第28話

 航空機の捕獲用部品を破壊したは良いものの、ロケット団の目には、未だ野望の炎はごうごうと燃えている。現に、上空からの回収は諦めたらしいが、列車のスピードを上げて追いつこうとしていた。


『相当執念深いようだな。その執念深さは神には劣るが、敵ながら恐れ入ったよ』
「呑気に感心している場合じゃありません! 今にも追いつきそうですよ‼︎」


 お供の管狐にコンコンと口うるさく忠告され、サニワははいはい、と面倒そうに返事を返しつつ、詳細な指示を出す。


「ポカブ、火の粉。ダンゴロ、ラスターカノン」


 サニワの指揮で列車のスピードが一気に上昇する。
 更にサトシの気持ちに応えるかのように、ポカブの火の粉の威力が、より一気に上昇する。炎タイプの中でも高威力の技、火炎放射を覚えたのだ。


「すごい! 火炎放射よ!」
「サトシの思いを受けて、ポカブに新たな力が目覚めたんだね!」


 サニワはポケモンたちへ絶えず指示を出し、ポケモンたちも必死にそれに応える。それでも執念深く食らいつく列車に、サニワはうんざりとした表情を隠す事なく表に出した。


『全く……本当にしつこいな。撤退も戦略のうちだぞ』
「私たちも援護しましょう!」
『お気持ちは大変嬉しいのですが、この緊急事態です。線路を破壊しても? 小官は敵の戦闘継続能力を、完膚無きまでに粉砕すべきであると考えます』
「戦闘継続能力を粉砕、ですか……」
『はい。できることなら悉く蹂躙してやりたいところですが、この状況下では制空権は握れない……何よりこのまま逃げ続けるだけでは、いずれ終点に辿り着いてしまいます。あぁ、修理費はあの脳(なずき)足らずの大馬鹿野郎……失礼、前のチャンピオンに請求願います』
「手に汗を握る激戦を、サニワちゃんは何度も潜り抜けてきたんだよね。兄さん、サニワちゃんに任せよう」
「……そうですね。この手の事では、サニワ様の方が経験豊富でしょう。では、サニワ様にお任せします」
『では、最善を尽くすところといたしましょう。……さて、戦友諸君! 戦争だ……いや戦争のようなものの始まりだ。蛮族相手に正義の鉄槌を下し! 悉く膺懲(ようちょう)してやろうではないか‼』


 サブウェイマスターの許可も降りたサニワはバンギラスとエルフーンをボールから出すと、途端に猛烈な砂嵐が吹き荒れた。
 強烈な勢いで粒子が運転席の窓ガラスに叩きつけられ、目の前が黄土色に染まる。更にエルフーンのコットンガードで、運転席からの視界は酷いものだ。


「くそッ……前が見えません!」
「このままじゃ不利よ!」
「みずちちゃん。……ストーンエッジ」


 視界が黄土色に霞む中、突如枕木を突き破り、レールを捻じ曲がり、岩が突出する。
 ロケット団の運転する列車は猛スピードを出していため、慌てて急ブレーキをかけるものの、すぐ目の前に出現した岩石との衝突は免れない。猛スピードで正面衝突した列車は大爆発を起こし、衝撃波が周囲を襲う。
 サトシたちを乗せたトロッコも危うく脱輪しかけたが、サニワのサーナイトがサイコキネシスで咄嗟に支えたことで、何とか持ち堪えた。

 衝突直前に脱出していたのか、ロケット団は脱出用の小型ロケットを背中に背負い、宙に浮かんでいた。眉間に皺を寄せたランスは負け惜しみと暴言を吐き捨てるが、サニワは大して気にする事なく、狂気的な笑みを返す。


「……上手くしてやられましたよ。さすがは化け物と恐れられるだけはある」
『だから言ったろう? 勝利の定義は、何も敵軍の殲滅だけではないと。貴様如きが、この化け物を扱えるわけがない!』
「仕方ありませんね。今日のところは貴方を見逃して差し上げましょう」
「だがサカキ様にはお前が必要だ!」
「絶対に諦めないからな‼︎」
『……ではまた、戦場で』


 サニワが呑気に手を振った次の瞬間。煙幕がロケット団を包み込み、姿を消す。恐らく上の航空機に乗り込んだのだろう。
 ポケモンの回収を諦めたロケット団の航空機は、明後日の方向へ引き返して行った。


「ロケット団も、繊細かつ大胆不敵な作戦を考えたものだね」
「あ〜ぁ……。ニャースをゲットしなくて良かったかも」
「……わたし、最初、ダメ、言った」


 がっくりと項垂れるアイリスに、サニワは拙い言葉で忠告したぞ、と呆れたように伝える。その顔は、声と同じように感情が表れている。
 サニワたちを乗せた列車は、文字通りカナワタウンへ一直線に進んでいった。

 日も沈み、空が茜色に染まる頃。
 デントが数多くの車両を眺め、ハイテンションで駆けずり回る。その様子を見たサニワは、ソニアのワンパチを思い出していた。


「地下鉄は完全に復旧いたしました。皆様のお陰でございます」
「盗まれていたモンスターボールは、ポケモンセンターへ戻したよ」


 サブウェイマスターの報告を耳に入れたサトシは、ピカチュウと顔を見合わせる。この調子ならば、憂いなくジム戦にも挑戦できそうだ。


「素晴らしい! ライモンジムに挑戦でございますか!」
「ジムリーダーのカミツレさん、とっても手強いぞ!」
「はい! 頑張ります!」


 サブウェイマスター直々の激励の言葉。サトシは、手を天に掲げて気合いを入れる。その様子をフェンスに凭れて遠目に眺めていたサニワは、疲れが溜まっていたのか、呑気に欠伸を零したのだった。
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