第22話

 男の身柄をジュンサーに引き渡し、事情聴取を受けたシューティ。事情聴取が終わるその頃には、既に日が暮れていた。
 ライモンタウンのポケモンセンターを出ようとした時、鈴を転がすような声が彼を引き留める。


「……待って、シューティー」
「何ですか」
「……ありがと」
「用はそれだけですか」


 ぴしゃりとサニワの言葉を遮ると、面倒そうに背を向け、扉へ向け進むシューティ。サニワは寂しそうに、小さく耳を垂らした。


「……今日の事、サトシたち、黙ってて」
「別に構いませんよ。それじゃ、僕はこれで」
「……気を、つけて」
「それを言うならこっちのセリフですよ、全く」


 振り返らずに手を振るシューティ。サニワは遠ざかる彼の背を、見えなくなるまでじっと見つめていた。

 その夜。
 サトシたちは、ポケモンセンターで夕食を頬張っていた。バイキング形式で、各々好きな料理を皿に盛り付けている。だがそこにはサニワの姿はない。
 同じテーブルに着いているのは、同じトーナメントの参加者であるケニヤンだ。ルークは夕飯そっちのけでカメラを回し続け、ベルは彼のゾロアを追いかけている。

 ベルとキバゴの引っ張り合いで腰を打ったアイリスに近づく一人の影。ラングレーだ。呆れた視線でアイリスを射抜くも、今回の目的は彼女ではないらしい。


「ねぇ、アイリスの子ども!」
「それを言うなら子どものアイリスでしょ!」
「あのガラルチャンピオン……サニワとか言ってたっけ。どうしたのよ」
「あぁ、何か先にシャワー浴びてるーって言ってたぜ」


 口にパスタを入れたままサトシが答える。正直聞き取りづらいが、ラングレーは理解できたらしい。
 そりゃ、あんな事があったら食欲も失せるだろうね。そう呟いたつもりが、野生児のアイリスにはバッチリと聞こえていた。


「あんな事って……サニワに何かあったの⁉︎」
「ご飯時にするような話じゃないわ。それにあの子に口止めされてるもの。直接本人に聞けば?」
「何ですって⁉︎」
「まぁまぁアイリス、落ち着いて。……ラングレー、僕に話を聞かせてくれるかな。もちろん、場所を変えてね」


 ラングレーの視線が宙を泳ぐ。正直な所、話して良いか迷っていた。
 だが、デントという人物は何だかんだ言って女の扱いには長けている優男だ。それに本人から口止めされてはいるが、秘密にするより打ち明けた方が良い。それが異性なら、他人から伝えた方が傷も少なく済むだろう。
 そう判断したラングレーは、デントを連れて人気の少ない場所へ移動した。

 デントたちが訪れたのは、ポケモンセンターの裏。鬱蒼と木々が茂っているこの場所なら、マスコミも人も来ないだろう。
 ラングレーはデントの向かいに立つと、背後の木に体を預けた。そんな彼女を、デントの鋭い目が射抜く。


「……単刀直入に聞くよ。サニワに、一体何があったんだい」
「あの子、頭のおかしいスタッフに乱暴されそうになってたのよ。バトルが終わって全員集合した時、あたしもあの子もいなかったでしょ? そん時ジュンサーさんに事情聴取されてたってわけ」
「な、何だって⁉︎」
「馬鹿! 声がデカい!」


 咄嗟にラングレーが指を口元に当てると、デントは慌てて口を噤む。幸い周囲に人はおらず、聞かれなかったようだ。
 だが相当ショックだったようで、デントの顔には血の気がなく真っ白だった。そんな彼に追い討ちをかけるかの如く、ラングレーは話を続ける。


「……まさか、そんな事が」
「未遂で終わったから安心しなよ。それにあの変態ロリコン野郎には、あたしのツンベアーの岩砕きをお見舞いしてやったから‼︎ ……でも、上の服はビリビリに破けてたし、胸も首も、くっきりと手の痕が残ってた。それに、殴られて口が切れてたわ。相当怖かったろうね」
「じゃあ、化けたゾロアを追いかけて転んだって言ったのは……」
「嘘よそれ。……まぁ、あんまり心配かけたくないっていうのが本音じゃない? あたしも口止めされたし。でも話した相手がアンタで良かったよ。サトシは論外だし、子どものアイリスだったら絶対に騒ぎ立てるに違いないからね」


 ぶっきらぼうに言い放つと、ラングレーはキャスケットを深く被ると静かに立ち去る。デントは呆然と立ち竦んでいたが、意識を取り戻すと慌てて走り去った。
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