光景。それを、まるでマノンへ見せつけるかのように、アランは背を向けた。


「……もう俺を頼るな」
「アラン!」
「お前といると強くなれないんだ!」


 アランの言葉がマノンへ容赦なく突き刺さる。マノンは抱きしめていたハリさんを地面へ降ろすと、部屋の外へ飛び出した。ハリさんも慌てて後を追いかけた。
 サニワの真紅の双眸は、どこまでも見透かすように、じっとアランを見詰めている。そしてサーナイトのボールを手に取ると、彼女のテレパシーを通じて、淡々と話を始めた。


『言霊という言葉を、ご存知ですか』
「……厚かましい助言は必要ない」
『これは助言ではありません。忠告です。言葉には魂が宿ります。これは道具や科学技術にもいえますが、薬にもなれば凶器にもなりうる。使いどころを誤らぬようにすべきだと、小官は具申いたします』


 苦言を呈するサニワの目。それは心の奥底をどこまでも見透かすような、それでいて一度掴めば離さない魔力を宿した瞳。
 サニワの目に捕縛されたアランはただ呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
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