第33話

 ホウエン地方のとある遺跡。そこにサニワの姿があった。
 チャンピオンのダイゴに連れられ、とある木簡を捜索している最中だ。その木簡はメガシンカについて綴られており、割れた痕跡があるが、保存状態は非常に良好だった。


「……ダイゴさま、ダイゴさま。主さまは、木簡はこの場所にないと感じているようです」
「じゃあ、もう木簡は消失してしまったのかい? 参ったな……」


 やれやれと頭を掻くダイゴのスーツは、皺一つない高級品だ。その服の裾を掴んだサニワは、ふるふると首を横に振った。


「サニワちゃん?」
「……ここよりも、もっと、さむいところ」
「ここよりも“寒い”ところ? それってどこかわかるかい?」


 このホウエン地方は、南国のアローラ地方には及ばないものの、比較的温暖な気候に分類される。
 対するシンオウ地方は雪国だ。サニワが旅したイッシュ地方も、冬になれば雪が積もる。カロス地方やガラル地方は、シンオウ地方と同じ緯度、それよりも更に北に位置しているが、風と暖流の影響でシンオウ地方よりは暖かい。が、さすがにホウエン地方には遠く及ばない。

 しゃがんで背の低いサニワと顔を合わせるダイゴ。だが彼の問いに、サニワの首が横に振る。答えは否だった。


「この地方にないと分かっただけで十分な収穫だよ、ありがとう。さて、今から飛行機か何かチャーターするとして……待ち時間は石でも掘ろうか。サニワちゃんも掘るかい?」
「……ふく、よごれちゃう」
「大丈夫だよ! 気にしない気にしない!」


 適当な岩場へ一目散に駆けて行くダイゴを視界の隅に追いやりつつ、サニワは瓦礫の上に腰掛ける。こんのすけは、彼女の隣にちょこんとお座りした。
 サニワはこんのすけを自信の膝の上に乗せ、しばらく夢中になって穴を掘るダイゴを眺めながら、手持ち無沙汰に足をぷらぷらさせていた。

 だが、白髪に隠れていた長い耳がぴくりと動くと、ぴょんと瓦礫の山から飛び降りて、ダイゴのいる方向とは真逆の方向へ駆け出した。
 突然のサニワの行動に驚いたこんのすけ。予測の出来ない行動には慣れているのか、主人膝から転げ落ちた彼は慌てて保護者(同行者)を呼びに向かったのだった。

 サニワが向かった先は、遺跡の入り口付近。そこには、お尻が木の窪みにすっぽりと嵌まってしまった少女の姿があった。
 一瞬何がどうなればこんな状況になるのだろうか、と考えたが、とりあえず救出が先だと判断したサニワは、少女の手を引っ張り起き上げることにした。


「……大丈夫?」
「あ、ありが、と……」


 思わず少女は言葉を失った。あまりにもサニワの容姿が「美しい」からだ。
 この世のものと思えないほど真っ白な容姿は、あまりにも儚げで、あまりにも繊細で。丁寧に作られた彫刻のようだ。もし彼女が人間ではなく精霊や妖精だと説明されたら、すとんと納得できてしまうような。生気すらも似合わぬその容姿は、あまりにも「美しい」。

 少女はしばらくの間呆然と立ち竦んでいたが、すぐに我に返ると頭を下げて礼を述べた。それに対し、サニワは問題ないという風に首を振る。
 少女の連れらしき黒髪の少年とハリマロンが坂上の道から駆け寄ると、彼女は自己紹介を始めた。


「あ、あの! あたしマノン! で、一緒に旅をしているアランと、こっちは相棒のハリさん! カロスから来ました! よろしく!」
「……サニワ。よろしく」


 ぺこり、と頭を下げて挨拶するサニワ。首元のキーストーンが左右に揺れる。マノンの知り合いだろうか、近くにいた男の視線がサニワのそれに移ると、モンスターボールを突きつける。


「……あんた、メガシンカ使えるんだろう? バトルをしないか」
「しない」


 即答だった。だがそれでも食い下がる。


「ポケモントレーナーなら、目が合えばそれはバトルの合図だろう?」
「……でも、しない。……してもいいか、聞いてから。良い?」
「聞くって……誰にだ?」
「サニワちゃーーーーーーーーーーん!」


 まさか引き下がるとは思わず、困惑するサニワ。助け船を求めようにも、ひとりで移動したため頼れるものがいない。
 おろおろと動揺するサニワを呼ぶ若い男の声。それはアランたちの耳にも届き、サニワはその方向へぽてぽて走っていく。

 声の主はダイゴだ。彼は小柄なサニワを軽々と抱き上げるも、彼女の表情は仮面を被ったままだ。否、よく見ると嫌そうに眉間に皺を寄せているが、ダイゴが気付く様子はなさそうだ。
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