第22話
デントが部屋に戻ると、サニワは白地の浴衣を身に纏い、あちらの世界の歌を口ずさみながら、サーナイトに甲斐甲斐しく世話を焼かれていた。言語は理解できないが、この語るような旋律はデントも何度か耳に入れたことがある。
ベッドに寝転び微睡むサトシや、イシズマイの岩の修復作業を興味津々に眺めているアイリスは全く気づいていないが、ラングレーの話していた通り、サニワの首や手首には掴まれた痕跡がいまだに残っていた。
デントはサニワの向かいに腰を下ろすと紅茶を淹れ、夜のティータイムに誘う。しかし彼女が了承の意を示す前に邪魔が入った。
「サニワ、一緒に紅茶でも飲まないかい?」
「優雅に紅茶を楽しむ余裕があるなんて、頑張る必要はないってテイストね。明日のバトルで証明されるわ! デントのテイスティングは、完全に間違ってるってね!」
「あ、は……はぁ」
「……誰」
招かれざる人物の登場に、サニワは小首を傾げた。傍から見ればいつもと変わらない無表情ではあったものの、サニワのポケモンたちが一気に警戒心を強める。
彼女の名はカベルネ。ポケモンソムリエCクラスの資格を所持しており、以前デントから受けたテイスティング結果が散々だったため、彼を見返すためにポケモンソムリエになった経歴を持つ。
ヤグルマの森を抜けた先のフレンドリィショップの中で偶然出会ったらしく、サニワとはこれが初対面だ。
カベルネは警戒するサニワのポケモンたちを気にも留めず、そのままデントへ憎まれ口を叩く。仲間思いのサニワからの印象は非常に悪かった。
「貴方は恰好悪くて惨めなテイストで負ける……私のニューテイスティングタイムがそう導き出したわ!」
「すみませんが、お引き取り願えますか」
舌足らずな喋り方のサニワの口から放たれたとは思えないほど、流暢な文言。これには言われたカベルネだけでなく、デントやアイリスもかなり驚いていた。
「サニワ、ぺらぺら話せたの⁉ いつも片言なのに‼」
「……鬱陶しい、ファン、マスコミ、多かった。……だから、練習した。いっぱい」
「そうだったんだ……。チャンピオンも大変だね」
「はぁあ⁉ 鬱陶しいですって⁉ アンタも私のテイスティングが間違ってるって言うのね⁉ 良いわ、バトルで証明してやろうじゃないの!」
意気揚々と宣戦布告したカベルネにデントが苦言を呈そうとするも、サニワは手で制し、面倒そうに一つのボールを手に取った。
宣戦布告を受けるらしく、デントに審判を依頼する。
サニワとカベルネはポケモンセンターに併設されているバトルフィールドへ移動。心配そうにサニワを見詰めるデント、アイリスも後を追う。ピカチュウに叩き起こされたサトシも慌ててベッドから跳ね起きてすっ飛んで行った。
早速バトルフィールドに立ったカベルネとサニワは、二対二のルールでそれぞれ自分のポケモンを繰り出す。カベルネは水タイプのフタチマル、サニワは炎タイプのキュウコンだ。
てっきり草タイプのエルフーンやビリジオンを繰り出すと思っていたサトシたちは予想が外れ、かなり驚いている。
「あら、水タイプのフタチマルに炎タイプのキュウコンを出すなんて! 貴女の腕は、コルクの栓を抜く前に腐っちゃったのかしら?」
「……相性不利……だけど、問題ない。……貴女の実力、その程度」
「何ですって⁉ 相手の実力を見誤るだなんて、腕だけじゃなくて目も腐ってるのね! フタチマル、水の波動よ‼」
サニワはカベルネの挑発に挑発で返す。まんまと挑発に乗っかったカベルネはフタチマルへ水の波動の指示を飛ばした。しかしキュウコンは、効果抜群の技も難なく受け止める。特性の日照りで日差しが強い天候となり、水技の威力が低下したのだ。
そのまま悪巧みで特攻をがんがん積んでいくキュウコンへ、フタチマルがシェルブレードで畳みかける。それをひらりと躱すと、キュウコンは至近距離でソーラービームを放った。
まともに受け身を取ることもできず、フタチマルの急所に直撃。フタチマルは目を回して倒れた。
ソーラービームは通常ならエネルギーをチャージする時間が必要な大技だが、天候が日差しが強い状態だとその時間を短縮できる。
カベルネは華麗にコンボを決められるとは思わなかったのか、悔しそうに地団駄を踏んだ。観戦しているサトシとアイリス、審判をしているデントはサニワの実力に嗟嘆する。
「凄い……! 最初から見越して、キュウコンを選んだんだ……‼」
「これがガラルチャンピオンの実力なのか……」
「ポケモンのレベルに相当な実力差があるだけじゃない。サニワの采配もかなりのものだよ。まだまだ熟成途中なカベルネにとって、かなり苦味が強いテイストだ」
「そのテイスティングが間違ってるって言いたいのよ! バトルはまだ終わってない‼ 行くのよ、マイ・ヴィンテージ! メブキジカ‼」
カベルネが繰り出したのはメブキジカ。対するサニワはそのままキュウコンで攻撃を続けるのかと思いきや、交代させるつもりらしく、キュウコンをボールへ戻す。
サニワがバトルフィールドへ送り出したのは氷・虫タイプのモスノウだ。まさか氷タイプが出てくると思わなかったのか、アイリスとキバゴは寒さで凍えた。
「さ、寒い〜!」
「……ごめん。でも、すぐ終わる。……さっきみたいに」
「そう簡単に甘い味を楽しめると思わないことね! メブキジカ、ウッドホーン‼」
メブキジカは角を白銀に輝かせて突撃していく。カベルネのメブキジカの特性は草食ではなく葉緑素だ。日差しの強い状態では素早さが上がる。
攻撃を食らったモスノウは吹っ飛ばされた。しかし戦意を喪失した訳ではなく、すぐに態勢を立て直す。
「私のメブキジカの特性は葉緑素なのよ。貴女はキュウコンの特性で華やかな味わいを堪能していたようだけど、その奥深さは扱いきれていないみたいね! メガホーンよ‼」
「蝶の舞」
ところが今度は舞うようにひらりと攻撃を避けられ、距離を取られた。負けじと突撃を繰り返すメブキジカに、モスノウも蝶の舞で難なく避けていく。
このままでは天候の恩恵も受けられない。焦ったカベルネは、効果抜群の格闘技でけりをつけようと動いた。
「メブキジカ! 跳び蹴り‼」
「躱して冷凍ビーム」
跳び蹴りを避けられ、自傷ダメージに苦しむメブキジカ。その隙に冷気の光線がメブキジカ目掛けて放たれ、情け容赦なく巨大な氷像と化す。
バランスが崩れてメブキジカの身体が地面に倒れると、その衝撃で氷も砕け散る。その目は渦を巻いていた。
悔しそうにメブキジカをボールへ戻すカベルネへ、すたすたと歩み寄るサニワの脚には迷いがない。真っ白な紅葉の手が差し出したのは、一枚の技マシンだった。
「……これ、あげる」
「それって……技マシン?」
「……スマートホーン。鋼タイプの、技マシン。……跳び蹴り、外れる、痛い。だけど……この技、外れない」
「こ……これで勝ったなんて思わないことね‼ お礼なんて言わないんだから〜!」
カベルネは奪い取るように技マシンを受け取ると、逃げるように立ち去った。その素早さは疾風の如し。
嵐の如き騒がしさに、更に疲労を感じ取ったサニワの体力はもう限界に近い。電池切れを起こす前に辛うじて部屋まで戻ると、ベッドへダイブ。そのまま瞼を閉じた。
ベッドに寝転び微睡むサトシや、イシズマイの岩の修復作業を興味津々に眺めているアイリスは全く気づいていないが、ラングレーの話していた通り、サニワの首や手首には掴まれた痕跡がいまだに残っていた。
デントはサニワの向かいに腰を下ろすと紅茶を淹れ、夜のティータイムに誘う。しかし彼女が了承の意を示す前に邪魔が入った。
「サニワ、一緒に紅茶でも飲まないかい?」
「優雅に紅茶を楽しむ余裕があるなんて、頑張る必要はないってテイストね。明日のバトルで証明されるわ! デントのテイスティングは、完全に間違ってるってね!」
「あ、は……はぁ」
「……誰」
招かれざる人物の登場に、サニワは小首を傾げた。傍から見ればいつもと変わらない無表情ではあったものの、サニワのポケモンたちが一気に警戒心を強める。
彼女の名はカベルネ。ポケモンソムリエCクラスの資格を所持しており、以前デントから受けたテイスティング結果が散々だったため、彼を見返すためにポケモンソムリエになった経歴を持つ。
ヤグルマの森を抜けた先のフレンドリィショップの中で偶然出会ったらしく、サニワとはこれが初対面だ。
カベルネは警戒するサニワのポケモンたちを気にも留めず、そのままデントへ憎まれ口を叩く。仲間思いのサニワからの印象は非常に悪かった。
「貴方は恰好悪くて惨めなテイストで負ける……私のニューテイスティングタイムがそう導き出したわ!」
「すみませんが、お引き取り願えますか」
舌足らずな喋り方のサニワの口から放たれたとは思えないほど、流暢な文言。これには言われたカベルネだけでなく、デントやアイリスもかなり驚いていた。
「サニワ、ぺらぺら話せたの⁉ いつも片言なのに‼」
「……鬱陶しい、ファン、マスコミ、多かった。……だから、練習した。いっぱい」
「そうだったんだ……。チャンピオンも大変だね」
「はぁあ⁉ 鬱陶しいですって⁉ アンタも私のテイスティングが間違ってるって言うのね⁉ 良いわ、バトルで証明してやろうじゃないの!」
意気揚々と宣戦布告したカベルネにデントが苦言を呈そうとするも、サニワは手で制し、面倒そうに一つのボールを手に取った。
宣戦布告を受けるらしく、デントに審判を依頼する。
サニワとカベルネはポケモンセンターに併設されているバトルフィールドへ移動。心配そうにサニワを見詰めるデント、アイリスも後を追う。ピカチュウに叩き起こされたサトシも慌ててベッドから跳ね起きてすっ飛んで行った。
早速バトルフィールドに立ったカベルネとサニワは、二対二のルールでそれぞれ自分のポケモンを繰り出す。カベルネは水タイプのフタチマル、サニワは炎タイプのキュウコンだ。
てっきり草タイプのエルフーンやビリジオンを繰り出すと思っていたサトシたちは予想が外れ、かなり驚いている。
「あら、水タイプのフタチマルに炎タイプのキュウコンを出すなんて! 貴女の腕は、コルクの栓を抜く前に腐っちゃったのかしら?」
「……相性不利……だけど、問題ない。……貴女の実力、その程度」
「何ですって⁉ 相手の実力を見誤るだなんて、腕だけじゃなくて目も腐ってるのね! フタチマル、水の波動よ‼」
サニワはカベルネの挑発に挑発で返す。まんまと挑発に乗っかったカベルネはフタチマルへ水の波動の指示を飛ばした。しかしキュウコンは、効果抜群の技も難なく受け止める。特性の日照りで日差しが強い天候となり、水技の威力が低下したのだ。
そのまま悪巧みで特攻をがんがん積んでいくキュウコンへ、フタチマルがシェルブレードで畳みかける。それをひらりと躱すと、キュウコンは至近距離でソーラービームを放った。
まともに受け身を取ることもできず、フタチマルの急所に直撃。フタチマルは目を回して倒れた。
ソーラービームは通常ならエネルギーをチャージする時間が必要な大技だが、天候が日差しが強い状態だとその時間を短縮できる。
カベルネは華麗にコンボを決められるとは思わなかったのか、悔しそうに地団駄を踏んだ。観戦しているサトシとアイリス、審判をしているデントはサニワの実力に嗟嘆する。
「凄い……! 最初から見越して、キュウコンを選んだんだ……‼」
「これがガラルチャンピオンの実力なのか……」
「ポケモンのレベルに相当な実力差があるだけじゃない。サニワの采配もかなりのものだよ。まだまだ熟成途中なカベルネにとって、かなり苦味が強いテイストだ」
「そのテイスティングが間違ってるって言いたいのよ! バトルはまだ終わってない‼ 行くのよ、マイ・ヴィンテージ! メブキジカ‼」
カベルネが繰り出したのはメブキジカ。対するサニワはそのままキュウコンで攻撃を続けるのかと思いきや、交代させるつもりらしく、キュウコンをボールへ戻す。
サニワがバトルフィールドへ送り出したのは氷・虫タイプのモスノウだ。まさか氷タイプが出てくると思わなかったのか、アイリスとキバゴは寒さで凍えた。
「さ、寒い〜!」
「……ごめん。でも、すぐ終わる。……さっきみたいに」
「そう簡単に甘い味を楽しめると思わないことね! メブキジカ、ウッドホーン‼」
メブキジカは角を白銀に輝かせて突撃していく。カベルネのメブキジカの特性は草食ではなく葉緑素だ。日差しの強い状態では素早さが上がる。
攻撃を食らったモスノウは吹っ飛ばされた。しかし戦意を喪失した訳ではなく、すぐに態勢を立て直す。
「私のメブキジカの特性は葉緑素なのよ。貴女はキュウコンの特性で華やかな味わいを堪能していたようだけど、その奥深さは扱いきれていないみたいね! メガホーンよ‼」
「蝶の舞」
ところが今度は舞うようにひらりと攻撃を避けられ、距離を取られた。負けじと突撃を繰り返すメブキジカに、モスノウも蝶の舞で難なく避けていく。
このままでは天候の恩恵も受けられない。焦ったカベルネは、効果抜群の格闘技でけりをつけようと動いた。
「メブキジカ! 跳び蹴り‼」
「躱して冷凍ビーム」
跳び蹴りを避けられ、自傷ダメージに苦しむメブキジカ。その隙に冷気の光線がメブキジカ目掛けて放たれ、情け容赦なく巨大な氷像と化す。
バランスが崩れてメブキジカの身体が地面に倒れると、その衝撃で氷も砕け散る。その目は渦を巻いていた。
悔しそうにメブキジカをボールへ戻すカベルネへ、すたすたと歩み寄るサニワの脚には迷いがない。真っ白な紅葉の手が差し出したのは、一枚の技マシンだった。
「……これ、あげる」
「それって……技マシン?」
「……スマートホーン。鋼タイプの、技マシン。……跳び蹴り、外れる、痛い。だけど……この技、外れない」
「こ……これで勝ったなんて思わないことね‼ お礼なんて言わないんだから〜!」
カベルネは奪い取るように技マシンを受け取ると、逃げるように立ち去った。その素早さは疾風の如し。
嵐の如き騒がしさに、更に疲労を感じ取ったサニワの体力はもう限界に近い。電池切れを起こす前に辛うじて部屋まで戻ると、ベッドへダイブ。そのまま瞼を閉じた。