第24話

「下働きから、ニャーにできる事は何でもするのニャ!」
「……聞きたい、いっぱい。……良い?」
「もちろんニャ! ニャーにわかる事なら何だって応えるのニャ!」
「……ロケット団、アジト……場所、どこ? ……答えれる、はず」
「にゃあ……」


 まさかその質問が飛んでくるとは考えてもいなかったニャースは、晴れやかな笑顔から一転し、途端に表情に陰りが出た。
 しかし、無表情で見つめるサニワの放つプレッシャーに耐えられず、物の数分でアジトの場所を暴露する。ニャースから場所を聞き出したサニワは早速、ジョウト地方のチャンピオンでありながら、ポケモンGメンも兼任するワタルへと連絡を取った。


「おや、サニワちゃんじゃないか! 珍しいね、どうしたんだ?」
「……ロケット団の場所……タマムシシティ、ゲームセンター、ポスターの下……スイッチ、ある。……嘘かも、だけど」
「は? 嘘だろう⁉︎ 俺が必死になっても手に入らない情報、一体どうやって……‼︎」
「……」


 サニワは無表情でワタルの目を見つめる。自分は有益な情報を渡してやったんだから、そっちも何か収穫を寄越せ。彼女は無言でそう訴えていた。
 どうやらワタルの方は、全く収穫がなかったらしい。頭を掻きながら苦笑いを湛えている。


「……ごめんね、サニワちゃんの望むような情報がまだ入ってないんだ」
「……残念」


 サニワの淡々とした応答に、感情の読めない真紅の双眸。それらは、画面越しにいるワタルだけでなく、周囲で会話を眺めるサトシたちですらも凍てつかせる。
 慌ててワタルは弁解しようとするも、サニワの冷淡な表情が変わることはなく、更に温度を下げていく。


「お、俺も全力を尽くしているんだよ! でもほら、ダンデの事もあるしさ! 中々そういう情報が手に入りづらくって、その……別に忘れていたわけじゃない!」
「……そう。……こっち、シロナさん、連絡する。……じゃあ、切る」


 サニワが欲する情報は、ワタルよりもシロナの方が適任だ。サニワの言葉は、遠回しにそう告げている。実質的な戦力外通告に対し、ワタルはガックリと頭を垂れた。
 彼がリアクションを取っている間にも、サニワは躊躇なく連絡を切る。「あっちょっ」という声がサニワの耳には届いていたが黙殺した。


「……じゃあ、つぎ」
「ま、まだあるのニャ⁉︎」
「……聞きたい、たくさん。……でも、これで、終わり。……嘘、言う、許さない」


 サニワはニャースをじっと見詰める。もし虚偽を口にしたならば、自分の身の安全は保証されない。危機を感じ取ったニャースはゴクリ、と固唾を呑んだ。


「……団員、着てた服。……あれ、何?」
「ニャ? そんな簡単な事で良いのニャ?」


 想像していた以上に答え易い簡単な内容だった。先ほどのアジトの場所よりも話しやすい。安堵の息を隠す素振りを見せず堂々と吐いたニャースは、ロケット団のロゴマークの由来をつらつらと語る。
 後者がサニワの本命である質問であるとは知らずに。


「一度、幹部のアポロ様にお尋ねした事があるニャ! 確か、『これは異世界の文字で、ロケットの頭文字を表すものだ』と仰っていたニャ!」


 やはり、ロケット団の服の柄は大文字のRで間違いないらしい。確信を得たサニワはこんのすけへ目配せし、更に核心へ迫ろうとするも、これ以上はニャースの与り知らぬところらしい。
 しかしながら、これはかなりの収穫である。少なからずも、異世界の悪の組織がサニワの世界と繋がりがあるという証拠なのだから。

 旅の道中、ニャースは皆に気に入ってもらおうと、必死に褒め殺す。しかし胡麻擂りする様は、ピカチュウとサニワとこんのすけの警戒心を深めるだけであった。


「いや〜、さすが優秀なトレーナー様とポケモンたちなのですニャア! お嬢様の連れているキバゴは実に可愛いし!」
「お嬢様……?」
「ソムリエさんの作ったスープは、それはそれは美味しかったし!」
「それはどうも」


 しかし媚びるような言い方に、ピカチュウの我慢の限界が遂に訪れた。アイアンテールをニャースにお見舞いすると、見事脳天に直撃する。
 一気に戦闘不能状態へ追い込まれたニャースに、鞄から取り出したげんきのかけらを口の中へ放り込みつつ、サニワはピカチュウへ微妙に逸れたお説教を諭した。


「……ピカチュウ。……捕虜、虐める、だめ」
「ニャーは捕虜扱いですのニャ⁉︎」
「因果応報というか自業自得ですよね」


 サニワもこんのすけも職業柄、どうしてもニャースを信頼することができない。二人はニャースの方すらも向かずに淡々と毒舌を吐くので、事実をズバズバと突きつけられた化け猫は思わず、うっと身動ぎした。
 それでも捕虜扱いに納得のいかないニャースはブーイングしたのだが。


「でもニャーはもうロケット団から足を洗ったのニャ!」
『別に扱いは捕虜でもなくて構わんのだが……その場合、法の下で認められる庇護対象から外れる。安心しろ、別に強制収容所へ送ろうなどといいう考えではないよ』


 淡々と元の世界の言葉で語るサニワの瞳は、獲物を捕らえる猛禽類の如く爛々と輝いていた。だがその表情はあまりにも酷薄で、一切の暖かみも感じられない。
 ニャースはサニワから得体の知れない身の危険を感じ、ぞくりと粟肌を立てた。
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