第33話

 しばらくフラダリが巨石の調査をしていると、遺跡周辺の天気が突如急変し始めた。上空には暗雲が立ち篭み始め、稲妻の音が轟いた。それと共に、微かなポケモンの鳴き声も。

 ぴくりとサニワの長い耳が動き、睨め付けるように上空を見上げる。雷雲から現れたのは、エメラルド色に煌めく竜神。レックウザだ。
 レックウザと巨石が反応を起こしているのか、巨石はまるで心臓ののように鼓動し、レックウザは姿を変化させる。金色の髭と尾が生え、顎はΔのように変形し、身体には金色の線で彩られた。


「レックウザが……メガシンカ⁉︎」
「そんな馬鹿な……‼︎」
「しかし、現実に起きている」
「逃げて! はやく!」


 サニワが叫んだ瞬間レックウザの咆哮が轟き、竜の波動で遺跡周辺を攻撃。航空機や測定していた機械を吹き飛ばした。


「我々はレックウザを怒らせてしまったのか……⁉︎」
「……こっち。……こんちゃん、マノ、お願い」


 サニワはマノンの手を引き、比較的安全そうな影になっている場所へ避難させると、こんのすけを彼女へ預ける。否、マノンを守るようにこんのすけへ言い聞かせ、モンスターボールを手にメガレックウザと対峙した。

 アランはリザードン、ダイゴは色違いのメタグロス、そしてサニワは色違いのサーナイトを繰り出し、三匹同時にメガ進化させた。


「「「メガシンカ!」」」


 相手は伝説のポケモンだ。メガシンカしているポケモンが三体も揃っていて、更に相性が有利なポケモンといえど、勝算があるとは限らない。
 サニワの神秘的で、独特な雰囲気は一変し、猛者の醸し出すそれへと一気に変貌した。

 まずリザードンは火炎放射でレックウザを攻撃するも、攻撃を躱され神速で反撃される。
 衝撃で地面へ墜落するリザードンをメタグロスが受け止めるも、巨体が衝突してリザードンとメタグロスは散り散りになった。


「やがみちゃん、サイコキネシス」


 サーナイトのサイコキネシスで、リザードンは何とか撃墜を免れた。メタグロスは自力で体勢を整えている。
 だがすぐにメガレックウザの流星群が放たれた。伝説のポケモンから放たれるドラゴンタイプ最強の技は最早災いだ。

 幸いサニワのサーナイトはフェアリータイプを合わせ持っているので、ドラゴン技は効果がない。だがそれでも破壊力は抜群で、衝突した物を次から次へと木端微塵に破壊していく。
 それは避難していたマノンにも襲いかかり、サニワは彼女の元へ駆け寄る。近くを直撃しただけで、マノンとハリさんに怪我はなさそうだ。
 ところが、安心したのも束の間。盾になっていた遺跡の壁にヒビが入り、みしみしと音を立てたのだ。


『危ない!』
「サニワさん!」


 サニワは咄嗟にマノンたちを突き飛ばす。その瞬間、遺跡の壁が崩れ落ち、サニワの上へ降り注いだ。


「ここを破壊する気かッ……‼︎」


 ダイゴはサニワの元へ駆け寄ろうとするにも、近くを流星群が猛襲する。
 レックウザは仕上げだといわんばかりに破壊光線で遺跡周辺を爆裂させると、どこかへ飛び去っていった。

 危機を脱し、再び平穏が戻ってきたのを確認すると、ダイゴはサニワのサーナイトの力を借り瓦礫を退かす。
 幸い流血沙汰にはなっていないものの、彼女は衝撃で意識を失っていたのか、ダイゴの声に反応することはなかった。


「サニワちゃん、大丈夫か⁉︎」


 ぺちぺちと柔らかな頬を叩くと、ぼんやりとではあるが意識を浮上させる。
 意識が朧げな最中、真っ先に目に入ったのは銀髪とスーツ姿。その姿は、サニワにとある刀剣男士を彷彿とさせるには十分だった。


「しっかりするんだ! 今手当てを……!」
『長義……? 私は、本丸に……帰還、したの?』
「そうだ、ボクだよ。ダイゴだ」


 会話が全く通じない=本丸に戻れていないと確信したサニワ。ゆっくりと起き上がり周囲を見渡すと、原形を留めていないほど粉々に粉砕された遺跡の残骸ばかり。レックウザが襲来する前と同じ場所とは思えないほど、破壊尽くされていた。
 まるで第一次世界大戦直後のライン戦線のように。西部戦線のように。そこにあるのは瓦礫の山だけだ。


『……終戦直後の焼け野原さながらの光景だ。この世界に世界大戦はあったのだろうか』
「サニワちゃん?」
「……なんでも、ない」


 巨石はカナズミシティ周辺の沖合に移動したらしく、ダイゴはそれを追跡するため遺跡を出ていく。マノンは彼の後を慌てて付いて行った。

 サニワも後を付いて行こうと踵を返すと、フラダリがアランを呼び止める。気にも留めない素振りをしつつ、彼女は会話の内容が聴き取れる範囲で足を止めた。


「チャンピオン……特にサニワと離れるな。彼女は異世界の出身だという噂もある」
「異世界、ですか……⁉」
「あくまで噂程度に過ぎんがな。だがそれでも、彼女のメガ進化の知識は、我々にとって大きな力となる」
「はい」


 フラダリの指示に従い、アランはダイゴの後を追って遺跡を飛び出した。彼を待っていたかのように、サニワはアランを見つけると、恐る恐る話しかけた。


「あら」
「アランだ」
「……さきに、言う。あの、ふ、ふ、ふれ……」
「代表のことか?」


 こくんと素直に頷くサニワはやはり言葉遣いが年相応というか、かなり幼い。というより、たどたどしい。
 チャンピオンとは思えぬほど拙い喋り方は、アランの疑問をより深めるには十分だった。


「……あのひと、あぶない。気を、つけて。あと……もう一度、会って。お話しして。……だいじょうぶ、優しいから、怒らない」
「おい、それってどういう意味だ……?」
「……あぶない、はなれて。……わたし、ちゃんと、言った」


 言うだけ言ってすたすたと離れるサニワ。子どもらしからぬ無表情や、陶器のように真っ白な肌も相まって、底知れぬ不気味さをアランには感じさせたのだった。
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