第23話

 そして、翌日。
 清々しいほどの晴天の中、サニワとアイリスはバトルフィールドで向かい合っていた。観客席のボルテージは最高潮に達し、昨日とは比べ物にならないほど盛り上がっている。

 デントとカベルネ、ケニヤンは、昨日と同じ場所でフィールドを見つめている。ポケモンソムリエ対決を行うからだ。
 ベル、ルークは撮影ポジションを探して機材を片手に走り回っており、サトシはそれを見つめながら、どっちが勝つかピカチュウと話している。そしてラングレーは少し離れた場所で壁に凭れかかっていた。


「さぁ! 決勝スタートです! ハロンタウン出身、サニワ選手対、竜の里出身のアイリス選手!」
「……転送装置があったまどろみの森に一番近い場所がハロンタウンってだけで、実際はハロンタウン出身じゃないんですけどね。この世界には実在しない場所ですから、致し方ないのですが」


 こんのすけがジトッとした目で実況者を見つめる。幸い、彼の呟きには誰も気づかず、何も反応しなかった。

 両者は早速バトルフィールドへポケモンを送り出す。アイリスはドリュウズを、サニワはバンギラスを繰り出した。
 ラングレーはドラゴンタイプのキバゴをバトルに出さないのに不満がっていたが、アイリスのドリュウズは、彼女のポケモンの中でも一番の実力者だ。彼女の指示を従うようになった今、チャンピオンであるサニワに対抗できるのはドリュウズしかいないと確信していた。
 ドリュウズとバンギラスの雄叫びが木霊し合う。途端にバトルフィールドは砂嵐に覆われた。ドリュウズは地面タイプ、バンギラスは岩タイプを持っているため互いに砂嵐をものともしない。


「ドリュウズ! 気合い入れて行くよ! ドリルライナー‼︎」
「ストーンエッジ」


 高速回転して突進していくドリュウズ。しかし地中から突き出た岩石により軌道が逸れ、ドリュウズの身体は空中へ跳ね飛ばされた。
 しかし機転を利かせたアイリスは、効果抜群の気合玉を放つよう指示する。ところが技は掠っただけで、大したダメージには至っていないようだ。


「メタルクローよ!」
「受け止めて! 噛み砕く!」


 鋼鉄の爪が襲い来るも、バンギラスは物ともせずに両手で受け止め無力化すると、その鋭利な牙がドリュウズの腹部に突き立てられる。鋼タイプを持つポケモンは身体が硬い金属でできている事が多いが、ドリュウズの胴は異なっていた。
 攻撃を急所に食らったドリュウズは、フラフラと覚束ない足取りながらも何とか気力で立ち上がる。対するバンギラスは、確りと二本足で立ち上がっていた。
 急所に技を食らい、かなりのダメージを負ったドリュウズ。このままでは、屠られる。彼のトレーナーは、一瞬被食者の恐怖に怯えるものの、すぐに気を取り直した。


「ドリュウズ! 穴を掘るよ!」


 地中に潜って、背後から効果抜群の技で攻撃する。まっすぐ向かって行けば、サトシのように幻影で翻弄され、掌の上で転がされて終わりだ。
 反撃するにはこれしかないと考えたアイリスは、地中に身を隠すよう指示を出す。しかしそれは誤りだった。


「地震‼︎」


 強烈な衝撃が、バトルフィールド全体を襲来し、大量の土煙が舞い上がる。
 アイリスは思わず地面にしゃがみ込み、バトルを観戦していたサトシやデントは観客席の壁にしがみつくのがやっとだった。地中に潜伏しているドリュウズは、彼らよりも強い衝撃が直撃していることだろう。
 土煙が晴れると、そこにはうつ伏せになって倒れているドリュウズの姿があった。


「ドリュウズ戦闘不能! バンギラスの勝ち! よって勝者、サニワ選手‼︎」
「熱い戦いが繰り広げられたドンバトル! その頂点に立ったのはサニワ選手です! 準優勝のアイリス選手にも、惜しみない拍手が送られます‼︎」
「決勝戦にふさわしい素晴らしいバトルだった! 二人とも天晴れだったりする‼︎」


 熱い歓声がバトル会場を包み込む中、奮戦したドリュウズを労るアイリスに、そっとサニワが近づいた。
 アイリスが立ち上がると、静かに手を差し出すサニワ。交わされる握手に、会場の熱気は最高潮にまで跳ね上がった。


「……戦えて、嬉しい……楽しかった、いっぱい。……バトル、ありがと」
「うん! あたしも、とっても楽しかった!」


 その後、表彰台に登壇するサニワ。優勝賞品である7枚の羽フルコンプセットが手渡される。
 多数のマイクが、それを受け取ったサニワへと向けられる。記者会見には慣れているサニワは、淡々と今の感情を吐露した。


「……優勝、できた。応援、の、おかげ。……ありがと」
「現在はこのイッシュ地方で旅をされているそうですが、その羽はどうされる予定ですか?」
「……お世話、なった人、送る。……喜んで、欲しい、から。……あと……握手、サイン、嬉しい。でも、他の人、迷惑……気を、つけて」
「見事に優勝し、王者の貫禄を見せつけたサニワ選手に、もう一度盛大な拍手を‼︎」


 手を振って、ファンサービスに応えるサニワ。途中一悶着あったものの、ドンバトルは無事幕を下ろした。

 日が暮れ、空が茜色に染まる頃。
 各々のライバルが別れを告げ、それぞれ一人、また一人と、次の目的へ向かい立ち去っていく。

 この地方に来てまだ間もないサニワには特定のライバルと呼べる存在がいない。会話を交わす様子を、どこか寂しげに見つめていた。
 そんな中、聞き覚えのある声が彼女の尖った耳に届く。声の主はラングレーであった。


「アンタ、ちょっとは気をつけなよ。ただでさえ変な男を引っ掛けやすいんだから。また面倒な事に巻き込まれるのはごめんだからね!」
「……ありがと。……ラングレーさん、気を、つけて」
「アンタ、笑ったら中々可愛いんじゃない? まああたしには敵わないけど! じゃね、バーイ」


 サニワの帽子を取ると、わしゃわしゃと乱雑に撫でるラングレー。だがすぐに帽子を被らせると、スタスタと立ち去っていった。
3/3ページ
スキ