第30話
サトシたちがジム戦を終え、ポケモンセンターに戻ってきた。アイリスいわく、案の定観客がライモンジムを埋め尽くしており、サニワがいれば一悶着起きていたことだろう。
カミツレとのバトルは、サトシが勝利したようだ。それでも余裕の勝利というわけではなく、辛うじて勝利を捥ぎ取ったような勝負だったらしい。
まあそれでも勝利した事実は変わらないので、早速次の地に向かいたいところではあるのだが。
「……街、出ない?」
「次のジムは跳ね橋を渡った先にあるホドモエシティにあるんだ。でも、この間のモンスターボール強奪事件で跳ね橋があがっちゃったままなんだよ」
「だから跳ね橋が復旧するまで、しばらくライモンシティを観光することにしたの!」
「……そう。たのしんで、きてね」
「え? サニワは行かないのかい?」
デントの問いに、サニワはこくんと首を縦に振る。どうしてとサトシたちが理由を問うと、代わりにこんのすけが代弁した。
「恐らく、主さまは人ごみを気になさっているのだと思います。本日のライモンジム戦がギャラリーでごった返していたのが、テレビを通じて報道されたのをご覧になったのです」
「確かにすごい人混みだったもんなあ……」
「そういえば、インタビュアーもサニワの居場所をジョーイさんに聞いてたわね……。ミクリさんが近くを通りかからなかったらバレてたかも」
ホドモエシティへ向かう跳ね橋も今は上がっており、当分はそちらへ向かえそうにない。
更に熱心なサニワのファンは未だライモンシティに滞在していることを既に突き止めており、ポケモンセンターでは出待ちのファンが押し掛けている状態だそうだ。
何とかジュンサーさんが不要不急のポケモンセンターの来訪を控えるようにと告げて周り、ライモンシティ中のジョーイさんがプライバシーだからと口を割らないでいるが、どのポケモンセンターに滞在しているかバレるのはもう時間の問題だろう。
ちなみにミクリがポケモンセンターを訪れた際に、一気に注目が彼へ移動した。
このポケモンセンターはライモンシティの中でもミュージカルホールから最も近いそれであり、コンテストマスターである彼がこのポケモンセンターを訪れても不思議ではない。注目が一気に彼へ移ったその隙を突いて、何とか部屋まで辿り着いたのである。
この調子では、もしホドモエに移動したとしても、きっと熱狂的なファンが追いかけてくることは明白だった。
自分が異様に注目を集めるのはまだいい。注目の的になるのは、好奇の視線に晒されるのは、この容姿も相まって慣れている。だが、旅をしているサトシたちの足を引っ張るのだけは避けたい。
サンヨウシティでのあの少女のように、ライモンタウンのあのスタッフのように、逆恨みやら何やらで危害を加えられるかもしれない。
その相手が自分ならまだいい。この世界に来てから、痛覚も鈍っているようだから。でも、その矛先がまだ幼いサトシやアイリス、年長者ではあるがまだ子どものデントに向けられてしまったら。
自分の「ガラルチャンピオン」という肩書きは、まだ到底扱いきれそうにない。仲間のサトシたちを守りきれる自信など、あるわけがない。
ガーネットの瞳には、意思が宿っていた。
サニワは正座で座り直すと、サトシたちと向き合った。しゃんと背筋が伸びたその姿は、まさに「将」というに相応しい。
「……サトシ、アイリス、デント」
「おう、どうしたんだ?」
「決めた。……わたし、ホウエン、行く」
一瞬、しんと静まり返る室内。だがその静寂は長くは続かなかった。
知っていたと言わんばかりに、アイリスがサニワをぎゅーっと強い力で抱きしめたからだ。
「サニワならそう言うと思ってたわ。離れるのは寂しいけれど……頑張って!」
「俺もだぜ! 元の世界に戻れるといいな!」
「応援しているよ」
「みんな、ありがと……。頑張る、ね」
ふわり。一瞬だけ、サニワの表情が綻んだ。頬が牡丹色に染まり、まるで周囲に花が舞うような、そんな微笑だった。
常に無口・無表情という彼女が見せた反応に、サトシたちは目を見開きする。
「サニワ! 表情が!」
「笑ったー!」
「笑えるようになったんだな!」
「……?」
すぐに元の無表情の仮面を装着するサニワ。カチコチに固まった表情筋のせいか、すぐに元通りとなったが、その日は一日中お祭り騒ぎになっていた。
カミツレとのバトルは、サトシが勝利したようだ。それでも余裕の勝利というわけではなく、辛うじて勝利を捥ぎ取ったような勝負だったらしい。
まあそれでも勝利した事実は変わらないので、早速次の地に向かいたいところではあるのだが。
「……街、出ない?」
「次のジムは跳ね橋を渡った先にあるホドモエシティにあるんだ。でも、この間のモンスターボール強奪事件で跳ね橋があがっちゃったままなんだよ」
「だから跳ね橋が復旧するまで、しばらくライモンシティを観光することにしたの!」
「……そう。たのしんで、きてね」
「え? サニワは行かないのかい?」
デントの問いに、サニワはこくんと首を縦に振る。どうしてとサトシたちが理由を問うと、代わりにこんのすけが代弁した。
「恐らく、主さまは人ごみを気になさっているのだと思います。本日のライモンジム戦がギャラリーでごった返していたのが、テレビを通じて報道されたのをご覧になったのです」
「確かにすごい人混みだったもんなあ……」
「そういえば、インタビュアーもサニワの居場所をジョーイさんに聞いてたわね……。ミクリさんが近くを通りかからなかったらバレてたかも」
ホドモエシティへ向かう跳ね橋も今は上がっており、当分はそちらへ向かえそうにない。
更に熱心なサニワのファンは未だライモンシティに滞在していることを既に突き止めており、ポケモンセンターでは出待ちのファンが押し掛けている状態だそうだ。
何とかジュンサーさんが不要不急のポケモンセンターの来訪を控えるようにと告げて周り、ライモンシティ中のジョーイさんがプライバシーだからと口を割らないでいるが、どのポケモンセンターに滞在しているかバレるのはもう時間の問題だろう。
ちなみにミクリがポケモンセンターを訪れた際に、一気に注目が彼へ移動した。
このポケモンセンターはライモンシティの中でもミュージカルホールから最も近いそれであり、コンテストマスターである彼がこのポケモンセンターを訪れても不思議ではない。注目が一気に彼へ移ったその隙を突いて、何とか部屋まで辿り着いたのである。
この調子では、もしホドモエに移動したとしても、きっと熱狂的なファンが追いかけてくることは明白だった。
自分が異様に注目を集めるのはまだいい。注目の的になるのは、好奇の視線に晒されるのは、この容姿も相まって慣れている。だが、旅をしているサトシたちの足を引っ張るのだけは避けたい。
サンヨウシティでのあの少女のように、ライモンタウンのあのスタッフのように、逆恨みやら何やらで危害を加えられるかもしれない。
その相手が自分ならまだいい。この世界に来てから、痛覚も鈍っているようだから。でも、その矛先がまだ幼いサトシやアイリス、年長者ではあるがまだ子どものデントに向けられてしまったら。
自分の「ガラルチャンピオン」という肩書きは、まだ到底扱いきれそうにない。仲間のサトシたちを守りきれる自信など、あるわけがない。
ガーネットの瞳には、意思が宿っていた。
サニワは正座で座り直すと、サトシたちと向き合った。しゃんと背筋が伸びたその姿は、まさに「将」というに相応しい。
「……サトシ、アイリス、デント」
「おう、どうしたんだ?」
「決めた。……わたし、ホウエン、行く」
一瞬、しんと静まり返る室内。だがその静寂は長くは続かなかった。
知っていたと言わんばかりに、アイリスがサニワをぎゅーっと強い力で抱きしめたからだ。
「サニワならそう言うと思ってたわ。離れるのは寂しいけれど……頑張って!」
「俺もだぜ! 元の世界に戻れるといいな!」
「応援しているよ」
「みんな、ありがと……。頑張る、ね」
ふわり。一瞬だけ、サニワの表情が綻んだ。頬が牡丹色に染まり、まるで周囲に花が舞うような、そんな微笑だった。
常に無口・無表情という彼女が見せた反応に、サトシたちは目を見開きする。
「サニワ! 表情が!」
「笑ったー!」
「笑えるようになったんだな!」
「……?」
すぐに元の無表情の仮面を装着するサニワ。カチコチに固まった表情筋のせいか、すぐに元通りとなったが、その日は一日中お祭り騒ぎになっていた。