第34話
ホウエン地方、カナズミシティ。
世界に名を轟かせる大企業、デボンコーポレーションの本社があることで有名な街だ。
そのデボンコーポレーションの御曹司でもあるダイゴは、連れてきたアランとマノンを応接室で待機させ、現社長であり、父親のムクゲに話を通しに向かっていた。
「まだかな、ダイゴさん」
「色々と話があるんだろう」
手持ち無沙汰なマノンとハリマロンは、来客用のソファに腰掛けてぷらぷらと足を遊ばせる。アランはデボンから見える外の景色をじっと眺めていた。
「お待たせ」
「わあ、サニワさんの服が変わってるよ! 似合ってるねハリさん!」
「りま!」
「……あ、ありがと」
マノンの言う通り、サニワの服が真っ白なワンピースと打って変わり、カーキ色を基調とした軍服に戻っていた。この世界に来たときの服装だ。
胸には幾多の勲章が飾られており、髪はポニーテールで纏められている。
全く違う装いに、アランとマノンは目を点にした。マノンはそのあと賛辞の言葉を述べていたが、アランは何故か様になっているサニワの姿を見詰めるだけだった。
頭上のプロジェクターに、フラダリの顔が表示される。サニワは咄嗟にマノンの注意を窓の外の風景へ逸らした。
フラダリの脇には、カナズミシティより約二百キロほど離れた海上を、ただひたすら一直線に突き進む一つの物体が映し出されていた。
大地を広げたとされるポケモン・グラードン。ムロタウン近くに存在する石の洞窟の壁画にも描かれているポケモンだ。
しかしグラードンの映像をよく見ると、ゲンシカイキした姿であることが判明。ホウエン神話通り、強大な力を持つとされている。
「しかし、グラードンが出現したとなれば、もう一体も……」
「もう一体って……他にもいるの?」
「マノン! 邪魔するなって言っただろ!」
「邪魔じゃないもん! 質問だもん!」
「……いる。……カイオーガ。……海、おおきく、した」
マノンの質問に、サニワはぽつりと独り言ちるかのように答えた。
海を広げたとされ、グラードン同様に壁画に描かれているカイオーガも、同じ方向に向かって直進していることが確認された。二体とも、消失した巨石のエネルギーを求めているのだ。
想定以上に深刻な事態。世界が崩壊するという危機に、マノンはレックウザと対峙したときのことを思い出し、ぎゅっと両目を瞑った。
ところが、アランはフラダリに対し、巨石に向かう二体を止めると宣言したのだ。思わずサニワはぎょっとしてアランの方を見る。
「代表! 俺、現場に向かいます!」
「頼んだぞ」
「移動手段を用意しよう。先に準備を整えてくるよ」
「……アラン。ここで、マノンと、待ってて。……わたしと、ダイゴさんで、とめるから」
フラダリとの通信が切れた途端、アランはサニワから現場への急行を止められた。サニワとダイゴのツーマンセルで事態が落ち着くだろうという判断だ。
それでも必死に食い下がるアランに、サニワは首を横に振る。
「……大丈夫。マノンと、一緒にいて。守ってあげて」
「サニワさん、ダメだよ! 物凄く怖いんだよ‼︎ 死んじゃうかも……しれないんだよ⁉︎」
「……そう、だけど」
マノンとハリさん、そしてアランの必死の説得に、サニワは困ったように眉尻を下げた。だがそれはほんの少しだけで、マノンたちには気付かない。
困り果てたサニワは一つのプレミアボールを手に取り、サーナイトを呼び出した。
まさか催眠術で無理やりにでも眠らせるつもりなのか、とアランは身構えたが、そんなつもりは一切ない。というかそもそもサニワのサーナイトは催眠術を覚えていない。
『あーあーあー。マイクテストマイクテスト。本日は晴天なり』
「これは……サーナイトのテレパシー能力か?」
『あ、この調子だと問題なさそうですね。彼女のテレパシー能力を通じ、小官の言葉を通訳しております』
「通訳って……一体」
『詳細は時間がありませんので割愛させていただきます。単刀直入に申し上げますが、小官はこの世界の人間ではありません。ポケモンの存在しない世界から訪れた、一介の軍人であります。あぁ、十字軍ではございませんのでその点はご安心ください』
「ジュウジグン?」
『あー……入植者? はご存知でありますか?』
「いや、それも知らないな……」
『入植の概念もないとは……。この世界は、やはり平和で、平等ですね。そんな平和な世界では、これは周知の事実ではないと思いますが……厚かましい助言をさせていただくと、これを機に後方に退くべきだ』
じっとアランの青色の瞳を見詰めるサニワ。その双眸は軍人らしく、強い意志を秘めていた。
身長はマノンよりも小さい。見た目は幼気な幼女だというのに、中身は軍人たるそれだ。その違和感に、アランとマノンは思わず息を飲んだ。
『……それと、まだ証拠が出揃っておりませんので、あくまで小官の主観であり、憶測の域を出ませんが。フラダリ氏と関わるのは止めるべきと確信いたします。彼の狂気が幕を上げる前に』
「代表と⁉︎ 何故……!」
『証拠がないので憶測の域を出ない、とは先ほども申し上げた通りですが……強いて言うなら、小官の勘であり、経験です。彼はメガシンカの平和利用、と語っておりましたが……彼の言う平和は、果たして本当の意味での平和なるものなのか、疑問を感じざるを得ません』
皮肉たっぷりに告げるサニワ。相変わらずの無表情だが、その冷酷な言葉はアランを無惨にも滅多刺しにしていく。
何も言えないアランに、サニワは、彼の手をそっと握った。今までとは打って変わって、小さな子どもを諭すかのように。
『アラン。これは戦術的撤退であり、敗走ではありません。逃げるのも一つの選択であると、小官は確信を持って意見具申いたします』
「……サニワさんは怖くないの? あのとき、レックウザ凄く怒ってたよ。レックウザだけでもあんなに強かったのに、世界を壊しちゃうようなヤツが二体も出てきたら……! 今度は怪我じゃ済まないかもしれないんだよ!」
『小官は、軍人です。危機が迫った際、この身を以て市民の盾となる存在であると自負しております。では、小官はこれで』
くるりと踵を返し、退室するサニワ。彼女が連れている妖狐は既にダイゴと共に退室していたようで、もうこの部屋に姿はない。
マノンとハリさんは顔を見合わせると、こっそりとサニワの背後をついていく。アランも同じ考えらしく、彼女たちの後をついていった。
世界に名を轟かせる大企業、デボンコーポレーションの本社があることで有名な街だ。
そのデボンコーポレーションの御曹司でもあるダイゴは、連れてきたアランとマノンを応接室で待機させ、現社長であり、父親のムクゲに話を通しに向かっていた。
「まだかな、ダイゴさん」
「色々と話があるんだろう」
手持ち無沙汰なマノンとハリマロンは、来客用のソファに腰掛けてぷらぷらと足を遊ばせる。アランはデボンから見える外の景色をじっと眺めていた。
「お待たせ」
「わあ、サニワさんの服が変わってるよ! 似合ってるねハリさん!」
「りま!」
「……あ、ありがと」
マノンの言う通り、サニワの服が真っ白なワンピースと打って変わり、カーキ色を基調とした軍服に戻っていた。この世界に来たときの服装だ。
胸には幾多の勲章が飾られており、髪はポニーテールで纏められている。
全く違う装いに、アランとマノンは目を点にした。マノンはそのあと賛辞の言葉を述べていたが、アランは何故か様になっているサニワの姿を見詰めるだけだった。
頭上のプロジェクターに、フラダリの顔が表示される。サニワは咄嗟にマノンの注意を窓の外の風景へ逸らした。
フラダリの脇には、カナズミシティより約二百キロほど離れた海上を、ただひたすら一直線に突き進む一つの物体が映し出されていた。
大地を広げたとされるポケモン・グラードン。ムロタウン近くに存在する石の洞窟の壁画にも描かれているポケモンだ。
しかしグラードンの映像をよく見ると、ゲンシカイキした姿であることが判明。ホウエン神話通り、強大な力を持つとされている。
「しかし、グラードンが出現したとなれば、もう一体も……」
「もう一体って……他にもいるの?」
「マノン! 邪魔するなって言っただろ!」
「邪魔じゃないもん! 質問だもん!」
「……いる。……カイオーガ。……海、おおきく、した」
マノンの質問に、サニワはぽつりと独り言ちるかのように答えた。
海を広げたとされ、グラードン同様に壁画に描かれているカイオーガも、同じ方向に向かって直進していることが確認された。二体とも、消失した巨石のエネルギーを求めているのだ。
想定以上に深刻な事態。世界が崩壊するという危機に、マノンはレックウザと対峙したときのことを思い出し、ぎゅっと両目を瞑った。
ところが、アランはフラダリに対し、巨石に向かう二体を止めると宣言したのだ。思わずサニワはぎょっとしてアランの方を見る。
「代表! 俺、現場に向かいます!」
「頼んだぞ」
「移動手段を用意しよう。先に準備を整えてくるよ」
「……アラン。ここで、マノンと、待ってて。……わたしと、ダイゴさんで、とめるから」
フラダリとの通信が切れた途端、アランはサニワから現場への急行を止められた。サニワとダイゴのツーマンセルで事態が落ち着くだろうという判断だ。
それでも必死に食い下がるアランに、サニワは首を横に振る。
「……大丈夫。マノンと、一緒にいて。守ってあげて」
「サニワさん、ダメだよ! 物凄く怖いんだよ‼︎ 死んじゃうかも……しれないんだよ⁉︎」
「……そう、だけど」
マノンとハリさん、そしてアランの必死の説得に、サニワは困ったように眉尻を下げた。だがそれはほんの少しだけで、マノンたちには気付かない。
困り果てたサニワは一つのプレミアボールを手に取り、サーナイトを呼び出した。
まさか催眠術で無理やりにでも眠らせるつもりなのか、とアランは身構えたが、そんなつもりは一切ない。というかそもそもサニワのサーナイトは催眠術を覚えていない。
『あーあーあー。マイクテストマイクテスト。本日は晴天なり』
「これは……サーナイトのテレパシー能力か?」
『あ、この調子だと問題なさそうですね。彼女のテレパシー能力を通じ、小官の言葉を通訳しております』
「通訳って……一体」
『詳細は時間がありませんので割愛させていただきます。単刀直入に申し上げますが、小官はこの世界の人間ではありません。ポケモンの存在しない世界から訪れた、一介の軍人であります。あぁ、十字軍ではございませんのでその点はご安心ください』
「ジュウジグン?」
『あー……入植者? はご存知でありますか?』
「いや、それも知らないな……」
『入植の概念もないとは……。この世界は、やはり平和で、平等ですね。そんな平和な世界では、これは周知の事実ではないと思いますが……厚かましい助言をさせていただくと、これを機に後方に退くべきだ』
じっとアランの青色の瞳を見詰めるサニワ。その双眸は軍人らしく、強い意志を秘めていた。
身長はマノンよりも小さい。見た目は幼気な幼女だというのに、中身は軍人たるそれだ。その違和感に、アランとマノンは思わず息を飲んだ。
『……それと、まだ証拠が出揃っておりませんので、あくまで小官の主観であり、憶測の域を出ませんが。フラダリ氏と関わるのは止めるべきと確信いたします。彼の狂気が幕を上げる前に』
「代表と⁉︎ 何故……!」
『証拠がないので憶測の域を出ない、とは先ほども申し上げた通りですが……強いて言うなら、小官の勘であり、経験です。彼はメガシンカの平和利用、と語っておりましたが……彼の言う平和は、果たして本当の意味での平和なるものなのか、疑問を感じざるを得ません』
皮肉たっぷりに告げるサニワ。相変わらずの無表情だが、その冷酷な言葉はアランを無惨にも滅多刺しにしていく。
何も言えないアランに、サニワは、彼の手をそっと握った。今までとは打って変わって、小さな子どもを諭すかのように。
『アラン。これは戦術的撤退であり、敗走ではありません。逃げるのも一つの選択であると、小官は確信を持って意見具申いたします』
「……サニワさんは怖くないの? あのとき、レックウザ凄く怒ってたよ。レックウザだけでもあんなに強かったのに、世界を壊しちゃうようなヤツが二体も出てきたら……! 今度は怪我じゃ済まないかもしれないんだよ!」
『小官は、軍人です。危機が迫った際、この身を以て市民の盾となる存在であると自負しております。では、小官はこれで』
くるりと踵を返し、退室するサニワ。彼女が連れている妖狐は既にダイゴと共に退室していたようで、もうこの部屋に姿はない。
マノンとハリさんは顔を見合わせると、こっそりとサニワの背後をついていく。アランも同じ考えらしく、彼女たちの後をついていった。