第25話
とっぷりと日が暮れ、月が頭上に昇る頃。
元・ニャースを旅の仲間に加えたサトシたちは、開けた野原で野営することになり、デントたちが夕食を調理する間、 サニワとこんのすけは篝 に必要な薪を調達している。
しかしここは森の中ではなく開けた草原であり、梢がなかなか見つからない。低木の枝を手折ろうかとも考えたが、水分が多すぎて薪にするのは不向きだろう。
はてさてどうしたものか、と顔を見合わせるこんのすけとサニワ。
すると、一匹のポケモンがふわふわと漂いながらこちらへやってきた。その背には大量の梢が乗っている。どうやら集めていた梢をくれるようだ。
滅多にない高待遇に、こんのすけは尻尾を左右に振りながら礼を述べた。
「おや、その枝をくださるのですか? ありがとうございます!」
「……痛い? 治す、いる?」
サニワが困っている時には、野生のポケモンだろうがそうでなかろうが、皆助け船を出す。それは最早旅の仲間の周知の事実であった。
森の中で道を歩けば、マメパトやミネズミ、コアルヒーたちがたくさんのきのみをサニワへプレゼントするし、うっかり縄張りに入ったとしても、サニワが一声掛ければ攻撃することはあまりない。
ズルッグが孵ったばかりの頃、無謀にも果敢に挑んだデンチュラの群れがその最たる例だ。
まるでお伽噺のプリンセスの如き光景は、もう日常茶飯事のようなもので。その類いのポケモンだろうとこんのすけは判断し、夕食へ誘った。
「皆さま、少々よろしいでしょうか」
「サニワ、どうしたんだ? そのポケモン」
「……くれた。……代わりに、夕飯、あげたい」
「オーベムか! 変わったテイストのポケモンだね」
どうやらこのオーベムは、何か人の役に立ちたいと思っているようだ。しかも、どんな願いも叶えてみせる、と告げる。
あまりにも出来の良い話に、サニワはじっとりと疑心の目でオーベムを見た。だが、全く疑う素振りを見せないサトシたちは、すぐに信じ込んでしまったようだ。
ニャースの件で身をもって知っているが、こうなって仕舞えば、自分がどう言おうと聞く耳を持たない。しかも薪を貰ったのも自分だ。
半ば諦め、サニワはオーベムの話を聞くことにした。
まず手始めに、デントはウイのみをフィラのみへ変えて欲しいとお願いした。今夜の夕食にはフィラのみが必要らしいが、デントはウイのみしかもっていないらしい。
サニワは鞄の中からフィラのみを取り出そうとした瞬間、オーベムの手から眩い光が放たれた。そのあまりの眩さに、思わず一同は目を瞑る。
そして恐る恐る目蓋を開くと、俎板の上にはフィラのみが三つ転がっていた。到底信じられない光景に、一同は驚きを隠せない。
「本当にフィラのみだ……。とてもミラクルなテイストだね!」
オーベムは照れ臭そうに頭を掻く。デントに褒められ嬉しかったようだ。
デントがオーベムに貰ったフィラのみで作ったのは、その辛さを生かした激辛カレーであった。さすがにまだ幼いキバゴやピカチュウには食べさせられないので、サニワ特製のポケモンフーズを美味しそうに頬張っている。
サトシとアイリスが火を吹きながら食べ進める中、デントとニャースは笑みを浮かべ、サニワは黙々と食べ進めていた。
「はあぁ、辛 いぃ……」
「本当子どもなんだから! フィラのみがピリッと利いてて、あたしみたいな大人にはピッタリね……‼︎」
表情を変えずに淡々とカレーを口の中へ放り込んでいくサニワ。滝の汗を流す二人よりも幼い見た目の幼女が、激辛カレーを黙々と頬張る様子にニャースは違和感を感じたのか、気遣うように問いかける。
「サニワお嬢さんは黙々と食べ進めてるニャけど、子どもには随分と辛いと思うニャ。大丈夫なのかニャ?」
「えぇ……主さまはストレスによる味覚障害を患っておりますので、問題ないかと」
「問題大アリよ‼︎」
「それって、何を食べても味を感じないってことかい? 甘いのも辛いのも?」
「フィラのみの辛味成分はカプサイシンです。この成分は辛さというよりも痛覚なので、今回はちゃんと感じている……とは思います」
「デントの料理はめちゃくちゃ美味いのに、味が感じられないなんて……」
随分あっさりと告げられた衝撃の事実に、サトシたちは声も出ない。デントに至っては大切に管理しているスプーンを地面に落としていた。ところがサニワはそれを気に留める事なく完食。両手を合わせてきちんと和歌を述べていた。
「『朝宵に 物喰ふごとに豊受 の 神の恵みを 思へ世の人』……ご馳走様、でした」
「早っ!」
「もう食べたのか⁉︎」
ぎょっとした目で一同はサニワを見つめるも、当の本人は食器の後片付けに勤しんでいる。
カレーの鍋を片付けたいのか、ルーの追加を注ぎに来ていたが、サトシとアイリスは丁重にお断りされた。
デントにも注ぎ入れたがまだまだ大量に残っているため、残りはニャースの皿に全部かけた。ニャースは顔が引き攣っていた。
「そういえば、どんな望みも叶えてくれるのよね。サニワの味覚を元に戻すことはできるの?」
「主さまの味覚障害はストレスが原因です。本丸に帰還できれば万事解決いたします! オーベムさま、本丸へ我々を移動させることは可能でしょうか?」
こんのすけの問いに、オーベムは二つ返事で頷く。まさかこんな所で帰還する機会が得られるとは願ってもなかった。
オーベムの言葉に対し、サニワの表情は無表情ながらも、その真紅の双眸はキラキラと輝いている。躊躇なくオーベムの背についていくサニワ。サトシたちも慌てて後を追いかけて行った。
元・ニャースを旅の仲間に加えたサトシたちは、開けた野原で野営することになり、デントたちが夕食を調理する間、 サニワとこんのすけは
しかしここは森の中ではなく開けた草原であり、梢がなかなか見つからない。低木の枝を手折ろうかとも考えたが、水分が多すぎて薪にするのは不向きだろう。
はてさてどうしたものか、と顔を見合わせるこんのすけとサニワ。
すると、一匹のポケモンがふわふわと漂いながらこちらへやってきた。その背には大量の梢が乗っている。どうやら集めていた梢をくれるようだ。
滅多にない高待遇に、こんのすけは尻尾を左右に振りながら礼を述べた。
「おや、その枝をくださるのですか? ありがとうございます!」
「……痛い? 治す、いる?」
サニワが困っている時には、野生のポケモンだろうがそうでなかろうが、皆助け船を出す。それは最早旅の仲間の周知の事実であった。
森の中で道を歩けば、マメパトやミネズミ、コアルヒーたちがたくさんのきのみをサニワへプレゼントするし、うっかり縄張りに入ったとしても、サニワが一声掛ければ攻撃することはあまりない。
ズルッグが孵ったばかりの頃、無謀にも果敢に挑んだデンチュラの群れがその最たる例だ。
まるでお伽噺のプリンセスの如き光景は、もう日常茶飯事のようなもので。その類いのポケモンだろうとこんのすけは判断し、夕食へ誘った。
「皆さま、少々よろしいでしょうか」
「サニワ、どうしたんだ? そのポケモン」
「……くれた。……代わりに、夕飯、あげたい」
「オーベムか! 変わったテイストのポケモンだね」
どうやらこのオーベムは、何か人の役に立ちたいと思っているようだ。しかも、どんな願いも叶えてみせる、と告げる。
あまりにも出来の良い話に、サニワはじっとりと疑心の目でオーベムを見た。だが、全く疑う素振りを見せないサトシたちは、すぐに信じ込んでしまったようだ。
ニャースの件で身をもって知っているが、こうなって仕舞えば、自分がどう言おうと聞く耳を持たない。しかも薪を貰ったのも自分だ。
半ば諦め、サニワはオーベムの話を聞くことにした。
まず手始めに、デントはウイのみをフィラのみへ変えて欲しいとお願いした。今夜の夕食にはフィラのみが必要らしいが、デントはウイのみしかもっていないらしい。
サニワは鞄の中からフィラのみを取り出そうとした瞬間、オーベムの手から眩い光が放たれた。そのあまりの眩さに、思わず一同は目を瞑る。
そして恐る恐る目蓋を開くと、俎板の上にはフィラのみが三つ転がっていた。到底信じられない光景に、一同は驚きを隠せない。
「本当にフィラのみだ……。とてもミラクルなテイストだね!」
オーベムは照れ臭そうに頭を掻く。デントに褒められ嬉しかったようだ。
デントがオーベムに貰ったフィラのみで作ったのは、その辛さを生かした激辛カレーであった。さすがにまだ幼いキバゴやピカチュウには食べさせられないので、サニワ特製のポケモンフーズを美味しそうに頬張っている。
サトシとアイリスが火を吹きながら食べ進める中、デントとニャースは笑みを浮かべ、サニワは黙々と食べ進めていた。
「はあぁ、
「本当子どもなんだから! フィラのみがピリッと利いてて、あたしみたいな大人にはピッタリね……‼︎」
表情を変えずに淡々とカレーを口の中へ放り込んでいくサニワ。滝の汗を流す二人よりも幼い見た目の幼女が、激辛カレーを黙々と頬張る様子にニャースは違和感を感じたのか、気遣うように問いかける。
「サニワお嬢さんは黙々と食べ進めてるニャけど、子どもには随分と辛いと思うニャ。大丈夫なのかニャ?」
「えぇ……主さまはストレスによる味覚障害を患っておりますので、問題ないかと」
「問題大アリよ‼︎」
「それって、何を食べても味を感じないってことかい? 甘いのも辛いのも?」
「フィラのみの辛味成分はカプサイシンです。この成分は辛さというよりも痛覚なので、今回はちゃんと感じている……とは思います」
「デントの料理はめちゃくちゃ美味いのに、味が感じられないなんて……」
随分あっさりと告げられた衝撃の事実に、サトシたちは声も出ない。デントに至っては大切に管理しているスプーンを地面に落としていた。ところがサニワはそれを気に留める事なく完食。両手を合わせてきちんと和歌を述べていた。
「『朝宵に 物喰ふごとに
「早っ!」
「もう食べたのか⁉︎」
ぎょっとした目で一同はサニワを見つめるも、当の本人は食器の後片付けに勤しんでいる。
カレーの鍋を片付けたいのか、ルーの追加を注ぎに来ていたが、サトシとアイリスは丁重にお断りされた。
デントにも注ぎ入れたがまだまだ大量に残っているため、残りはニャースの皿に全部かけた。ニャースは顔が引き攣っていた。
「そういえば、どんな望みも叶えてくれるのよね。サニワの味覚を元に戻すことはできるの?」
「主さまの味覚障害はストレスが原因です。本丸に帰還できれば万事解決いたします! オーベムさま、本丸へ我々を移動させることは可能でしょうか?」
こんのすけの問いに、オーベムは二つ返事で頷く。まさかこんな所で帰還する機会が得られるとは願ってもなかった。
オーベムの言葉に対し、サニワの表情は無表情ながらも、その真紅の双眸はキラキラと輝いている。躊躇なくオーベムの背についていくサニワ。サトシたちも慌てて後を追いかけて行った。