第1話
サニワはブラッシータウンの駅中で、ベンチに腰掛けて、人を待っていた。かれこれ1時間以上待っている彼女は、相当手持ち無沙汰なのか足をぷらぷらとぶらつかせている。
元々百二十センチにも満たない背の低い彼女のその様子は、まさに無邪気な子ども。だが、彼女はこのガラル地方でチャンピオンを務め、その強さは『天使』と称されるほど英雄扱いを受けていた。
「サニワちゃん、ごめんねー! 遅くなっちゃった!」
「ご心配なく。こちらも今到着したところです」
待ち人の名はソニア。ダイマックスを研究していたマグノリア博士の孫であり、見た目は派手だが聡明な女性だ。以前は前チャンピオン・ダンデの良きライバルであったが、今はガラル地方の博士として名を馳せている。
ようやく訪れた待ち人の登場に、審神者の肩に乗っているこんのすけと名乗る妖狐はピンと耳を立てた。
それの主人である彼女は基本的に無表情で、口角も全く上がっていないし、何も声に出さなかった。
「ソニアさま……ソニア博士? どうなさいました? お身体が優れないのであれば、また別の機会に」
「大丈夫よ、平気平気! 何でもないわ! さ、今日はとことん遊びましょ!」
ソニアは満面の笑みを浮かべると、サニワの小さな手を握って立たせ、自身の研究所へ連れて行く。
そして来客用の席へ彼女を座らせると、エンジンシティのカフェから取り寄せたというお気に入りのケーキを冷蔵庫から取り出し、彼女の前へ配膳した。
「さ! サニワちゃん、甘いもの好きだったでしょ? ジムリーダーのサイトウさんも、ここのケーキはオススメだって!」
「……ありがと、ござい、ます」
サニワはアブリボンの鳴くような、囁くような声で礼を告げた。それでもしっかりとソニアの耳には届いたようだ。
ソニアはケーキを口へ運ぶサニワをニコニコと眺めている。相変わらずの無表情だった。
「どう? 美味しい?」
無言で頷くサニワ。ちゃんと質問は返すが、彼女から話しかけることは滅多にない。感情が表に出ることは滅多にないため、余程のことがない限りは、連れの妖狐が代弁する。
彼女が感情を露わにするのは、サニワの前任のチャンピオン・ダンデ、そしてガラルのトップジムリーダーと称されるキバナと対峙する時だけ。しかも、怒り狂った獣のような、憎悪に満ちた顔だ。
だが、普段のサニワは触れれば壊れてしまいそうな、精巧に作られたビスクドールのような、儚げな容姿。その全く異なる二面性が、ファンにはとても堪らないらしい。
そんな人形のような少女へ、ソニアは嬉々として喋りかける。対する彼女は、小さく頷きを返すだけだった。
「この間、学会で知り合った博士がイッシュ地方で研究をしている女の人だったの。その人からね、良ければどうぞってチケットを貰っちゃった! ねぇサニワちゃん、イッシュ地方に行ってみない? 見たことのないポケモンが、きっと沢山いるわ!」
「ですが主さまはこの地方のチャンピオンでいらっしゃいます。この地方に留まらなければいけないと、前チャンプが申しておりましたが」
「別にそこまで気にしなくたって良いんじゃないか?」
「ダンデくん!」
「……お久しぶりです。私たちがよくここにいるとわかりましたね」
「ソニアから聞いたぜ! ここに辿り着くまで相当時間がかかったがな!」
「だろうね……」
豪快に笑い飛ばすダンデは、サニワの前にチャンピオンの座に君臨していた人物であり、最も忌み嫌う人物でもあった。
そんな男が主人の目の前に現れたのだ。こんのすけは唸り声を上げて威嚇する。主人は相変わらず無表情の仮面を被ったままだったが、一気に機嫌が急降下したのは見て取れた。
ところが、そんなあからさまな威嚇も、ダンデには届かない。彼はサニワの横へ腰掛けると、自分で紅茶を注ぎ入れた。
元々百二十センチにも満たない背の低い彼女のその様子は、まさに無邪気な子ども。だが、彼女はこのガラル地方でチャンピオンを務め、その強さは『天使』と称されるほど英雄扱いを受けていた。
「サニワちゃん、ごめんねー! 遅くなっちゃった!」
「ご心配なく。こちらも今到着したところです」
待ち人の名はソニア。ダイマックスを研究していたマグノリア博士の孫であり、見た目は派手だが聡明な女性だ。以前は前チャンピオン・ダンデの良きライバルであったが、今はガラル地方の博士として名を馳せている。
ようやく訪れた待ち人の登場に、審神者の肩に乗っているこんのすけと名乗る妖狐はピンと耳を立てた。
それの主人である彼女は基本的に無表情で、口角も全く上がっていないし、何も声に出さなかった。
「ソニアさま……ソニア博士? どうなさいました? お身体が優れないのであれば、また別の機会に」
「大丈夫よ、平気平気! 何でもないわ! さ、今日はとことん遊びましょ!」
ソニアは満面の笑みを浮かべると、サニワの小さな手を握って立たせ、自身の研究所へ連れて行く。
そして来客用の席へ彼女を座らせると、エンジンシティのカフェから取り寄せたというお気に入りのケーキを冷蔵庫から取り出し、彼女の前へ配膳した。
「さ! サニワちゃん、甘いもの好きだったでしょ? ジムリーダーのサイトウさんも、ここのケーキはオススメだって!」
「……ありがと、ござい、ます」
サニワはアブリボンの鳴くような、囁くような声で礼を告げた。それでもしっかりとソニアの耳には届いたようだ。
ソニアはケーキを口へ運ぶサニワをニコニコと眺めている。相変わらずの無表情だった。
「どう? 美味しい?」
無言で頷くサニワ。ちゃんと質問は返すが、彼女から話しかけることは滅多にない。感情が表に出ることは滅多にないため、余程のことがない限りは、連れの妖狐が代弁する。
彼女が感情を露わにするのは、サニワの前任のチャンピオン・ダンデ、そしてガラルのトップジムリーダーと称されるキバナと対峙する時だけ。しかも、怒り狂った獣のような、憎悪に満ちた顔だ。
だが、普段のサニワは触れれば壊れてしまいそうな、精巧に作られたビスクドールのような、儚げな容姿。その全く異なる二面性が、ファンにはとても堪らないらしい。
そんな人形のような少女へ、ソニアは嬉々として喋りかける。対する彼女は、小さく頷きを返すだけだった。
「この間、学会で知り合った博士がイッシュ地方で研究をしている女の人だったの。その人からね、良ければどうぞってチケットを貰っちゃった! ねぇサニワちゃん、イッシュ地方に行ってみない? 見たことのないポケモンが、きっと沢山いるわ!」
「ですが主さまはこの地方のチャンピオンでいらっしゃいます。この地方に留まらなければいけないと、前チャンプが申しておりましたが」
「別にそこまで気にしなくたって良いんじゃないか?」
「ダンデくん!」
「……お久しぶりです。私たちがよくここにいるとわかりましたね」
「ソニアから聞いたぜ! ここに辿り着くまで相当時間がかかったがな!」
「だろうね……」
豪快に笑い飛ばすダンデは、サニワの前にチャンピオンの座に君臨していた人物であり、最も忌み嫌う人物でもあった。
そんな男が主人の目の前に現れたのだ。こんのすけは唸り声を上げて威嚇する。主人は相変わらず無表情の仮面を被ったままだったが、一気に機嫌が急降下したのは見て取れた。
ところが、そんなあからさまな威嚇も、ダンデには届かない。彼はサニワの横へ腰掛けると、自分で紅茶を注ぎ入れた。
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