第29話
「やあ。久しぶりだね、サニワちゃん。元気にしていたかな?」
携帯端末に映し出されている銀髪のイケメンが、柔らかな声色でサニワへ話しかけた。
銀髪のイケメンはダイゴといい、二十五歳という若さでホウエンリーグチャンピオンを務める猛者であり、大企業デボンコーポレーションの御曹司でもある。
サニワの表情はぴくりとも動かないが、ダイゴは早速本題に入った。
「ミクリから話はおおまかな話は聞いていると思うけれど、キミの力を貸して欲しいんだ。温暖な気候のホウエン地方はキミにとって、厳しいかもしれないけれど……キミの異世界の知識を借りたい。もちろん、そのまま旅を続けてくれても構わないよ。それはキミの意思に任せるさ。でも、この間悪い輩に誘拐されそうになっただろう? このまま悠々自適に旅を続けるのもいいと思うけれど、再び危険に遭遇するかもしれない。それに、もしかしたらキミが元の世界に戻るきっかけを作れるかもしれないしね」
「元の、世界……帰れる? ほんと?」
「おいダイゴ! サニワくんを元の世界に返すだなんて……!」
「ダンデはちょっと黙っててくれ。ボクはサニワちゃんと話をしている最中なんだ。それに……サニワちゃんをこっちの世界に連れてきた方法だって、ほぼ騙し討ちだろう?」
「あのなダイゴ、サニワはまだまだ幼いんだぜ。まだ十にも満たない子どもだ。オレサマたちが守ってやらねえと……」
「でも、サニワちゃんは立派なひとりの人間だよ。彼女も意思はあるんだ。それを踏みにじるような行為は、守るなんて言えないね」
「ま、まあまあ! お二人とも落ち着きましょう!」
「そうよ、デント君の言う通りだわ。それに、決めるのはサニワちゃんだもの」
サニワを元の世界に返すことに反発するダンデとキバナ。だがダイゴはそれに毒を吐く。電話越しに剣呑な雰囲気が広がった。
それをカミツレとデントが無理やり和ませたことにより、一触即発のそれは多少和らいだ。とはいえ、ぴりぴりと肌を突き刺すような空気は未だに顕在している。
しばし部屋が沈黙に包まれた後。少し息払いをして、ダイゴは話の続きを語り始めた。
「サニワちゃん。これはあらかじめ知っていて欲しいことだけど、絶対に帰れるとは言えないよ。ただその可能性は無きにしも非ず、と言う感じかな。正直、シロナに付いた方が可能性はある。山積みされた資料の片づけさせられるかもしれないけど。いや、絶対にさせられるけど」
「……うん」
「掃除は壊滅的にできませんもんね、あの人……」
パルキアは空間を司るといわれる、シンオウ地方に伝わる伝説のドラゴンポケモンだ。見た目はあんまりドラゴンっぽくないが、ドラゴンタイプなので一応ドラゴンポケモンである。
シンオウ地方のチャンピオンであるシロナは考古学者でもあり、シンオウに伝わる各地の伝説について調べている。彼女に師事して学んだ方が、パルキアに接触して元の世界へ帰還できる可能性が高い。
だがダイゴも、自身の会社の関係でホウエンに伝わる伝説についてある程度調べている。あまり空間や異世界についての伝聞はないが、可能性もないわけではなかった。
できることなら、サトシたちと一緒に旅を続けていたい。だがサニワの夢は元の世界に帰還すること。それが叶うチャンスなのだ。
うんうんと思い悩むサニワに、ダイゴは優しく微笑んだ。
「……それじゃ、答えが出たら迎えに行くよ。ゆっくり考えてね」
「ん……」
ダイゴとの通信が途切れ、再び静寂が訪れる。だがすぐにキバナの声によって、それは打ち破られた。
「それで、サニワくんは俺たちと一緒にガラルに帰るのかい? 癪だが……ダイゴと一緒にホウエンに行くのか?」
「それとも、旅を続けるのかい? 私としても、あまり勧めないけれど」
「……ガラル、もう、行かない。……いま、言う。それだけ」
サニワは、じっとダンデとキバナを見詰める。その深紅の双眸は、例えどんなことがあろうとも、決して屈しない強い意思が宿っていた。
屈強な意思に折れたのはダンデだった。まさかの親友の掌返しに、キバナは彼を二度見する。
「……そうか。ならば、俺たちはガラルに戻るよ」
「は⁉︎ おいダンデ! 今回は未遂で済んだが、またサニワが悪い奴らに誘拐されたら……!」
「キバナ、君の心配もわかる。正直俺もそうだぜ。また悪い奴らに利用されると思うと、手元に置いた方が安心するんだ。だが、何というか……そうだな、今回の旅を経て、再び彼女の目に光が宿ったような感じがするんだ。それはキバナも感じ取っているだろう?」
「……それは」
ダンデの言葉に、キバナが押し黙る。その無言は、否定したいものの肯定の意を示していた。
彼の反応を目に入れつつ、ダンデは追撃といわんばかりに言葉を続ける。
「それに、食欲や味覚はまだ本調子ではないようだが……。何もしていないのに涙を流したり、ボーッと意識がどこかへ飛ぶようなこともなくなったじゃないか。マスタード師匠の道場に籍を置いていても、調子が戻ることはなかったのに」
「……そうだな。認めたくはねえけどよ。ここで無理やりガラルに連れ戻しても、生気のない虚ろな状態に戻るだけ、か」
「そういうわけだぜ。じゃあ、俺たちはこれで」
「おい馬鹿出口はあっちだ! ダンデ、オマエはもうじっとしてろ! 迷子になると後々面倒なんだよ!」
出口とは反対方向に進もうとするダンデの首根っこを鷲掴み、キバナは出口へと向かっていく。サニワは無表情でそれを見送っていた。
携帯端末に映し出されている銀髪のイケメンが、柔らかな声色でサニワへ話しかけた。
銀髪のイケメンはダイゴといい、二十五歳という若さでホウエンリーグチャンピオンを務める猛者であり、大企業デボンコーポレーションの御曹司でもある。
サニワの表情はぴくりとも動かないが、ダイゴは早速本題に入った。
「ミクリから話はおおまかな話は聞いていると思うけれど、キミの力を貸して欲しいんだ。温暖な気候のホウエン地方はキミにとって、厳しいかもしれないけれど……キミの異世界の知識を借りたい。もちろん、そのまま旅を続けてくれても構わないよ。それはキミの意思に任せるさ。でも、この間悪い輩に誘拐されそうになっただろう? このまま悠々自適に旅を続けるのもいいと思うけれど、再び危険に遭遇するかもしれない。それに、もしかしたらキミが元の世界に戻るきっかけを作れるかもしれないしね」
「元の、世界……帰れる? ほんと?」
「おいダイゴ! サニワくんを元の世界に返すだなんて……!」
「ダンデはちょっと黙っててくれ。ボクはサニワちゃんと話をしている最中なんだ。それに……サニワちゃんをこっちの世界に連れてきた方法だって、ほぼ騙し討ちだろう?」
「あのなダイゴ、サニワはまだまだ幼いんだぜ。まだ十にも満たない子どもだ。オレサマたちが守ってやらねえと……」
「でも、サニワちゃんは立派なひとりの人間だよ。彼女も意思はあるんだ。それを踏みにじるような行為は、守るなんて言えないね」
「ま、まあまあ! お二人とも落ち着きましょう!」
「そうよ、デント君の言う通りだわ。それに、決めるのはサニワちゃんだもの」
サニワを元の世界に返すことに反発するダンデとキバナ。だがダイゴはそれに毒を吐く。電話越しに剣呑な雰囲気が広がった。
それをカミツレとデントが無理やり和ませたことにより、一触即発のそれは多少和らいだ。とはいえ、ぴりぴりと肌を突き刺すような空気は未だに顕在している。
しばし部屋が沈黙に包まれた後。少し息払いをして、ダイゴは話の続きを語り始めた。
「サニワちゃん。これはあらかじめ知っていて欲しいことだけど、絶対に帰れるとは言えないよ。ただその可能性は無きにしも非ず、と言う感じかな。正直、シロナに付いた方が可能性はある。山積みされた資料の片づけさせられるかもしれないけど。いや、絶対にさせられるけど」
「……うん」
「掃除は壊滅的にできませんもんね、あの人……」
パルキアは空間を司るといわれる、シンオウ地方に伝わる伝説のドラゴンポケモンだ。見た目はあんまりドラゴンっぽくないが、ドラゴンタイプなので一応ドラゴンポケモンである。
シンオウ地方のチャンピオンであるシロナは考古学者でもあり、シンオウに伝わる各地の伝説について調べている。彼女に師事して学んだ方が、パルキアに接触して元の世界へ帰還できる可能性が高い。
だがダイゴも、自身の会社の関係でホウエンに伝わる伝説についてある程度調べている。あまり空間や異世界についての伝聞はないが、可能性もないわけではなかった。
できることなら、サトシたちと一緒に旅を続けていたい。だがサニワの夢は元の世界に帰還すること。それが叶うチャンスなのだ。
うんうんと思い悩むサニワに、ダイゴは優しく微笑んだ。
「……それじゃ、答えが出たら迎えに行くよ。ゆっくり考えてね」
「ん……」
ダイゴとの通信が途切れ、再び静寂が訪れる。だがすぐにキバナの声によって、それは打ち破られた。
「それで、サニワくんは俺たちと一緒にガラルに帰るのかい? 癪だが……ダイゴと一緒にホウエンに行くのか?」
「それとも、旅を続けるのかい? 私としても、あまり勧めないけれど」
「……ガラル、もう、行かない。……いま、言う。それだけ」
サニワは、じっとダンデとキバナを見詰める。その深紅の双眸は、例えどんなことがあろうとも、決して屈しない強い意思が宿っていた。
屈強な意思に折れたのはダンデだった。まさかの親友の掌返しに、キバナは彼を二度見する。
「……そうか。ならば、俺たちはガラルに戻るよ」
「は⁉︎ おいダンデ! 今回は未遂で済んだが、またサニワが悪い奴らに誘拐されたら……!」
「キバナ、君の心配もわかる。正直俺もそうだぜ。また悪い奴らに利用されると思うと、手元に置いた方が安心するんだ。だが、何というか……そうだな、今回の旅を経て、再び彼女の目に光が宿ったような感じがするんだ。それはキバナも感じ取っているだろう?」
「……それは」
ダンデの言葉に、キバナが押し黙る。その無言は、否定したいものの肯定の意を示していた。
彼の反応を目に入れつつ、ダンデは追撃といわんばかりに言葉を続ける。
「それに、食欲や味覚はまだ本調子ではないようだが……。何もしていないのに涙を流したり、ボーッと意識がどこかへ飛ぶようなこともなくなったじゃないか。マスタード師匠の道場に籍を置いていても、調子が戻ることはなかったのに」
「……そうだな。認めたくはねえけどよ。ここで無理やりガラルに連れ戻しても、生気のない虚ろな状態に戻るだけ、か」
「そういうわけだぜ。じゃあ、俺たちはこれで」
「おい馬鹿出口はあっちだ! ダンデ、オマエはもうじっとしてろ! 迷子になると後々面倒なんだよ!」
出口とは反対方向に進もうとするダンデの首根っこを鷲掴み、キバナは出口へと向かっていく。サニワは無表情でそれを見送っていた。