第30話

 翌日。ミクリと共に待ち合わせ場所に向かうと、そこには既にダイゴの姿があった。さすが「さすらいの石集め」と自ら名乗るだけあって、フットワークが非常に軽い。


「やぁ、サニワちゃん。久しぶりだね! 元気そうで何よりだよ」
「……久し、ぶり、です」
「それにしても、大分早かったね。もうしばらく時間がかかると思っていたけれど……」
「エアームドに乗って来たんだ。ここ、ヒウンシティの近くだしね。あぁそうだ。イッシュに来たついでに、ホドモエシティに寄る予定なんだ」
「あぁ……確かあそこ、ジムがあったね。あと……商店街? でもなぜホドモエシティに?」
「ホドモエシティ近くのネジ山って、エメラルドが採掘されるんだよね」
「ぶれないね、君は……」
「まぁね!」
「……たぶん、ミクリさん、褒めてない」


 ネジ山の所有者は、ホドモエシティジムリーダーのヤーコンだ。ダイゴはデボンコーポレーションの御曹司でもある。
 彼はデボンの商談ついでに、ぜひともヤーコンに頼んで採掘許可を得たいと考えていた。


「だから鳥ポケモンに乗ってホドモエへ移動して、ヤーコンさんに会う。そしてホドモエの港からホウエンのカイナシティまで船で移動する……という予定なんだ。最近発見された遺跡の調査は急ぎじゃないしね」


 ダイゴは一つのモンスターボールを放り投げると、中から鋼鉄の身体を持つ鳥が飛び出した。イッシュ地方では滅多にお目にかかれないポケモン、エアームドだ。
 エアームドはひと鳴きして、リラックスしたように翼を嘴で手入れする。同じ飛行タイプのトゲキッスも(嘴はないものの)同様な仕草をすることがあるが、これもリラックスしている時によく見られるらしい。

 サニワは興味津々でエアームドをじっと見詰めている。彼女の耳はひくひくと小刻みに動いていた。


「おや、エアームドに興味あるのかな?」
「……あぁ、エアームドの翼は刀剣にも利用されるほど斬れ味が鋭いと聞いておりまして。一度触ってみたいと思っていたようです」
「確か……刀剣の付喪神? と一緒に暮らしていたんだったかな」
「エアームド、構わないかい?」


 エアームドはひと鳴きした。了承の意味のようだ。本人から許可を得たサニワは早速エアームドの鋼鉄の羽に早速触れる。鳥ポケモンといえど、羽にはあまり血が通っていないようだ。
 そのまま知的好奇心の赴くまま、サニワはエアームドの翼を触りまくっていた。が、それもエアームドの困ったように鳴く声で中断された。
 慌ててダイゴとミクリが駆け寄ると、そこには困惑するエアームドと頑張って宥めようとしているサニワの姿。しかし、その周囲にはR-18G映画も真っ青の、血みどろの光景が広がっていた。


「ボァ⁉︎」
「オッヒョア⁉︎」
「あああああ主さまーーーーーーーーーー⁉︎ どうしたんですその怪我ーーーーーーーーーーー‼︎」


 ばっさりとエアームドの羽で斬れたのか、サニワの手からは滝のように真っ赤な鮮血が溢れ出していた。自慢の羽も赤色に塗れ、エアームドも困惑気味だ。

 エアームドから抜け落ちた羽は、加工されて刀剣にされることもある。それだけ、斬れ味が鋭い羽なのだ。
 サニワはこの世界の人間とは違い、耐久力が桁違いに低い。リザードンの火炎放射や、ピカチュウの10万ボルトを食らえば、擦っただけでも即死は免れないだろう。
 そんな彼女がエアームドの羽を一撫でするだけで、すっぱりと斬れるのは必然でもあった。裂傷だけで完全に切断されていないのが不幸中の幸いか。
 慌ててサニワの身体を引ったくり、ポケモンセンターへ逆戻りするダイゴ。それをミクリが追いかける。


「それよりも! じょ、ジョーイさんに診てもらわないと……!」
「ダメだダイゴ! この子ポケモンじゃないから診てもらえないぞ!」
「どうしてだよミクリ! このままじゃサニワちゃんが……!」
「だからサニワくんはポケモンじゃないからだ!」
「……えと、みんな、落ち着いて」
「主さま、大丈夫です! 絶対に、助かりますからね……‼」


 絶賛混乱中の二人+αは結局救急車を呼ぶことにしたらしい。救急車で運ばれ、聞き手を包帯ぐるぐる巻きにされたサニワの表情は相変わらず無表情の仮面を被ったままだった。
 だが一応は反省しているようで、耳はしょんぼりとやや垂れ気味だ。


「……ごめん、なさい」
「いや……ボクもごめんね。まさかそんなにすっぱり斬れるとは思ってなくて」


 疲労困憊気味のダイゴに、こんのすけはフォローを入れるように説明した。彼も疲れたように耳と尻尾が垂れている。


「主さまは異世界出身ですからね……。この世界の人間の耐久力がおかしいといいますか、その……非常に頑丈な人たちが多いですよね。リザードンの火炎放射を受けてもピンピンしていたりとか……」
「え、それが普通だろう?」


 不思議そうに首を傾げるミクリはどこかあざとい。姪っ子のルチアが同様の仕草をすれば、熱狂的なファンは放っては置かないだろう。
 だがこんのすけは一切気に留めることなく、虚空にディスプレイを表示させて、柔い肉球でそれをタップする。


「僕らの世界だと真っ黒焦げになって即死ですよ……。アニメですけど見ます?」
「「遠慮するよ」」


 サニワもこんのすけも、よくこの世界で生き延びていけたな。ダイゴは改めて感心した。
 街から一歩出れば、そこは野生ポケモンがごまんと生息する危険地帯だ。

 幸いサニワは自分のポケモンを持っているし、彼らはダイゴやミクリよりも強い。更に不思議なことに、野生のポケモンたちも彼女を敬慕の念を抱いているのか、攻撃の意を顕にすることは滅多にない。
 だがもしも、バトルの最中に攻撃が少しでも擦ってしまったら。結果は日を見るより明白だ。この世界では異端でしかない彼女にとっては、相当生き辛いだろう。
 絶対に、サニワとこんのすけを元の世界へ返そう。ダイゴは心の中で、そう決意した。
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