第28話

 サトシたちがロケット団にポケモンたちを盗まれ、ライモンシティの地下鉄を管理するサブウェイマスターの力を借りに向かう頃。
 デスマスのナイトヘッドが炸裂し、意識を失っていたサニワが徐に目蓋を開けた。うまく身動きが取れないのは、手錠に繋がれているせいだった。どうやら拉致され、地下鉄の貨物車で運ばれているらしい。

 一瞬で冷静沈着に状況を把握できるのは、彼女が軍人であるからか、数多くの修羅場を乗り越えてきたせいか。全く動じない彼女に、共に誘拐されていたピカチュウとキバゴは何とかなりそうだ、と不安の色が消え失せる。


『……よっと』


 見覚えのある真っ白なプレミアボールを拘束された後ろ手で一つ手に取り放り投げると。色違いのサーナイトが飛び出した。
 繋がれていた手錠は、幸い電気信号式の錠前ではなかった。サーナイトのサイコキネシスによって呆気なく解錠される。
 それを見ていたピカチュウとキバゴは、自分たちもこの檻から開放して欲しいと近づいてきた。球体状の檻は体を締め付け、うまく身動きが取れないのだ。


『やがみちゃん、サイコキネシスで檻を壊して。自分はその間に皆を探す』


 山積みにされていたボールから白色のそれ一つを手に取り、ポケモンを出す。中に入っていたのはキュウコンだ。


『さてと。手っ取り早くこの列車から脱出するとしよう。……その前に連絡を取るのが先だな』


 サニワは早速彼女の力を借りて別行動している仲間たちへ連絡を取り、相手の作戦を伝えながら、目的のボールを探している。
 そして連絡を取り終えた頃、一つのボールを宙へ放り投げる。中から出てきたのはデントのイシズマイだ。
 見たところ、扉の頑丈さは尋常なものではない。ポケモンの技で力押ししても、破壊できないであろう。そうなると、何か特殊能力を持ったポケモンの力を借りるのが得策であるとサニワは考えたのだ。


「力、貸して。……扉、溶かせる?」


 サニワの言葉に任せろ! と力強く頷いたイシズマイは、口から溶解液を吐き出して扉に穴を開けていく。あの溶解液は、背中に背負う岩を削る際に使用するものだ。
 流石に溶解液に耐えられる構造をしていないのか、すぐに穴が開いた。
 かなり大きめに開けてくれたので、標準よりも大きな体躯を持つサニワのサーナイトでも容易に通れることだろう。

 サニワが扉に近づくと、様子を見にきたのだろうか。白を基調とした制服を身に纏い、傍にゴルバットを連れた、翡翠色の短髪の男が運転車両から現れたのだ。


「おや。まさか扉を開けられてしまうとは思いませんでした。……さすがチャンピオン、そして『人の皮を被った化け物』や『天使の皮を被った悪魔』と敵味方から恐れられる審神者なだけありますね」
『……貴官とは初対面のはずだが?』
「随分と余裕なようですが、その余裕はどこから来るのですか?」
『おや、こちらの世界の言葉が通じるとは……感心したよ』


 不敵な笑みを見せるサニワ。それを見た男はくつくつと面白そうに笑うと、呑気に自己紹介を始めた。この作戦を成功させるのに、相当な自信があるようだ。


「私はランス。ロケット団の幹部です」
『……覚えておこう。まあ、小官は殺した相手の名前なんていちいち覚えていないが』
「この状況で、どれだけ減らず口を叩いていられるか見ものですね。貴女には頼りになる刀剣男士もいないし、この速さの列車からは逃げられません。もう愉快な旅はお終いですよ」
『残念な知らせだが、まだ策は残っている。まだ白旗を掲げたわけじゃない』
「……何ですって?」


 勝利の気分に浸っていたランスの顔が不快そうに歪む。今度はサニワが尊大な笑みを浮かべる番だった。


『今は珠の入っていない拳銃すらも貴官らに没収されたようだ。それに今は認めたくはないが、小官はガラルのチャンピオンだ。自衛権、正当防衛を行使したといえども、手を出すとマスコミが煩くて敵わない。だが、勝利の定義は何も敵軍の殲滅だけじゃあない。貴官らの魔の手から逃げ切れば勝ちだ。そうだろう?』
「……なかなか面白い事を仰いますね」
『この化け物を敵に回したんだ。その恐ろしさを解くと味わうがいい。その身を以てな‼︎』


 そう叫ぶサニワの顔は、いつもの人形じみた無表情ではない。ゾッとするような、背筋の凍るような。そんな、狂気に満ちた、満面の笑み。
 その狂気に気圧されたランスは、思わず仰け反った。だが、すぐに誤魔化すように鼻で笑うと、扉を閉めて操縦席へ戻って行った。
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