第20話
長閑な昼下がり。サトシたち一向は、ライモンシティへ向けて進んでいた。
サニワの体調は回復したものの、最近は専らビリジオンの背に乗って移動することが多い。今もサニワはビリジオンの背に乗り、彼女の膝の上にこんのすけがちょこんと行儀よく乗っている。
そんな中、ドラゴンバスターのラングレーと名乗る少女が、サトシたちの目前に現れ、アイリスに対してバトルを仕掛けてきた。
以前、アイリスの出身地である竜の里を訪れたラングレー。そこで手持ちのポケモンがフルボッコにされたらしい。それ以来、竜の里出身のトレーナーを倒すのが趣味になったそうだ。
「……子どもねぇ」
「そうよ子どもよ!」
あまりの迫力に髪の中からキバゴが零れ落ち、ビリジオンもサニワたちが乗っているのも忘れ威嚇する。落馬こそしなかったが、ビリジオンは警戒を緩めない。
ラングレーの挑発にまんまと乗ったアイリスは、彼女とのバトルを引き受けた。両者が睨み合い、火花が迸った。
開けた場所へ移動すると、早速ラングレーはツンベアーを繰り出した。対するアイリスはキバゴで応戦するらしい。
サニワはツンベアーを見て、人知れず眉間に皺を寄せた。
ポケモン勝負は、采配を振るうトレーナーの手腕に委ねられるものといえど、ポケモン自身の力量もものを言う。あのツンベアーとはキバゴとレベル差がかけ離れている上、何より相性も最悪だ。
この勝負、アイリスは負けてしまうかもしれない。サニワはそう危惧していた。
「キバゴ、引っ掻く攻撃!」
「ツンベアー、切り裂くよ!」
サニワの不安を予言するように、キバゴは果敢にツンベアーへ突撃していく。だが、ツンベアーは切り裂くで払い退けた。さらに畳み掛けるように効果抜群の氷柱落としが命中し、キバゴの体力はもう残り少ない。
冷凍ビームと竜の怒りが炸裂するも、相性と威力は格段にツンベアーが勝っていた。押し負けたキバゴに冷凍ビームが直撃し、小さな爆発が起きる。煙が晴れると、キバゴは地面に倒れていた。
「キバゴ戦闘不能! ラングレーの勝ち!」
「もう終わり? 楽勝すぎてつまんなーい。ねぇ、次のドラゴンタイプを出してよ」
ラングレーの心ない言葉に、アイリスは唇を噛み締める。サニワは心配そうにアイリスへ駆け寄り、キバゴに治療を施した。
「……アイリス……ドラゴン、キバゴ、だけ」
「え? マジで? 本当にドラゴンマスターを目指してるわけ?」
「……アンタには関係ないでしょ」
「はぁ? なーんだ。竜の里出身ってこの程度か。ガッカリね」
ラングレーに言われっぱなしのアイリスが、サニワの目にはホップと重なった。彼もまた、ジムチャレンジに参加した時に、現アラベスクタウンジムリーダーのビートに色々と言われ、心に傷を負ったのだ。
あまり言葉が過ぎるように思えたサニワが、ラングレーを見据えた、その時だった。
「……ドラゴンタイプじゃないけど、ツンベアーに負けないポケモンなら持ってるよ」
「えー? でもドラゴンタイプじゃなきゃ興味ないな」
「怖いなら逃げてもいいけど?」
先ほどのラングレーのように、アイリスは挑発する。サニワはただ彼女たちの動向を見守ることしかできなかった。
ラングレーとアイリスのバトルが、再び幕を開ける。ラングレーはツンベアーを続投するのに対し、アイリスが繰り出したのはドリュウズだ。
ドリュウズは地中に潜る形態のまま、地面へ突き刺さる。まだ心を開いていないようだ。その状態のドリュウズを見たラングレーは、やる気があるのかと憤る。アイリスは畳み掛けるように挑発した。
「ドリュウズはツンベアーがあんまり弱そうだから寝てるのよ!」
「はぁ? ツンベアー、切り裂くで起こしてあげて」
ツンベアーの鋭い爪の一撃は、ドリュウズの身体をいとも簡単に投げ飛ばした。それにより覚醒したドリュウズはツンベアーへ向かっていく。
「ドリュウズ、まずは穴を掘るよ!」
しかしアイリスの指示を聞かず、ドリュウズが放った技はメタルクローだった。無数の氷柱が襲いかかるも、ドリュウズは粉々に粉砕していく。冷凍ビームも穴を掘るで回避し、見事にツンベアーの懐へ突っ込んだ。
だが、最後はドリルライナーで止めを刺そうと向かっていくドリュウズに、格闘技の岩砕きが炸裂した。ドリュウズの身体は岩に叩きつけられ、地面へ岩もろとも崩れ落ちる。
ドリュウズは悔しそうに地面に拳をぶつけるが、駆け寄ったアイリスの姿を見た途端に閉じこもってしまった。
「どうしたの? 試合放棄?」
「……えぇ。あたしの負けよ」
「なーんだ。偉そうなこと言っておいて、超弱いじゃない。トレーナーの指示も聞かず、勝手に戦ってるだけだし」
ドリュウズをボールへ戻すアイリスの表情は、霧がかかってるかのように翳っていた。そんな彼女へ追い討ちするかのように言葉を残すと、ラングレーは立ち去っていく。
「アイリス、大丈夫か?」
「随分スパイシーな事を言われてたけど……」
「あたしは平気よ。それよりドリュウズが心配。あの時と同じ技で負けちゃったから」
「……あの、時?」
「岩砕き。初めてポケモンバトルで負けたの。それからなの、ドリュウズが閉じこもっちゃったのは」
アイリスの話を聞くため、デントはロズレイティーを淹れる。ゆらゆらと揺蕩う紅茶の水面には、いつものような輝く笑顔ではなく、しょんぼりと元気をなくしたアイリスの顔が浮かんでいた。
サニワの体調は回復したものの、最近は専らビリジオンの背に乗って移動することが多い。今もサニワはビリジオンの背に乗り、彼女の膝の上にこんのすけがちょこんと行儀よく乗っている。
そんな中、ドラゴンバスターのラングレーと名乗る少女が、サトシたちの目前に現れ、アイリスに対してバトルを仕掛けてきた。
以前、アイリスの出身地である竜の里を訪れたラングレー。そこで手持ちのポケモンがフルボッコにされたらしい。それ以来、竜の里出身のトレーナーを倒すのが趣味になったそうだ。
「……子どもねぇ」
「そうよ子どもよ!」
あまりの迫力に髪の中からキバゴが零れ落ち、ビリジオンもサニワたちが乗っているのも忘れ威嚇する。落馬こそしなかったが、ビリジオンは警戒を緩めない。
ラングレーの挑発にまんまと乗ったアイリスは、彼女とのバトルを引き受けた。両者が睨み合い、火花が迸った。
開けた場所へ移動すると、早速ラングレーはツンベアーを繰り出した。対するアイリスはキバゴで応戦するらしい。
サニワはツンベアーを見て、人知れず眉間に皺を寄せた。
ポケモン勝負は、采配を振るうトレーナーの手腕に委ねられるものといえど、ポケモン自身の力量もものを言う。あのツンベアーとはキバゴとレベル差がかけ離れている上、何より相性も最悪だ。
この勝負、アイリスは負けてしまうかもしれない。サニワはそう危惧していた。
「キバゴ、引っ掻く攻撃!」
「ツンベアー、切り裂くよ!」
サニワの不安を予言するように、キバゴは果敢にツンベアーへ突撃していく。だが、ツンベアーは切り裂くで払い退けた。さらに畳み掛けるように効果抜群の氷柱落としが命中し、キバゴの体力はもう残り少ない。
冷凍ビームと竜の怒りが炸裂するも、相性と威力は格段にツンベアーが勝っていた。押し負けたキバゴに冷凍ビームが直撃し、小さな爆発が起きる。煙が晴れると、キバゴは地面に倒れていた。
「キバゴ戦闘不能! ラングレーの勝ち!」
「もう終わり? 楽勝すぎてつまんなーい。ねぇ、次のドラゴンタイプを出してよ」
ラングレーの心ない言葉に、アイリスは唇を噛み締める。サニワは心配そうにアイリスへ駆け寄り、キバゴに治療を施した。
「……アイリス……ドラゴン、キバゴ、だけ」
「え? マジで? 本当にドラゴンマスターを目指してるわけ?」
「……アンタには関係ないでしょ」
「はぁ? なーんだ。竜の里出身ってこの程度か。ガッカリね」
ラングレーに言われっぱなしのアイリスが、サニワの目にはホップと重なった。彼もまた、ジムチャレンジに参加した時に、現アラベスクタウンジムリーダーのビートに色々と言われ、心に傷を負ったのだ。
あまり言葉が過ぎるように思えたサニワが、ラングレーを見据えた、その時だった。
「……ドラゴンタイプじゃないけど、ツンベアーに負けないポケモンなら持ってるよ」
「えー? でもドラゴンタイプじゃなきゃ興味ないな」
「怖いなら逃げてもいいけど?」
先ほどのラングレーのように、アイリスは挑発する。サニワはただ彼女たちの動向を見守ることしかできなかった。
ラングレーとアイリスのバトルが、再び幕を開ける。ラングレーはツンベアーを続投するのに対し、アイリスが繰り出したのはドリュウズだ。
ドリュウズは地中に潜る形態のまま、地面へ突き刺さる。まだ心を開いていないようだ。その状態のドリュウズを見たラングレーは、やる気があるのかと憤る。アイリスは畳み掛けるように挑発した。
「ドリュウズはツンベアーがあんまり弱そうだから寝てるのよ!」
「はぁ? ツンベアー、切り裂くで起こしてあげて」
ツンベアーの鋭い爪の一撃は、ドリュウズの身体をいとも簡単に投げ飛ばした。それにより覚醒したドリュウズはツンベアーへ向かっていく。
「ドリュウズ、まずは穴を掘るよ!」
しかしアイリスの指示を聞かず、ドリュウズが放った技はメタルクローだった。無数の氷柱が襲いかかるも、ドリュウズは粉々に粉砕していく。冷凍ビームも穴を掘るで回避し、見事にツンベアーの懐へ突っ込んだ。
だが、最後はドリルライナーで止めを刺そうと向かっていくドリュウズに、格闘技の岩砕きが炸裂した。ドリュウズの身体は岩に叩きつけられ、地面へ岩もろとも崩れ落ちる。
ドリュウズは悔しそうに地面に拳をぶつけるが、駆け寄ったアイリスの姿を見た途端に閉じこもってしまった。
「どうしたの? 試合放棄?」
「……えぇ。あたしの負けよ」
「なーんだ。偉そうなこと言っておいて、超弱いじゃない。トレーナーの指示も聞かず、勝手に戦ってるだけだし」
ドリュウズをボールへ戻すアイリスの表情は、霧がかかってるかのように翳っていた。そんな彼女へ追い討ちするかのように言葉を残すと、ラングレーは立ち去っていく。
「アイリス、大丈夫か?」
「随分スパイシーな事を言われてたけど……」
「あたしは平気よ。それよりドリュウズが心配。あの時と同じ技で負けちゃったから」
「……あの、時?」
「岩砕き。初めてポケモンバトルで負けたの。それからなの、ドリュウズが閉じこもっちゃったのは」
アイリスの話を聞くため、デントはロズレイティーを淹れる。ゆらゆらと揺蕩う紅茶の水面には、いつものような輝く笑顔ではなく、しょんぼりと元気をなくしたアイリスの顔が浮かんでいた。