第29話
ロケット団によるポケモン強奪事件から数日が経過し、街も平穏を取り戻しつつある頃。
サトシは瞳に炎を宿し、ポケモンジムへ挑戦する意欲を見せている。ジムはとっくに再開しているが、この日に挑戦すると決めたのはとある理由があった。
ポケモンとともに拉致されたサニワがその際に負った怪我。あまりにも酷いので、様子を見ていたのだ。
ポケモンが存在しない世界から来た彼女には一溜まりもないだろう。幸いナイトヘッドは恐ろしい幻を見せて攻撃する技なので、身体にはあまり影響はないものの、それでもしばらくは酷い頭痛に嘖まれていた。
「痛くないかい?」
「だいじょぶ。平気……ありがと」
ポケモンセンターを出た一向に見せつけるように、私は元気ですと両手をブラブラと振るサニワ。彼女もジムリーダーの都合が合えば、同日に挑戦したいと考えている。
……だが、肝心のジムは閉まっていた。
こてん、と小首を傾げるサニワ。メンバーの中で最も背の低い彼女の頭上には、その理由が書かれた張り紙がぽつんと佇んでいた。
「あれ? 何か書いてある!」
「『ファッションショーのため留守にします』……か」
カミツレはイッシュ地方を代表するスーパーモデルだ。その知名度はガラル地方で活躍するモデル兼ジムリーダーのルリナにも引けを取らず、彼女と同程度の人気を博している。
どうやらファッションショーが近くの会場にて開催されるようなので、サトシたちは早速その場所へ向かうことに決めた。ジムリーダーの為人 を知るのも、重要な戦略のひとつだ。
会場は数多くのカメラマンや報道陣、そして黄色い声援を上げるファンで埋め尽くされていた。バシャバシャとフラッシュが焚かれ、その中を颯爽と進むカミツレ。華麗なポージングを取り、多種多様な洋服を着こなすその様は女性にとっての憧れだ。
ところがその眩しさはアルビノのサニワにとっては酷なもの。眩しそうに目を細めサングラスを装着する。
「まぶしい……」
「まあ、クラクラしちゃう!」
カミツレは壇上から跳躍し、サニワの目の前でひらりと着地する。その行動すらスタイリッシュに魅せるのはまさにスーパーモデルだ。
突如目の前に現れたカミツレに対して、サニワは背後にキュウリを置かれたチョロネコの跳躍を披露した。だがそんなサニワを気に留めることなく、熱烈なハグを交わす。
「久しぶりね、サニワちゃん! 相変わらずキラキラに輝いてるわ! ちょっと背が大きくなったかしら?」
「……ひさしぶり、です」
「サニワ、カミツレさんと知り合いだったの⁉︎」
驚くアイリスたちをよそに、カミツレはもちもちとサニワの頬の感触を堪能している。その表情はファッションショーの時と同一人物と思えないほど、デレッデレに蕩けていた。
カミツレはサニワの傍にいたサトシたちに気付くと、すぐにいつものクールビューティな凛々しい表情へ変わる。
「あら、サニワちゃんのお友達かしら? よろしくね」
「はい、俺はサトシです! こっちは相棒のピカチュウ。さっきジムに行ったんですけど、閉まってて……」
「あたし、アイリスです!」
「デントといいます」
「チャレンジャーなのね! いいわ、それじゃショーが終わったらジムまで来てちょうだい」
再びステージに戻っていくカミツレ。だが注目は既にカミツレではなく、お忍びかつ、いきなり登場していたガラルチャンピオンへ向いている。
「え? あの娘もしかして、ガラルチャンピオンじゃない……?」
「まさかこのライモンシティに来てるなんて……!」
「嘘! どこどこ⁉︎」
あ、これ大騒ぎになるタイプのヤツだ。
騒動の気配を察知した途端、大勢の観客や報道陣が津波のように押し寄せる。多種多様なシャッター音と人の騒めきが会場に響き、一種のヘヴィメタルを奏でているかのようだ。
まるで一つの意思を持っているかのように蠢く群衆の波は、今にでも小さなサニワを掻っ攫ってしまいそうになる。それを必死に彼女は躱し続けていたが、群衆の手に捕まるのも時間の問題だろう。
サニワたちは慌ててファッションショーの会場から立ち去り、ライモンジムへ逃げ込むのだった。
幸い、ライモンジムの扉の鍵は既に開かれており、自動ドアが開かれた先には、四人乗りのコースターが鎮座していた。
「何だ? これ」
「バトルフィールドには、これに乗っていくんじゃないかな」
「それにずっとここで待ってたら、また揉みくちゃにされるだけよ。早く乗りましょ! サニワはあたしの隣ね!」
アイリスはそう宣言するや否や、コースターの前部座席を陣取り、サニワをその隣へ座らせる。連れの管狐は主人の膝の上へちょこんと座った。
「あー狡いぞアイリス! 俺だって前に座りたい!」
「こういうのは早い者勝ちなの! 座席で揉めるなんて、本当に子どもね!」
ぎゃいのぎゃいのと言い争うサトシとアイリス。だがその声は扉の外から聞こえてきた喧騒によって掻き消され、慌ててサトシとデントが後部座席に飛び乗ったことで収束したのだった。
サトシは瞳に炎を宿し、ポケモンジムへ挑戦する意欲を見せている。ジムはとっくに再開しているが、この日に挑戦すると決めたのはとある理由があった。
ポケモンとともに拉致されたサニワがその際に負った怪我。あまりにも酷いので、様子を見ていたのだ。
ポケモンが存在しない世界から来た彼女には一溜まりもないだろう。幸いナイトヘッドは恐ろしい幻を見せて攻撃する技なので、身体にはあまり影響はないものの、それでもしばらくは酷い頭痛に嘖まれていた。
「痛くないかい?」
「だいじょぶ。平気……ありがと」
ポケモンセンターを出た一向に見せつけるように、私は元気ですと両手をブラブラと振るサニワ。彼女もジムリーダーの都合が合えば、同日に挑戦したいと考えている。
……だが、肝心のジムは閉まっていた。
こてん、と小首を傾げるサニワ。メンバーの中で最も背の低い彼女の頭上には、その理由が書かれた張り紙がぽつんと佇んでいた。
「あれ? 何か書いてある!」
「『ファッションショーのため留守にします』……か」
カミツレはイッシュ地方を代表するスーパーモデルだ。その知名度はガラル地方で活躍するモデル兼ジムリーダーのルリナにも引けを取らず、彼女と同程度の人気を博している。
どうやらファッションショーが近くの会場にて開催されるようなので、サトシたちは早速その場所へ向かうことに決めた。ジムリーダーの
会場は数多くのカメラマンや報道陣、そして黄色い声援を上げるファンで埋め尽くされていた。バシャバシャとフラッシュが焚かれ、その中を颯爽と進むカミツレ。華麗なポージングを取り、多種多様な洋服を着こなすその様は女性にとっての憧れだ。
ところがその眩しさはアルビノのサニワにとっては酷なもの。眩しそうに目を細めサングラスを装着する。
「まぶしい……」
「まあ、クラクラしちゃう!」
カミツレは壇上から跳躍し、サニワの目の前でひらりと着地する。その行動すらスタイリッシュに魅せるのはまさにスーパーモデルだ。
突如目の前に現れたカミツレに対して、サニワは背後にキュウリを置かれたチョロネコの跳躍を披露した。だがそんなサニワを気に留めることなく、熱烈なハグを交わす。
「久しぶりね、サニワちゃん! 相変わらずキラキラに輝いてるわ! ちょっと背が大きくなったかしら?」
「……ひさしぶり、です」
「サニワ、カミツレさんと知り合いだったの⁉︎」
驚くアイリスたちをよそに、カミツレはもちもちとサニワの頬の感触を堪能している。その表情はファッションショーの時と同一人物と思えないほど、デレッデレに蕩けていた。
カミツレはサニワの傍にいたサトシたちに気付くと、すぐにいつものクールビューティな凛々しい表情へ変わる。
「あら、サニワちゃんのお友達かしら? よろしくね」
「はい、俺はサトシです! こっちは相棒のピカチュウ。さっきジムに行ったんですけど、閉まってて……」
「あたし、アイリスです!」
「デントといいます」
「チャレンジャーなのね! いいわ、それじゃショーが終わったらジムまで来てちょうだい」
再びステージに戻っていくカミツレ。だが注目は既にカミツレではなく、お忍びかつ、いきなり登場していたガラルチャンピオンへ向いている。
「え? あの娘もしかして、ガラルチャンピオンじゃない……?」
「まさかこのライモンシティに来てるなんて……!」
「嘘! どこどこ⁉︎」
あ、これ大騒ぎになるタイプのヤツだ。
騒動の気配を察知した途端、大勢の観客や報道陣が津波のように押し寄せる。多種多様なシャッター音と人の騒めきが会場に響き、一種のヘヴィメタルを奏でているかのようだ。
まるで一つの意思を持っているかのように蠢く群衆の波は、今にでも小さなサニワを掻っ攫ってしまいそうになる。それを必死に彼女は躱し続けていたが、群衆の手に捕まるのも時間の問題だろう。
サニワたちは慌ててファッションショーの会場から立ち去り、ライモンジムへ逃げ込むのだった。
幸い、ライモンジムの扉の鍵は既に開かれており、自動ドアが開かれた先には、四人乗りのコースターが鎮座していた。
「何だ? これ」
「バトルフィールドには、これに乗っていくんじゃないかな」
「それにずっとここで待ってたら、また揉みくちゃにされるだけよ。早く乗りましょ! サニワはあたしの隣ね!」
アイリスはそう宣言するや否や、コースターの前部座席を陣取り、サニワをその隣へ座らせる。連れの管狐は主人の膝の上へちょこんと座った。
「あー狡いぞアイリス! 俺だって前に座りたい!」
「こういうのは早い者勝ちなの! 座席で揉めるなんて、本当に子どもね!」
ぎゃいのぎゃいのと言い争うサトシとアイリス。だがその声は扉の外から聞こえてきた喧騒によって掻き消され、慌ててサトシとデントが後部座席に飛び乗ったことで収束したのだった。