第28話

 トンネルを抜け、ロケット団が運転する列車は太陽の下に出た。
 突然の眩しさにサニワは目を細めるも、すぐにポケモンたちへ指示を出す。


「……ポカブ、火の粉。キバゴ、竜の怒り。ピカチュウ、10万ボルト。赤色、なったら……ミジュマル、水鉄砲」


 ポケモンたちが次々に得意技を放ち、車両の連結器を攻撃していく。連結器まではさすがに対策を施していないのだろう。
 さらに急激に熱してから一気に水で冷ましたことで亀裂が入り、そこに強烈なキュウコンのソーラービームが炸裂。監視に訪れていたランス諸共吹き飛ばし、見事に連結器の破壊に成功した。


「何ですって……⁉︎ お三方、聞こえますか⁉︎ 連結器が破壊されました!」
「ニャんですと⁉︎」
「博士、貨物車が切り離された‼︎」
「こちらからも確認した。侮れん餓鬼共だ」


 サニワは長い耳をひくり、と動かして上空を見上げると、そこには大型のヘリコプターが一機近づいている。恐らく、あの航空機で列車ごと運搬する心算なのだろう。


「どこまで邪魔をするつもりですか……。ですが、まだ逃げ切れたと思うのは早いのです! このまま激突してしまいなさい!」


 列車は一気にスピードを落とす。再び運転用の車両と接触すれば一巻の終わりだ。
 サニワは周囲を見渡すと、ちょうど列車の進行方向を変更する転轍機(てんてつき)が視界に入る。サーナイトへサイコキネシスの指示を出し、タイミングよく進行方向を切り替え、見事衝突を免れた。


「このクソガキが……!」
『随分と焦っているようだが。よもや反撃されるとは思わなかったのか?』


 煽るように、嘲るように。くつくつと笑うサニワ。やはりその顔は、どこか狂気に彩られていて、まさに化け物と呼ぶにふさわしい。
 しかし列車もすぐに追いかけ、大型のヘリも近づいてくる。流石にこの状態で指示を出すのは相当厳しいので、サニワとポケモンたちは貨物車の上へ移動し、敵の位置を正確に把握した。
 大型ヘリの位置も近い。既にヘリは回収用のアームを広げていた。サニワはポケモンたちに技を繰り出し、それぞれ破壊するように指示をするも、一向に壊れる気配はない。
 忌々しそうにサニワが舌を鳴らした、その時だった。


「主さま! 主さまー‼︎」
『おっと。どうやら援軍が到着したらしい』


 並行するトロッコには、こんのすけを始め、サトシやアイリスにデント、そしてサブウェイマスターの姿もあった。
 トロッコの最後尾で電気を放つポケモンは、きっとサブウェイマスターのパートナーなのだろう。その証拠に、ポケモンの放つ電撃は見るだけでもかなりの威力だとわかる。

 自分たちの主人が助けに来てくれたことで、ポケモンたちの士気が一気に上昇する。対するロケット団は、見えていた焦りの色が濃くなった。
 ところが、それでも一向にアームが破壊される気配はない。遂にはガチガチ、と列車に接触する始末だ。焦っているのかなかなか上手く回収できずにいるが、それも時間の問題だろう。
 サニワは深い溜息を吐くと、渋々胸ポケットから一枚の札を取り出した。その札は赤黒く、描かれている模様も見るからに禍々しい。


「主さま⁉︎ まさかそれを……!」
『まさか、これを使うことになろうとはな。まぁ一応緊急事態だし、いいか』


 アームに手を伸ばして、禍々しさを放つ札をぺたり、と貼り付けると。


「ニャニャ⁉︎ 一気に粉々になったニャ‼︎」
「何だと⁉︎」
「ポケモンの技でも絶対に壊れないような強度だぞ⁉︎ そんな非科学的な現象が起きていいはずがない‼︎」


 パキパキ、と薄氷を踏むような軽快な音を出しながら、瞬く間に崩れ落ちていくアーム。まるで脆い石や砂でできていたかのように、破片は塵と化し、風に乗って飛んでいく。
 ところが、これは先ほどまでポケモンの技を受けても破壊できなかった。頑丈な、鋼鉄のはずだった。


『さすがに機体までは破壊できんか。だが付喪(つくも)が宿っていなくとも効果はあるらしい。一応政府に報告しておくか。Hey Kon, 政府へ呪殺札の性能を報告しておいてくれ』
「僕をAIアシスタント扱いしないでくださいます⁉︎」
『それがこんのすけの仕事では? 職務放棄するんじゃない』
「そうですけどぉ‼︎」


 緊急事態だというのに、呑気に会話を交わすサニワとこんのすけ。サニワに至っては滅多に見られない笑顔だ。その笑みは、見るものの背筋を凍てつかせるような。狩りに夢中なウォーグルのような。非常に残酷な笑みであった。
2/3ページ
スキ