灯りのない月光をあなたに
自身がαであるという運命を呪うものは多くない
むしろそれを歓迎し、そうであることを喜ぶものは多い
保乃ちゃんがΩやったら、そんな自分を愛せただろうか。αであった自分を誇って、堂々と保乃ちゃんに思いを伝えられただろうか
もしも、ばかり考える自分にまた一つ嗚咽が漏れる
βとαの交際は珍しいことではない
だから自分も、なんて。期待しているのが気持ち悪くてたまらなくて
邪な目で見ているくせに。友達、みたいな顔で保乃ちゃんの隣に立つ自分を思って。また一つ嗚咽が漏れた
「…ひいちゃん!!」
「うわ、え?」
「もう、絶対聞いとらんかったやん」
「ひかるは好きな人おらんのーって」
保乃ちゃんの声でぼーっとしていた脳が少しずつ動く
相変わらず元気な天ちゃんと保乃ちゃん。話題は恋愛に関してらしくいつにもまして話題は盛り上がりを見せている
「私はそんなん興味ないけ」
夜ごはん時、賑わうファミレスの喧騒に隠れるようにぽつと呟いた
えー、つまらんなぁ?と天ちゃんに同意を求める保乃ちゃんの隣でわかってるとでも言いたげに口角を上げる天
それを見て、「え、ひいちゃんなんか隠してるん」と騒ぎ出す保乃ちゃん
「まあ、ひいちゃんαやしなぁ。引く手あまたやろ」
何でもないように言い放つ保乃ちゃんは保乃たちβやしなあとわざとらしく肩を落として見せる
「私はもてるけどな」という天の言葉にわーわーと移る話題はまた私を取り残す
何にもわかってない、
口をついて出そうになったそれを押し込めて、こみ上げる嗚咽を飲み込む
いつの間にか学校の話題に移った二人がちゃんと話聞いてとこちらを向くから
ごめんごめんと笑いかけるだけで私には精いっぱいだった
「なあ、ひいちゃんほんまに好きな人おらんの?」
満月の浮かぶ帰り道。先ほどの話題を思い出したようにほのちゃんがこちらを向く
「また明日な!」と満面の笑みを浮かべて別れた天と反対の道を私たちは二人で歩く
まん丸に見える月。満月に見えているけれど本当にあれが満月かはニュースを見ないと分かんないよな、とふと思う
「なあ、ひいちゃん!また聞いてへんやろ」
少し怒ったような顔をする保乃ちゃんはそれでも私と話そうとしてくれるから優しいね
「ごめん、聞いてたよ。ほんとにいない。好きな人。…保乃ちゃん。見て、満月かな…きれいやね」
こうやって少しだけ気持ちを混ぜた言葉も、ほんまやなあと月を見上げる保乃ちゃんには飲み込んでもらえなくて
「保乃ちゃんはどうなん、好きな人」って、聞きたくないような、それでもやっぱり興味があるようなその質問を零した
「やっぱりひいちゃん聞いとらん。さっきも保乃話してたんやけど」
「ごめんって」
もう、ってわざとらしく拗ねた顔をする
ころころ変わるその表情が大好き
「さっきはおらんって言ったんやけどな」
おるよ、好きな人
こちらを一瞥もせずに月を見上げたままのあなたが言う
時間が止まったような静寂に何か言わなきゃと思うけれど気の利いた言葉なんて出て来やしない
不思議と痛まない心臓は半ばあきらめていた私の意気地なしの表れで
「誰やと思う?」という保乃ちゃんの残酷な質問にも「天ちゃん?」なんて自分が一番傷つく答えしか出せなくて
「ちゃうよ」
やっとこちらを見た彼女は眉を下げて笑う
潤む彼女の瞳の意味も分からないから
誰なん、と小さな声を絞り出した
雲が月を隠して
月灯りが陰る
眩しいほどに照らされていたはずの彼女の顔は
影のせいか歪んで見える
「ひいちゃんはさ」
吹き抜けた夜風が頬を撫でて
やけに冷たかったそれに身震いするけれど彼女はそんなこと気にも留めていない
「保乃がΩやったら愛してくれた?」
苦しそうに歪む顔を滴る涙
反射的に手を伸ばすとさらに顔がゆがんだ
言葉の意図は解るのに頭が追い付かない私はまた嗚咽を飲み込むようにごめんを絞り出した
歪んだその顔はただ煌々と街灯に照らされるだけだった
むしろそれを歓迎し、そうであることを喜ぶものは多い
保乃ちゃんがΩやったら、そんな自分を愛せただろうか。αであった自分を誇って、堂々と保乃ちゃんに思いを伝えられただろうか
もしも、ばかり考える自分にまた一つ嗚咽が漏れる
βとαの交際は珍しいことではない
だから自分も、なんて。期待しているのが気持ち悪くてたまらなくて
邪な目で見ているくせに。友達、みたいな顔で保乃ちゃんの隣に立つ自分を思って。また一つ嗚咽が漏れた
「…ひいちゃん!!」
「うわ、え?」
「もう、絶対聞いとらんかったやん」
「ひかるは好きな人おらんのーって」
保乃ちゃんの声でぼーっとしていた脳が少しずつ動く
相変わらず元気な天ちゃんと保乃ちゃん。話題は恋愛に関してらしくいつにもまして話題は盛り上がりを見せている
「私はそんなん興味ないけ」
夜ごはん時、賑わうファミレスの喧騒に隠れるようにぽつと呟いた
えー、つまらんなぁ?と天ちゃんに同意を求める保乃ちゃんの隣でわかってるとでも言いたげに口角を上げる天
それを見て、「え、ひいちゃんなんか隠してるん」と騒ぎ出す保乃ちゃん
「まあ、ひいちゃんαやしなぁ。引く手あまたやろ」
何でもないように言い放つ保乃ちゃんは保乃たちβやしなあとわざとらしく肩を落として見せる
「私はもてるけどな」という天の言葉にわーわーと移る話題はまた私を取り残す
何にもわかってない、
口をついて出そうになったそれを押し込めて、こみ上げる嗚咽を飲み込む
いつの間にか学校の話題に移った二人がちゃんと話聞いてとこちらを向くから
ごめんごめんと笑いかけるだけで私には精いっぱいだった
「なあ、ひいちゃんほんまに好きな人おらんの?」
満月の浮かぶ帰り道。先ほどの話題を思い出したようにほのちゃんがこちらを向く
「また明日な!」と満面の笑みを浮かべて別れた天と反対の道を私たちは二人で歩く
まん丸に見える月。満月に見えているけれど本当にあれが満月かはニュースを見ないと分かんないよな、とふと思う
「なあ、ひいちゃん!また聞いてへんやろ」
少し怒ったような顔をする保乃ちゃんはそれでも私と話そうとしてくれるから優しいね
「ごめん、聞いてたよ。ほんとにいない。好きな人。…保乃ちゃん。見て、満月かな…きれいやね」
こうやって少しだけ気持ちを混ぜた言葉も、ほんまやなあと月を見上げる保乃ちゃんには飲み込んでもらえなくて
「保乃ちゃんはどうなん、好きな人」って、聞きたくないような、それでもやっぱり興味があるようなその質問を零した
「やっぱりひいちゃん聞いとらん。さっきも保乃話してたんやけど」
「ごめんって」
もう、ってわざとらしく拗ねた顔をする
ころころ変わるその表情が大好き
「さっきはおらんって言ったんやけどな」
おるよ、好きな人
こちらを一瞥もせずに月を見上げたままのあなたが言う
時間が止まったような静寂に何か言わなきゃと思うけれど気の利いた言葉なんて出て来やしない
不思議と痛まない心臓は半ばあきらめていた私の意気地なしの表れで
「誰やと思う?」という保乃ちゃんの残酷な質問にも「天ちゃん?」なんて自分が一番傷つく答えしか出せなくて
「ちゃうよ」
やっとこちらを見た彼女は眉を下げて笑う
潤む彼女の瞳の意味も分からないから
誰なん、と小さな声を絞り出した
雲が月を隠して
月灯りが陰る
眩しいほどに照らされていたはずの彼女の顔は
影のせいか歪んで見える
「ひいちゃんはさ」
吹き抜けた夜風が頬を撫でて
やけに冷たかったそれに身震いするけれど彼女はそんなこと気にも留めていない
「保乃がΩやったら愛してくれた?」
苦しそうに歪む顔を滴る涙
反射的に手を伸ばすとさらに顔がゆがんだ
言葉の意図は解るのに頭が追い付かない私はまた嗚咽を飲み込むようにごめんを絞り出した
歪んだその顔はただ煌々と街灯に照らされるだけだった
1/1ページ
