花ある君と
いとちゃんはちゃんと最後まで一緒に幸せになれる人を見つけるんだよ
それが母の口癖だった
「うん!いとちゃん王子様と結婚するの!」
「ふふ、うん、そうだね。…でも、幸せにしてくれるのが王子様とは限らないんよ」
そういって力なく笑った母の顔を私は今もよく覚えている
世界の何も知らなかった私はそうなの?と首をかしげるしかできなくて
そんな私に、大きくなったらきっといとちゃんも分かるよと何かを思い出すようにいう母は寂しそうに目を細めた
懐かしい夢だったな、と窓から差し込む白い光に目を細めた
時計の針は7:30を示して、早く準備しなくちゃとあくびをこぼす
顔を洗って歯を磨いて、忙しなく動くうちにかんかんとローファーが階段を上る音が聞こえて
ピンポンと来客を知らせる昔ながらのチャイムは多分美青が来たことを知らせて、はーいとドア越しに声をかければ的野です。なんて返ってくる
なんで敬語なのかもわからないけれどうちにはモニターとかがないから開ける前にちゃんと確認してって美青が怒るから
いつもこのやり取りをするのが私たちのルーティーンだった
高校に入って独り暮らしを始めた私を毎朝迎えに来てくれる美青は高校の同級生であり、幼稚園の時の幼馴染でもあった
途中で引っ越した美青ともう会えないと思っていたのが、まさか高校で再会するなんて思ってもみなくて
少し背伸びした高校に入ってよかったと、過去の自分を何度褒めたかわからない
身長が伸びてすらっとスタイルのいい美青
純葉も背が高いほうだと思っていたのにもっと背が高くて、いつ見てもきれいやなと惚れ惚れしてしまう
「ごめん!遅くなって」
「いつもでしょ」
ふっと笑ってほら行こ?と手を差し出すのは誰にでもやっていると分かっていてもやっぱり少しくらいはときめくんよ?
ぱたんと閉まる扉の音が、ガチャとなる鍵の音がいつもより軽快なのはきっと気のせい
「そういえば美青の検査結果そろそろやないん?」
「あー、今日出るって言ってた気がする」
私たちの代は第二の性であるdomとsubの検査が今年で、誕生日を迎えた人から行われる
ほとんどの人はどちらでもなくて、クラスの10%くらいがどちらかに該当するらしい
特に両親のどちらかがバース性を持っていると該当しやすいとか担任がけだるそうに説明していたのを思い出す
純葉の検査はもう終わっていて、subであった
両親がdomとsubであったため特段驚くわけでもなく、そうなんやくらいの感覚
自分に虐められたいとか庇護されたいとか、そういう欲があるなんて信じられんけど
でも何となく美青には言いづらくてまだ伝えていない。美青のがわかったらその時に言おうって、そう思っていた
美青が特に聞いて来ないのは、優しさからかそれとも単純に興味がないのか
分からないけれどそれをいいことにうやむやにしていた
domだったわ
連絡が入ったのはちょうどお昼を食べていた時
美青は実家暮らしでお弁当があるからお昼はいつも別でとっていた
出そうになった声にぐっと唇を噛んで、口の中のご飯を飲み込む
そうだったんや
あくまで冷静を装って文字を打つ
震える指先は何度も打ち間違えて、ようやく送ったときにはもう美青は見ていなかったようで
既読のつかない画面をそっと閉じる
美青が、dom
甘美なようにも聞こえるし、またそれは今までの関係性が崩れる予感のする響きでもある
実は、純葉subだったんよね
伝えようと思っていたその一言は言えないままで
メッセージに打ち込んでも送れないまま、その日が終わっていった
なんでこんなん参加せんといけんのじゃろ
心の中で悪態をつきながら白い息を吐いて学校へと向かう
ちょっと厚着しようと着てきたダウンは結局寒いならゴワゴワと邪魔なだけだ
domとsubが判明した人たちは年末に行われる講習会に参加しないといけない
ヒートのこととかコマンドのこととか、基本的な説明を受けるらしい
何も休日にやらんくても
「うわ、やば」
余裕を持って出たつもりだったけれど、やけに信号に引っかかったこともあって意外と時間が迫っている
急がんと
見慣れた通学路を小走りで抜ける
頬を撫でる寒風は身を震わせるほどに冷たかった
「3年2組の向井です」
切れた息を整えて
指でなぞられる名簿に目を移す
「向井さんはsubなので視聴覚室に向かってください」
そう説明するお姉さんからパンフレットのようなものを受け取る
「え、純葉」
聞きなれた声が名前を呼ぶ
その声にすぐに反応できなかった思考は徐々に理解力を取り戻して
そうやった、domってことは美青も
「み、お」
「純葉subだったの」
「え、あ、ごめん!遅れちゃうけ」
ちょ、純葉と呼ぶ声を背に視聴覚室に向かう
焦ったような、戸惑ったようなその声からは美青がどう思ったかまではわからない
ただ、一瞬見た眉を下げた美青の顔が心臓をえぐるような罪悪感で純葉を潰した
それが母の口癖だった
「うん!いとちゃん王子様と結婚するの!」
「ふふ、うん、そうだね。…でも、幸せにしてくれるのが王子様とは限らないんよ」
そういって力なく笑った母の顔を私は今もよく覚えている
世界の何も知らなかった私はそうなの?と首をかしげるしかできなくて
そんな私に、大きくなったらきっといとちゃんも分かるよと何かを思い出すようにいう母は寂しそうに目を細めた
懐かしい夢だったな、と窓から差し込む白い光に目を細めた
時計の針は7:30を示して、早く準備しなくちゃとあくびをこぼす
顔を洗って歯を磨いて、忙しなく動くうちにかんかんとローファーが階段を上る音が聞こえて
ピンポンと来客を知らせる昔ながらのチャイムは多分美青が来たことを知らせて、はーいとドア越しに声をかければ的野です。なんて返ってくる
なんで敬語なのかもわからないけれどうちにはモニターとかがないから開ける前にちゃんと確認してって美青が怒るから
いつもこのやり取りをするのが私たちのルーティーンだった
高校に入って独り暮らしを始めた私を毎朝迎えに来てくれる美青は高校の同級生であり、幼稚園の時の幼馴染でもあった
途中で引っ越した美青ともう会えないと思っていたのが、まさか高校で再会するなんて思ってもみなくて
少し背伸びした高校に入ってよかったと、過去の自分を何度褒めたかわからない
身長が伸びてすらっとスタイルのいい美青
純葉も背が高いほうだと思っていたのにもっと背が高くて、いつ見てもきれいやなと惚れ惚れしてしまう
「ごめん!遅くなって」
「いつもでしょ」
ふっと笑ってほら行こ?と手を差し出すのは誰にでもやっていると分かっていてもやっぱり少しくらいはときめくんよ?
ぱたんと閉まる扉の音が、ガチャとなる鍵の音がいつもより軽快なのはきっと気のせい
「そういえば美青の検査結果そろそろやないん?」
「あー、今日出るって言ってた気がする」
私たちの代は第二の性であるdomとsubの検査が今年で、誕生日を迎えた人から行われる
ほとんどの人はどちらでもなくて、クラスの10%くらいがどちらかに該当するらしい
特に両親のどちらかがバース性を持っていると該当しやすいとか担任がけだるそうに説明していたのを思い出す
純葉の検査はもう終わっていて、subであった
両親がdomとsubであったため特段驚くわけでもなく、そうなんやくらいの感覚
自分に虐められたいとか庇護されたいとか、そういう欲があるなんて信じられんけど
でも何となく美青には言いづらくてまだ伝えていない。美青のがわかったらその時に言おうって、そう思っていた
美青が特に聞いて来ないのは、優しさからかそれとも単純に興味がないのか
分からないけれどそれをいいことにうやむやにしていた
domだったわ
連絡が入ったのはちょうどお昼を食べていた時
美青は実家暮らしでお弁当があるからお昼はいつも別でとっていた
出そうになった声にぐっと唇を噛んで、口の中のご飯を飲み込む
そうだったんや
あくまで冷静を装って文字を打つ
震える指先は何度も打ち間違えて、ようやく送ったときにはもう美青は見ていなかったようで
既読のつかない画面をそっと閉じる
美青が、dom
甘美なようにも聞こえるし、またそれは今までの関係性が崩れる予感のする響きでもある
実は、純葉subだったんよね
伝えようと思っていたその一言は言えないままで
メッセージに打ち込んでも送れないまま、その日が終わっていった
なんでこんなん参加せんといけんのじゃろ
心の中で悪態をつきながら白い息を吐いて学校へと向かう
ちょっと厚着しようと着てきたダウンは結局寒いならゴワゴワと邪魔なだけだ
domとsubが判明した人たちは年末に行われる講習会に参加しないといけない
ヒートのこととかコマンドのこととか、基本的な説明を受けるらしい
何も休日にやらんくても
「うわ、やば」
余裕を持って出たつもりだったけれど、やけに信号に引っかかったこともあって意外と時間が迫っている
急がんと
見慣れた通学路を小走りで抜ける
頬を撫でる寒風は身を震わせるほどに冷たかった
「3年2組の向井です」
切れた息を整えて
指でなぞられる名簿に目を移す
「向井さんはsubなので視聴覚室に向かってください」
そう説明するお姉さんからパンフレットのようなものを受け取る
「え、純葉」
聞きなれた声が名前を呼ぶ
その声にすぐに反応できなかった思考は徐々に理解力を取り戻して
そうやった、domってことは美青も
「み、お」
「純葉subだったの」
「え、あ、ごめん!遅れちゃうけ」
ちょ、純葉と呼ぶ声を背に視聴覚室に向かう
焦ったような、戸惑ったようなその声からは美青がどう思ったかまではわからない
ただ、一瞬見た眉を下げた美青の顔が心臓をえぐるような罪悪感で純葉を潰した
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