第20話

 その夜。アイリスとドリュウズは、一緒の布団に潜り込んでいた。閉じこもったままのドリュウズに、アイリスは語りかける。


「思い出さない? 山籠りした時の事。毎日毎日技を磨いて、ヘトヘトになって眠ったっけ」


 アイリスの声にドリュウズは反応せず、閉じこもったままだ。気にせず彼女は言葉を続ける。
 そんな中、アイリスは思うところがあったのだろう。ドリュウズの気持ちに気づいた彼女はドリュウズに背を向けた。


「もしかして、あのバトルの時、ドリュウズは最初の一撃で勝てる相手じゃあないってわかってたんじゃ……。それなのに、アタシ……」


 やっと気づけた、ドリュウズの気持ち。
 アイリスの瞳には大粒の涙が浮かんでおり、声も涙を纏うものになっていた。だが、それでも彼女は言葉を続ける。

 ドリュウズの脳裏には、彼女と共に過ごした日々が映し出されていた。
 負けた自分を励ます姿。自分の好物である、林檎を差し出す姿。太陽のような眩い笑顔を浮かべる姿。そして、今度こそ自分に負けないように、必死に特訓をする姿。
 一生懸命な彼女に応えたい。そう思ったドリュウズは、起こさないようにそっと布団から抜け出た。だがそれに気づいたアイリスは、こっそりと彼の後を追う。

 ドリュウズが練習していたのは気合い玉だ。両手に精神を集中させるも、途中で崩れてしまった。
 それを見たアイリスは、一緒に練習をさせてくれと懇願する。ドリュウズは構わないと頷きを返すが、彼女が抱きしめようとした途端、そっぽを向いて拒否した。そこまで心を開いていないからだ。

 気合い玉を練習するドリュウズは、アイリスの指示を素直に聞いていた。
 この調子だと、きっとすぐに完成するだろう。技の完成を目標に、力を合わせて特訓する彼らを木陰から見守っていたサニワは、人知れず優しげな微笑みを浮かべていた。

 ドリュウズが無事気合い玉を完成させたのは、朝日が木々を照らす頃。念願の技の完成に、アイリスはドリュウズを抱きしめた。


「アイリス、ドリュウズ。お腹空いただろ?」
「朝ご飯の用意、出来てるよ!」
「……林檎、デザート、作った。……食べて」
「うわぁ、最高!」


 思わず顔が綻ぶアイリス。だが、サトシたちが席へ戻ると、皿の上は全て空っぽになっていた。昨日バトルしたラングレーが、全て食べ尽くしてしまったのだ。
 まさか、四人分の食事を全て食べてしまったのか。サトシはガックリと肩を落とし、サニワは無表情ながらも衝撃を受けていた。


「お、オレたちの朝飯が……」
「えー? 貴方たちの朝ご飯だったの? 良いじゃない、また作れば」


 悪びれもせず、ラングレーはパステルブルーのハンカチで口を拭く。そんな彼女に、アイリスは再びバトルを申し込む。
 ラングレーも何かを感じ取ったのだろうか。二つ返事で了承し、二人は昨日と同じ開けた場所へ移動した。

 ツンベアーの切り裂くと、ドリュウズのメタルクローがぶつかり合う。力はツンベアーの方が勝っているのか、ドリュウズは投げ飛ばされるが受け身を取った。氷柱落としを穴を掘るで回避して反撃し、気合い玉を放つ。そしてドリルライナーで追撃した。

 昨日はバトルというよりも、ドリュウズはただ怒りに任せて暴れているようだった。だが今朝は違う。ドリュウズとアイリスの呼吸はぴったりと合っていて、ポケモンバトルらしいものになっていた。
 最後はドリルライナーと岩砕きの一騎打ち。双方ともに崩れ落ち、今回の勝負は引き分けに終わった。


「フン! ドラゴンタイプじゃなきゃ、負けたって痛くも痒くもないわ!」


 ラングレーは強がっている。サニワはそう思った。声に悔しさが隠し切れていなかったからだ。


「君! 今度はもっと美味しい朝食を御馳走してね。……中でも、林檎のデザートは中々だったわよ」


 嵐のように立ち去っていくラングレー。昨日と今日でアイリスと勝負を引き受けた様子を見る限り、ただ言葉が厳しいだけなのかも、とサニワは感じ取っていた。


「あたし、ドリュウズの気持ちがわかってあげられるように、もっともっと勉強するね! だから、もう少しだけ我慢してね! ……大好きよ、ドリュウズ‼︎」


 ドリュウズを抱きしめるアイリス。彼女も腕の中のドリュウズも、二人の顔は太陽のように眩しく輝いていたのだった。
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