第34話
激戦の結果はメガレックウザの漁夫の利で終了した。流星群で二体を軽々と翻弄し、ガリョウテンセイで一気にゲンシカイキの解除まで追い込んだのだ。その圧倒的な力に、ダイゴは絶句した。
サニワの眉間がぴくり、と動き、うっすらと双眸が開かれる。彼女の視界に入ったのは、晴れた空とメガレックウザ、そして自身を抱いているアランの姿だった。
『……メガレックウザが、勝ったのか』
「おい……おい! 大丈夫か⁉︎」
『離してくれ……。せっかくの服が、汚れるだろうに……』
「止めろ、もう喋るんじゃない……!」
『まだ、三途の川は見えてないから……死ぬわけじゃないだろう。そう焦るな……』
サーナイトをボールへ戻しているため、アランに言葉が伝わらない。それでも何とか心配をほぐそうと、サニワは必死に言葉を紡ぐ。その姿が余計に痛々しかった。
メガレックウザが依然として制空権を支配する中、海上から突如現れたのは一隻の潜水艦だ。
潜水艦からミサイルと閃光弾が発射され、その衝撃で再びサニワの意識が刈り取られる。だがミサイルの目標はメガレックウザ、もとい巨石だった。
しかもその閃光弾はあくまでも目眩しに過ぎず、潜水艦から発射された特殊な網で巨石が捕捉されたのだ。
「巨石の反応、消失!」
「何ッ⁉︎」
まるで吸い込まれるかのように、潜水艦に巨石が収納されていく。
目的を果たした潜水艦が深く潜ると、レックウザは諦めたようにメガシンカを解き、空へ戻っていった。
「成功です」
ダイゴの耳元に、聞き馴染みのある声が届いた。通信機越しのため声が割れているが、フラダリの声だった。
「前回巨石から採取した成分を分析し、エネルギーの放射を封じるシステムを作ったのです。ダイゴさん、巨石はしばらく私の元で預かります」
「貴方の元に……」
「えぇ。カロスに運びます」
潜水艦はフラダリの所有物であり、フラダリラボへ巨石を運搬する目的だったのだ。
謎の潜水艦の正体も判明し、世界の危機も去った。何より意識を失っている傷だらけのサニワもアランによってヘリに戻り、ダイゴは安堵の息を零した。
意識を失っていたサニワが目を覚ましたのは、それから三日が経った頃だった。こんのすけは彼女が眠っていた時の状況を端的に説明した。
あの時協力してくれた野生のラティアスが、再び何処かへ飛び去ったこと。アランがフラダリの元へ、たった一人で戻ったこと。そして、虹色の巨石は結局フラダリの元で管理されること。
巨石がフラダリの手に渡ったと聞いたサニワの表情。それが少々険しいものになった。ところがダイゴやマノンにはその変化がわかるはずもなく、相変わらずの仏頂面として捉えられていた。
「サニワちゃん。ボクとマノンくんは、カロスのミアレシティへ行く予定だ。キミはどうする?」
「……もちろん、行く。……気を、つけて」
「え? やだなあ、サニワさんも行くんでしょ?」
この世界の言葉では上手く伝えられない。そう判断したサニワは、自身のポケモンのボールを預かると、サーナイトをボールから出した。
『小官も随行させていただきたいのですが……。ただ、小官はフラダリ氏の言動が引っかかります。彼の元で行動するアランも、少々黒い靄が憑いていた』
「何だって?」
「黒い靄、って、何のこと……?」
『……これはあくまで小官の憶測に過ぎないということをご了承ください。小官の勘、もとい経験から申し上げますと……彼の言う平和は、果たして本当の意味での平和なるものなのか、疑問を感じざるを得ないということです』
軍人だと名乗る幼女。彼女はじっとダイゴを見据える。どこまでも見透かしてしまいそうなその真紅の瞳に、ダイゴは捕らわれた。
掴んで離さないその魅力———魔力とも呼べるだろう———の虜になったダイゴは、思わず声を失った。それでも何とか声を出したダイゴの口からは、説明を求める言葉しか出てこない。
「それは、どういうことだい」
『小官の経験上、戦争というのは、言うなれば正義と正義の衝突の結果です。現在は軍事複合体による経済政策の手段として用いられることが多いようですが』
「グンジサンギョウ? フクゴウタイ?」
「……経済のため? 金のために人の命を犠牲にするのか⁉︎」
『語ると非常に長くなるので今回は割愛させていただきますが、戦争により特需景気が発生するのもまた事実です。詳細はまた時間のあるときに、紅茶でも飲みながら、ゆっくりとお話ししましょう』
サニワの視線が、今度はマノンへ移動する。いつもと同じ無表情のはずなのに、いつになく真剣な眼差しだった。
『アランに憑いていた黒い靄については……何というか、どうしても抽象的な説明になります。神道でいう穢れというか、仏教で言う不浄というか……そんなものが取り憑いている。ものだけに、具体的な説明が難しい』
「えっと……? それがアランに引っ付いてる状態、ってこと?」
『小官がわかるのは、彼の心の中に燻る何かがあるということだけ。その蟠 りが何かまでは、残念ながら小官には不明です。そしてアランに憑いていたその黒い靄は、フラダリ氏も憑いております。それも、アランの比ではないほどに』
「フラダリさんもアランも、何か思い悩んでいるの……?」
『……残念ながら、小官がわかるのはそれだけです』
フラダリ氏の元を離れるべきだ、戦いから退くべきだと助言したにも関わらず彼と接触したのも、アランに何か考えがあることだとは思いますが……。そう告げると、サニワは目を伏せた。
そんな彼女が、マノンには、触ってしまえばたちまち崩落してしまいそうなほど、繊細に感じられた。
サニワの眉間がぴくり、と動き、うっすらと双眸が開かれる。彼女の視界に入ったのは、晴れた空とメガレックウザ、そして自身を抱いているアランの姿だった。
『……メガレックウザが、勝ったのか』
「おい……おい! 大丈夫か⁉︎」
『離してくれ……。せっかくの服が、汚れるだろうに……』
「止めろ、もう喋るんじゃない……!」
『まだ、三途の川は見えてないから……死ぬわけじゃないだろう。そう焦るな……』
サーナイトをボールへ戻しているため、アランに言葉が伝わらない。それでも何とか心配をほぐそうと、サニワは必死に言葉を紡ぐ。その姿が余計に痛々しかった。
メガレックウザが依然として制空権を支配する中、海上から突如現れたのは一隻の潜水艦だ。
潜水艦からミサイルと閃光弾が発射され、その衝撃で再びサニワの意識が刈り取られる。だがミサイルの目標はメガレックウザ、もとい巨石だった。
しかもその閃光弾はあくまでも目眩しに過ぎず、潜水艦から発射された特殊な網で巨石が捕捉されたのだ。
「巨石の反応、消失!」
「何ッ⁉︎」
まるで吸い込まれるかのように、潜水艦に巨石が収納されていく。
目的を果たした潜水艦が深く潜ると、レックウザは諦めたようにメガシンカを解き、空へ戻っていった。
「成功です」
ダイゴの耳元に、聞き馴染みのある声が届いた。通信機越しのため声が割れているが、フラダリの声だった。
「前回巨石から採取した成分を分析し、エネルギーの放射を封じるシステムを作ったのです。ダイゴさん、巨石はしばらく私の元で預かります」
「貴方の元に……」
「えぇ。カロスに運びます」
潜水艦はフラダリの所有物であり、フラダリラボへ巨石を運搬する目的だったのだ。
謎の潜水艦の正体も判明し、世界の危機も去った。何より意識を失っている傷だらけのサニワもアランによってヘリに戻り、ダイゴは安堵の息を零した。
意識を失っていたサニワが目を覚ましたのは、それから三日が経った頃だった。こんのすけは彼女が眠っていた時の状況を端的に説明した。
あの時協力してくれた野生のラティアスが、再び何処かへ飛び去ったこと。アランがフラダリの元へ、たった一人で戻ったこと。そして、虹色の巨石は結局フラダリの元で管理されること。
巨石がフラダリの手に渡ったと聞いたサニワの表情。それが少々険しいものになった。ところがダイゴやマノンにはその変化がわかるはずもなく、相変わらずの仏頂面として捉えられていた。
「サニワちゃん。ボクとマノンくんは、カロスのミアレシティへ行く予定だ。キミはどうする?」
「……もちろん、行く。……気を、つけて」
「え? やだなあ、サニワさんも行くんでしょ?」
この世界の言葉では上手く伝えられない。そう判断したサニワは、自身のポケモンのボールを預かると、サーナイトをボールから出した。
『小官も随行させていただきたいのですが……。ただ、小官はフラダリ氏の言動が引っかかります。彼の元で行動するアランも、少々黒い靄が憑いていた』
「何だって?」
「黒い靄、って、何のこと……?」
『……これはあくまで小官の憶測に過ぎないということをご了承ください。小官の勘、もとい経験から申し上げますと……彼の言う平和は、果たして本当の意味での平和なるものなのか、疑問を感じざるを得ないということです』
軍人だと名乗る幼女。彼女はじっとダイゴを見据える。どこまでも見透かしてしまいそうなその真紅の瞳に、ダイゴは捕らわれた。
掴んで離さないその魅力———魔力とも呼べるだろう———の虜になったダイゴは、思わず声を失った。それでも何とか声を出したダイゴの口からは、説明を求める言葉しか出てこない。
「それは、どういうことだい」
『小官の経験上、戦争というのは、言うなれば正義と正義の衝突の結果です。現在は軍事複合体による経済政策の手段として用いられることが多いようですが』
「グンジサンギョウ? フクゴウタイ?」
「……経済のため? 金のために人の命を犠牲にするのか⁉︎」
『語ると非常に長くなるので今回は割愛させていただきますが、戦争により特需景気が発生するのもまた事実です。詳細はまた時間のあるときに、紅茶でも飲みながら、ゆっくりとお話ししましょう』
サニワの視線が、今度はマノンへ移動する。いつもと同じ無表情のはずなのに、いつになく真剣な眼差しだった。
『アランに憑いていた黒い靄については……何というか、どうしても抽象的な説明になります。神道でいう穢れというか、仏教で言う不浄というか……そんなものが取り憑いている。ものだけに、具体的な説明が難しい』
「えっと……? それがアランに引っ付いてる状態、ってこと?」
『小官がわかるのは、彼の心の中に燻る何かがあるということだけ。その
「フラダリさんもアランも、何か思い悩んでいるの……?」
『……残念ながら、小官がわかるのはそれだけです』
フラダリ氏の元を離れるべきだ、戦いから退くべきだと助言したにも関わらず彼と接触したのも、アランに何か考えがあることだとは思いますが……。そう告げると、サニワは目を伏せた。
そんな彼女が、マノンには、触ってしまえばたちまち崩落してしまいそうなほど、繊細に感じられた。