第30話
ダイゴからの誘いで、彼がチャンピオンを務めるホウエン地方へ誘われたサニワ。通常であれば笑殺するはずだが、ダイゴは「もしかしたら元の世界へ帰る手だてが見つかるかもしれない」と、垂涎の条件を提示してきたのだ。
サニワの夢であり、目標は「本丸へ無事帰還すること」。それを叶えられるのであれば、恐らくガラルにいた頃であれば二つ返事で了承していただろう。
ところが、今はイッシュ地方で旅をしている最中。しかも一人旅ではなく、同行する仲間だっている。仲間と共に旅した経験や、それを経て得た発見は、一度失ってしまったサニワの感情を取り戻すほどだったのだ。
今まで通り旅を続けるか。それとも、自分の夢を叶えるために、サトシたちと別れるか。サニワはずっと俯き、思い悩んでいた。
ポケモンセンターの宿泊する部屋にあるベッドに身体を埋 め、ぐるぐると考えを巡らせている。
サトシたちはサニワへ問いかけるも、すぐに答えが出てくるはずもない。わからないとしか答えようがなかった。
「なあ、どうすんだよサニワ」
「ホウエン地方に行くのかい? 元の世界に帰るのが、サニワの夢なんだろう?」
「……わかんない。……かえりたい。でも、サトシたちと一緒、とっても楽しい。……どうしよう」
サニワは相当悩んでいるようで、うー、と幼い口調で上げた呻き声を、こんのすけのモフモフとした体毛で掻き消す。彼は主人を気遣ってか、特に何も文句は言わなかった。
「……そうね。あたしもサニワと一緒に旅するの、すっごく楽しかった! ね、キバゴ」
「きばきば!」
「俺も楽しかったぜ! な、ピカチュウ!」
「ぴっかちゅう!」
アイリスとキバゴ、それにサトシにピカチュウも、サニワと旅した思い出は楽しいものだったと語る。それはデント、ヤナップも同じ思いだった。
ヒウンシティの騒動や、ライモンシティでのモンスターボール強奪・誘拐事件だって、サニワの力なしでは解決しなかったことだろう。それほど彼女の思考能力やチャンピオンとしての経験は、サトシたちとしても非常に得るものが多かった。それはこれまでも、これからも変わらない。
「でも、サニワの夢は、元の世界に帰ることなんだろ? 夢を諦めちゃダメだって!」
「……見つかるとは、限らない。帰れない、かも。……イッシュも、おなじ」
「それもそうね……」
「もっと、考えたい。……ごめんなさい」
「サニワが謝る必要ないさ。それに、もしサニワがホウエンに行くことになっても、僕たちはイッシュから応援してるからね」
「俺も応援してるぜ! 夢、絶対に叶えろよ!」
「アンタは先にカミツレさんとのジム戦があるでしょ!」
「あ、そうだった!」
「本当、サトシったら子どもねえ……」
しまった! と目を開くサトシに、やれやれと呆れたように首を振るパートナー。それを眺め、笑うアイリスとデント。
この旅が終われば、もう二度とこの光景が見られることもないだろう。目に焼き付けるかのように、サニワはじっと彼らを見詰めていた。
翌日。サトシたちがカミツレとのジム戦に挑戦する中、サニワは独りポケモンセンターで、ポケモンたちの手入れをしていた。
ガラル地方のチャンピオンであるサニワは、イッシュでも屈指の知名度を誇る。
先日行われたカミツレとのジム戦は瞬く間にSNSで拡散され、サニワの姿を一目見ようと大勢の人がライモンシティを訪れており、一度外出すればヒウンシティのフシデ並の騒動が起きると容易く想像できる。
これ以上の混乱を引き起こしかねないため、ジョーイさんに許可を取りポケモンセンターの客室で時間を潰すことにした。
タマゴの頃から共にいるキュウコンの毛並みを、ブラシで丁寧に整えていたが、その手も途中で止まったりと覚束ない。
それを見かねてか、サーナイトがフレンドリーショップで購入してきたのであろうサイコソーダを手にしていた。サイコキネシスで王冠型の封を開け、主人であるサニワへ渡す。
「……わ、ありがと」
<私の力で、マスターの味覚の異常が治癒できればよかったのですが……あぁ、なんと御労しい……!>
「ごはん、へんな味だった?」
<主さんの作るポケモンフーズは、わっちの好みでありんす。自信持っておくんなんし!>
キュウコンに凭れかかり、渡されたサイコソーダを口に含む。途端に炭酸特有のシュワシュワした刺激が走り、サニワは目をぎゅっと瞑った。
「……ぱちぱち、する。口、いたい」
<あはは、そりゃあ炭酸でありんすからねえ>
キュウコンはけたけたと悪戯っ子のように笑った。悪戯好きな性格も相まってか、目を窄める主人の頭をわしゃわしゃと器用に九つの尻尾で撫で繰り回す。そして几帳面な性格のサーナイトが、乱れたサニワのヘアスタイルを直すまでがワンセットとなっている。
我慢強いトゲキッスやエルフーンは、周囲にポケモンや人が絶えないサニワが珍しく一人でいる所を見計らい、寵愛を享受するのだ。そんな意味では一番の策士であるかもしれない。
付けっぱなしのテレビから流れる番組は、MCのお姉さんとミルホッグとの掛け合いが人気な「これってなあに?」やワザマ先生による解説でおなじみの「わざと 暮らす」が大抵だった。だが今回は臨時ニュースで差し替えられたのだ。
先日のモンスターボール強奪事件かな、とサニワは考えたのだが、映し出されたのはライモンジム。溢れんばかりのそこには人がごった返していた。
「先日、ガラル地方チャンピオンであるサニワさんが、ライモンジムでジム戦を行いました。既にジムバッジを手に入れたそうですが、彼女の勇姿を一目見ようと、ライモンジムには数多くの人たちが集まっています!」
「……うわぁ」
テレビ画面は、ライモンジム上空の映像に切り替わった。確かにキャスターの伝える通り、ライモンジムの周囲には溢れんばかりの人々が集っており、ジュンサーさんもハーデリアを連れて出動している始末だ。
コミケの時期の東京ビッグサイトさながらな光景に、サニワの表情はスンッと無表情になる。彼女は常日ごろ無表情ではあるが、さらにチベスナのような何とも言えない虚無顔になっていた。
サニワの夢であり、目標は「本丸へ無事帰還すること」。それを叶えられるのであれば、恐らくガラルにいた頃であれば二つ返事で了承していただろう。
ところが、今はイッシュ地方で旅をしている最中。しかも一人旅ではなく、同行する仲間だっている。仲間と共に旅した経験や、それを経て得た発見は、一度失ってしまったサニワの感情を取り戻すほどだったのだ。
今まで通り旅を続けるか。それとも、自分の夢を叶えるために、サトシたちと別れるか。サニワはずっと俯き、思い悩んでいた。
ポケモンセンターの宿泊する部屋にあるベッドに身体を
サトシたちはサニワへ問いかけるも、すぐに答えが出てくるはずもない。わからないとしか答えようがなかった。
「なあ、どうすんだよサニワ」
「ホウエン地方に行くのかい? 元の世界に帰るのが、サニワの夢なんだろう?」
「……わかんない。……かえりたい。でも、サトシたちと一緒、とっても楽しい。……どうしよう」
サニワは相当悩んでいるようで、うー、と幼い口調で上げた呻き声を、こんのすけのモフモフとした体毛で掻き消す。彼は主人を気遣ってか、特に何も文句は言わなかった。
「……そうね。あたしもサニワと一緒に旅するの、すっごく楽しかった! ね、キバゴ」
「きばきば!」
「俺も楽しかったぜ! な、ピカチュウ!」
「ぴっかちゅう!」
アイリスとキバゴ、それにサトシにピカチュウも、サニワと旅した思い出は楽しいものだったと語る。それはデント、ヤナップも同じ思いだった。
ヒウンシティの騒動や、ライモンシティでのモンスターボール強奪・誘拐事件だって、サニワの力なしでは解決しなかったことだろう。それほど彼女の思考能力やチャンピオンとしての経験は、サトシたちとしても非常に得るものが多かった。それはこれまでも、これからも変わらない。
「でも、サニワの夢は、元の世界に帰ることなんだろ? 夢を諦めちゃダメだって!」
「……見つかるとは、限らない。帰れない、かも。……イッシュも、おなじ」
「それもそうね……」
「もっと、考えたい。……ごめんなさい」
「サニワが謝る必要ないさ。それに、もしサニワがホウエンに行くことになっても、僕たちはイッシュから応援してるからね」
「俺も応援してるぜ! 夢、絶対に叶えろよ!」
「アンタは先にカミツレさんとのジム戦があるでしょ!」
「あ、そうだった!」
「本当、サトシったら子どもねえ……」
しまった! と目を開くサトシに、やれやれと呆れたように首を振るパートナー。それを眺め、笑うアイリスとデント。
この旅が終われば、もう二度とこの光景が見られることもないだろう。目に焼き付けるかのように、サニワはじっと彼らを見詰めていた。
翌日。サトシたちがカミツレとのジム戦に挑戦する中、サニワは独りポケモンセンターで、ポケモンたちの手入れをしていた。
ガラル地方のチャンピオンであるサニワは、イッシュでも屈指の知名度を誇る。
先日行われたカミツレとのジム戦は瞬く間にSNSで拡散され、サニワの姿を一目見ようと大勢の人がライモンシティを訪れており、一度外出すればヒウンシティのフシデ並の騒動が起きると容易く想像できる。
これ以上の混乱を引き起こしかねないため、ジョーイさんに許可を取りポケモンセンターの客室で時間を潰すことにした。
タマゴの頃から共にいるキュウコンの毛並みを、ブラシで丁寧に整えていたが、その手も途中で止まったりと覚束ない。
それを見かねてか、サーナイトがフレンドリーショップで購入してきたのであろうサイコソーダを手にしていた。サイコキネシスで王冠型の封を開け、主人であるサニワへ渡す。
「……わ、ありがと」
<私の力で、マスターの味覚の異常が治癒できればよかったのですが……あぁ、なんと御労しい……!>
「ごはん、へんな味だった?」
<主さんの作るポケモンフーズは、わっちの好みでありんす。自信持っておくんなんし!>
キュウコンに凭れかかり、渡されたサイコソーダを口に含む。途端に炭酸特有のシュワシュワした刺激が走り、サニワは目をぎゅっと瞑った。
「……ぱちぱち、する。口、いたい」
<あはは、そりゃあ炭酸でありんすからねえ>
キュウコンはけたけたと悪戯っ子のように笑った。悪戯好きな性格も相まってか、目を窄める主人の頭をわしゃわしゃと器用に九つの尻尾で撫で繰り回す。そして几帳面な性格のサーナイトが、乱れたサニワのヘアスタイルを直すまでがワンセットとなっている。
我慢強いトゲキッスやエルフーンは、周囲にポケモンや人が絶えないサニワが珍しく一人でいる所を見計らい、寵愛を享受するのだ。そんな意味では一番の策士であるかもしれない。
付けっぱなしのテレビから流れる番組は、MCのお姉さんとミルホッグとの掛け合いが人気な「これってなあに?」やワザマ先生による解説でおなじみの「わざと 暮らす」が大抵だった。だが今回は臨時ニュースで差し替えられたのだ。
先日のモンスターボール強奪事件かな、とサニワは考えたのだが、映し出されたのはライモンジム。溢れんばかりのそこには人がごった返していた。
「先日、ガラル地方チャンピオンであるサニワさんが、ライモンジムでジム戦を行いました。既にジムバッジを手に入れたそうですが、彼女の勇姿を一目見ようと、ライモンジムには数多くの人たちが集まっています!」
「……うわぁ」
テレビ画面は、ライモンジム上空の映像に切り替わった。確かにキャスターの伝える通り、ライモンジムの周囲には溢れんばかりの人々が集っており、ジュンサーさんもハーデリアを連れて出動している始末だ。
コミケの時期の東京ビッグサイトさながらな光景に、サニワの表情はスンッと無表情になる。彼女は常日ごろ無表情ではあるが、さらにチベスナのような何とも言えない虚無顔になっていた。