第25話

 鬱蒼とした木々の中を掻い潜って進むオーベム。異世界への転送ゲートは、基本的に森の奥深くや周囲を湖に囲まれた洞窟など、誤って迷い込まないように、人気のない場所に存在するものだ。
 疑う事なく、サニワとこんのすけはオーベムの背後をついて行く。その右手が再び輝くとも知らずに。

 しばらく進むと木々が開けた場所があり、そこには立派な祭壇があり、その上にアーチ状のものが堂々と鎮座していた。
 サニワは慣れた手つきでアーチに神力を注ぎ込むと、まるで水面に石が投げ入れられたかのように、空間に波紋が広がる。そして、一切の躊躇なく、サニワはこんのすけを肩に乗せ、アーチを潜った。
 慌ててサトシたちもアーチの下を潜ると、目の前には全く別の風景が広がっていた。

 目の前には平安時代の寝殿造りのような、平屋建ての日本家屋が佇んでいる。自分たちが立っている広大な敷地を誇る庭の木々は蒼く生い茂り、桜の花はふわりふわりと宙を舞い、空も果てしなく青い。どことなく良い香りが漂うのも、きっと気のせいではないのだろう。
 あまりに神秘的で幻想的な光景に、サトシたちは口々に感嘆の声をあげた。


「ここがサニワの本丸⁉︎」
「なんてファンタスティックなテイストなんだ……!」


 だが、真っ先に迎えに来るはずの刀剣男士が一人もいない。全く人の気配がしないのだ。先ほどからサニワが大声で帰還を告げるも、反応が帰って来ずに静まり返ったままである。


『皆、ただいま! たった今帰還した‼︎ 各員集合! ……変だ。すぐに誰かしらすっ飛んでくるはずだが……』
「サニワお嬢さん、さっきから何を言ってるのニャ?」
『……私の言葉が理解できないの?』


 サニワが暮らしていた世界の言葉が全く理解できないサトシたち。
 サニワが片言な喋り方なのは、今の世界と言語の形態が何もかも異なるからだ。
 ところがサニワはそれを疑問に思ったのか、考え込むように俯いてしまった。


「主さま。先ほどから調べているのですが、刀剣男士の反応や、生体反応が全く確認できません。まるで、異空間に神隠しされたような……」
「……いない?」
「まぁ良いじゃないか! 今日はとってもミラクルテイストな一日だー!」


 デントは日本家屋に向かって駆け出した。慌ててサトシたちも後を追う。早速玄関から内部へ入り、長い廊下を踏み締める度にギシギシと軋む音が鳴る。
 サニワに案内された先はチョコレート色のシックな家具で統一された執務室。その奥の扉を開けると、今度はゴシックホワイトのロココ調の家具で統一された豪華絢爛な部屋があった。


「何これ……! 凄く豪華じゃない‼︎」
「……皆、布団、慣れない。……これ、使って」
「こんにゃ立派にゃ天蓋付きのベッドで寝てたのですニャ⁉︎ さすがチャンピオンニャだけありますニャ!」
「……蚊帳? ……今、春。……でも、虫除け、使ってた」


 立派な天蓋を蚊帳呼ばわりするサニワを他所に、サトシたち一行はベッドに飛び乗った。最も大きなキングサイズのベッドなので、三人が川の字に並んで寝ても問題ない。


「やはり違和感を感じますね。私と主さまはこの本丸を調査して参ります。皆さまはこちらで待機を」
「「「行ってらっしゃ〜い……」」」


 相当疲れが溜まっていたのか、ベッドにダイブした途端にうつらうつらと微睡はじめるサトシたち。サニワは不安そうにサトシたちを眺めていたが、オーベムを連れて部屋を後にした。

 サニワの本丸には、百近い刀剣男士が在籍している。
 部隊は六名の編成で四部隊。また内番で畑や馬小屋に行っているとしても、それでも数十名以上は非番のはずなのだ。

 サニワが最初に訪れたのは厨であった。今の時間帯は夜も更けている時間帯だが、腹を空かせた遠征部隊が真っ先に向かう。昼も昼で大忙しのため、基本的に誰かが常駐している場所だ。
 ところが、厨房には誰もいなかった。設備はサニワの記憶当時のままだが、静まり返ったこの場所は、記憶とは全く異なっていた。


『場所は記憶当時のままだが、不在のせいかな。別の本丸に迷い込んだ感覚だ』
『そうですね……。やはり、違和感を感じてしまいます』
『まさかとは思うが……ここは、閉ざ(神隠し)された本丸なのか?』
『いや、それはないでしょう。この施設は主さまの本丸と完全に一致しています。想像でしか語れないので私は何とも言えませんが、刀の神域はまた別の設備で溢れているのでは?』
『霊力の供給が出来ず刀剣の姿に戻っている可能性は……』
『ですが、こんなに生活感溢れる本丸ですよ? 電気も普通に点灯しておりますし……。刀剣に戻れば、ライフラインが自動的に止められるはずです』
『刀剣男士全員の不在なんて……防衛上あり得ない。一体何が……?』


 オーベムが何か見つけたらしく、サニワたちに手招きをしていた。まさか刀剣男士を見つけたのか、オーベムのいる方向へ向かうと、周囲が光に包まれた。
 そして、ぱったりと。そこで、彼女たちの意識は途絶えた。
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